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生後6カ月以内に「百日せき」にかかると重症化の恐れが…。妊婦さんに予防接種を推奨する国も【専門家】

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ベビーベッドの赤ちゃん
※写真はイメージです。
violet-blue/gettyimages

妊娠中に妊婦さんが気をつけなければならない感染症はたくさんあります。今回はその中でも、妊婦さんにあまり知られていない「百日せき(ひゃくにちせき)」について、産婦人科医の倉澤健太郎先生に聞きました。

感染すると、赤ちゃんが重症化する可能性が高い

百日せきは、百日せき菌によって発生する感染症。名前のとおり、激しいせきが続く病気です。とくに生後6カ月以下の赤ちゃんが感染すると、肺炎やけいれん、脳炎などの重い合併症が起きる例もあり、ひどい場合は命にかかわることもあります。また、何度もかかる可能性がある感染症です。

赤ちゃんはママのおなかにいるときに免疫が受け継がれますが、実は百日せきの抗体が十分ではない妊婦さんも多くいます。一方、生まれた赤ちゃんは、百日せきワクチンを含む「四種混合ワクチン」(ジフテリア、百日せき、破傷風、ポリオの4種を予防)の接種が推奨されています。ただ、接種できるのは生後2カ月以降。そのため、それ以前の乳児が百日せきに感染するリスクがあります。

新生児期に百日せきにかかったゆうくん

ゆうくん(仮名)は、3712gで生まれ、おっぱいをしっかり飲む、元気な赤ちゃんでした。産院退院後は、1才半のお兄ちゃんと一緒にママの実家へ里帰り。実家にはママの両親と妹が住んでおり、週末にはパパが会いに来てくれ、にぎやかに過ごしていました。

生後3週間が過ぎて、ママはゆうくんがせきをしていることに気づきました。母乳もよく飲み、せき以外は体調が悪そうに見えなかったのですが、夜中にとくにひどくせきをし、母乳を飲むために乳首をくわえるのも苦しそう。この月齢の赤ちゃんはあまり風邪をひかないということを聞いていたので、風邪ではない、別の病気を心配しました。

しばらく様子を見ましたが、治る気配がなかったので、せきが出た2日後、出産した病院の小児科へ連絡。様子を伝えると、すぐに来るように言われました。病院では、小児科の先生から「いつからせきが出始めたか」「どのようなせき(音)だったか」という質問をされ、検査の結果、「百日せき」と診断されたのです。

熱はなく、症状は主にせきだけですが、とても苦しそうで…

症状は主にせきだけですが、コンコンというせきが10秒ほど続きます。せきをしている間は呼吸ができないので、顔を真っ赤にしてとても苦しそう。せきが治まるとやっと呼吸ができ、息をヒューと吸い込みます。とても、特徴のあるせきです。

ゆうくんは抗生物質(抗菌剤)やせき止めの薬を処方され、2週間ほどで症状が落ち着いてきました。それでもせきは、小さな体の赤ちゃんにとって大きな負担。とても苦しそうで、かわいそうで、ママは心配でたまりませんでした。また、せきは夜間にひどくなり、看病する親としても肉体的、精神的につらいものでした。

あとからママは、百日せきは重症化すると、肺炎や低酸素性脳障害などの合併症を引き起こしたり、新生児では呼吸ができずに死亡したりする病気だと知りました。ゆうくんは入院もせずに比較的、症状が軽く済み、とても幸運でした。

ゆうくんの百日せきは治りました。その後、とくに大きな病気もなく、来年は小学生になります。ママは、あのときの苦しそうなせきを思い出すたびに、予防できる病気にはかからないようにしてあげたいと考え、受けられるワクチンはすべて打っています。

最近になって、百日せきは大人から子どもにうつることもあると知りました。当時、自宅で過ごしていたゆうくんがなぜ感染したのかはっきりしなかったのですが、家族、あるいは周囲の大人からうつって百日せきにかかってしまったのかもしれません。ママは、病気にかからないために、予防接種は重要であるとは理解していました。でもそれ以上に、まだワクチンを受けられない生まれたばかりの赤ちゃんを守るためにも、また他人にうつさないためにも、予防接種はより重要だと痛感しました。

百日せきは、知らず知らずに大人から子どもに感染する

百日せきは免疫がまだ弱い子どもの病気、というイメージをもっている人も多いと思います。たしかに感染者の大多数は小中学生世代。ですが、大人でも感染します。日本ではほとんどの人が赤ちゃんの時期に百日せきの予防接種をしますが、免疫効果は3~4年で弱まってきます。抗体価が十分ではない大人が感染し、発症することもあるのです。国立感染症研究所によると、患者に占める成人の割合は30%以上にのぼりました(2020年の報告※)。

大人の場合、感染してもせきが長引く程度で、ただの風邪と見過ごされることも。そのため、実際はもっとたくさんの人が感染している可能性もあります。百日せきは感染力が強いため、知らないうちに大人から子どもへ感染させてしまうことも多いのです。

赤ちゃんを守るために大人も「百日せき」の予防接種を

あまり知られていませんが、大人でも百日せきのワクチンが入った混合ワクチンを接種することができます。実はこのワクチンは、妊婦さんも接種可能。近年、周囲の大人が感染源となり、家族やワクチン未接種の乳児に感染し、ときに重症化する例が問題になってきました。そのため、アメリカやイギリスでは妊娠中の感染予防と、おなかの赤ちゃんへの抗体移行を期待して、妊婦さんにも予防接種を推奨しており、結果として生後3カ月未満の赤ちゃんの百日せき感染が減ったという報告もあります。

「今後は日本でも、妊婦さんへの百日せきの予防接種を推奨する流れになると考えています。これから生まれてくる赤ちゃんを守るためにも、ぜひ周囲の大人も感染予防に努めていただきたいです」(倉澤先生)

■情報提供:NPO法人VPDを知って、子どもを守ろうの会

※ 国立感染症研究所 百日せき 「感染症発生動向調査:2021年1月8日現在届出数」より

監修/倉澤健太郎先生

取材・文/樋口由夏、たまごクラブ編集部
※記事の内容を一部修正しました(2023年3月)

今回、紹介した百日せきのように、新型コロナウイルス以外の感染症にも注意したいものです。手洗い、マスク、人込みを避けるなど、日常の感染対策も予防のためには重要。周囲の大人がしっかり意識して、子どもたちや赤ちゃんを守っていきたいですね。

※記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

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