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「無痛分娩」を検討する妊婦さんに伝えたいこと8つ。メリット・デメリットも【麻酔科医】

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妊娠中の女性と病院の医師
●写真はイメージです
takasuu/gettyimages

無痛分娩を検討している妊婦さんのなかには、基本的な知識はあっても、実際にどんなものなのかよくわからないままでいる人も多いのではないでしょうか。今回は、産科麻酔を専門としている麻酔科の専門医が妊婦さんに伝えたいことを、8つにまとめて解説します。

【1】 無痛分娩=痛みがまったくない出産、ではない

無痛分娩で痛みを感じる理由は大きく2つあります。1つは、硬膜外鎮痛(麻酔)をするために入れているカテーテルと呼ばれる細い管が、適切な位置に入っていない場合。
2つ目が、お産の進行と麻酔のバランスが崩れて、痛みのほうが強くなった場合です。お産が進むなかで、陣痛のほうが麻酔よりも勝ってしまうタイミングがきたときは、痛みを感じることがあります。その場合、硬膜外鎮痛薬(麻酔薬)を増やすなどの対応をします。

そもそも無痛分娩=無感覚分娩ではありません。痛みの感じ方は人それぞれですが、お産が進むにつれて子宮が収縮する感覚や、赤ちゃんが骨盤に下りてくることによる、おしもの圧迫感のようなものはあります。私たち医師から見れば麻酔が効いていて問題なくても、妊婦さんのなかには不快や苦痛を感じることもあるでしょう。もしも不快や苦痛を感じたら、遠慮なく伝えてください。

【2】赤ちゃんを産み出す感覚はある

無痛分娩のとき、「麻酔によっていきむ力が弱くなる」といわれることがあります。無痛分娩で一般的に使われているのは、濃度の低い局所麻酔薬です。ですから、赤ちゃんを産み出す感覚はわかります。

神経には感覚神経と運動神経があります。現状、痛みを感じる感覚神経のほうだけブロックする麻酔薬はありません。ですから、低い濃度の薬であっても、使用すればどうしても感覚神経だけでなく運動神経にも影響が出てくるため、下半身に力が入りづらくなることがあります。

【3】無痛分娩のメリットとデメリットを理解する

【メリット】
最大のメリットはお産の痛みが軽くなることです。それによって、妊婦さんの疲労が少なかった、産後の回復が早かったという声もよく聞きます。また、会陰切開などの産後の処置をするときも麻酔が効いているため、スムーズに行えます。さらに持病を持っている妊婦さんの場合、帝王切開を避けて、お産を安全に管理できるメリットもあります。

【デメリット】
麻酔に関連する副作用や合併症が起こることがあります。具体的には血圧が下がる、尿意を感じにくくなる、顔や体がかゆくなる、熱が高くなる、産後に頭痛を起こすなどです。ただ、これらはすべてあらかじめわかっている副作用なので、対策もあります。あまり心配しないようにしましょう。

【4】無痛分娩で起きる可能性のある、体のトラブルを知っておく

頻度はとても低いですが、無痛分娩では麻酔の処置を行う際のトラブルによって大きな合併症が起こることがあります。

無痛分娩の硬膜外鎮痛(麻酔)では、背中から硬膜外腔にカテーテルを入れます。ところが、硬膜外に入れるはずの麻酔薬が誤ってもう少し奥の脊髄くも膜下腔という狭い背中の空間に入ってしまうことがあります。脊髄くも膜下腔に入ると、麻酔薬がより早く、より強力に効いてしまいます。そのため、足が動かなくなったり、血圧が急激に下がってしまったり、場合によっては意識を失ってしまったりすることがあります。

もう1つが、麻酔薬が血管に入ってしまうというもの。麻酔薬が血管に入るだけでは鎮痛効果がないため、痛みがとれません。誤って血管に入ったことに気づかず、鎮痛効果がないからと薬をたしてしまうと、局所麻酔薬中毒症状を起こし、脳や心臓に影響を及ぼすことがあります。

とはいえ、麻酔を扱う医師はこのようなことがないように細心の注意を払って処置を行っているので、合併症が起こる可能性は非常にまれです。万が一、このようなトラブルが起こったとしても、早期発見できるように安全対策を行っています。すぐに適切な処置をすれば、後遺症が出るなど重大な影響を及ぼすことはまずありません。

【5】 無痛分娩は計画分娩になることが多い

無痛分娩を希望した場合、計画分娩となる医療施設が多いでしょう。それは、無痛分娩のための医療スタッフの確保や、日中の安全な時間帯に出産できるなど、安全に医療を提供するためです。計画分娩を行う場合は、人工的に子宮収縮を起こして陣痛を誘発するために陣痛促進剤を使うという医療介入が必要になります。こうして分娩が進むのを待ちますが、初産婦さんの場合、陣痛誘発を行っても有効な陣痛が来ない場合もあります。陣痛促進剤の効き目が弱い場合は、投与を増やす、薬の種類を変えるなどして対処します。

一方、自然な陣痛が始まってから麻酔をする場合もあります。陣痛誘発のための医療介入をしないで済むメリットもありますが、麻酔をしたら陣痛が弱まったというケースも少なくありません。結果として、陣痛促進剤を使用することもあります。また、医療スタッフの少ない夜間や休日に陣痛が来た場合は、無痛分娩のための人員確保が難しいという問題もあります。

【6】 無痛分娩の安全を担保するための取り組みが行われている

2017年に起こった無痛分娩の医療事故を始め、無痛分娩で母子が亡くなった、後遺症が出たというニュースが大きく取り上げられたことで、無痛分娩=怖いというイメージを持っている人がいるかもしれません。

ニュースになってしまうと、事故の割合が高いと誤解をされがちですが、無痛分娩だからといって死亡率が高くなるわけではありません。実際、2010年1月から2016年4月までのデータによると、無痛分娩をした妊産婦さんとそれ以外の妊産婦さんの比較で、死亡率に差はありませんでした(2017年11月/日本産婦人科医会発表)。

無痛分娩の安全を担保するため、さまざまな取り組みも行われています。2018年、厚生労働省が主導となりJALA(無痛分娩関係学会・団体連絡協議会)が発足しました。そこでは定期的に医療施設の実態調査を行い、その結果を公表しています。また、無痛分娩の安全性を伝えたり、情報公開に積極的に取り組んでいる、全国の無痛分娩を扱う施設の紹介などもしています。

そのほか、母子健康手帳には、「無痛分娩について」という記載が追加され、厚生労働省「無痛分娩について」と日本産科麻酔学会「無痛分娩Q&A 」のURLを紹介し、知識の普及に努めています。

厚生労働省「無痛分娩について」

【7】 無痛分娩を行っている施設を選ぶポイント

当たり前のことですが、無痛分娩について正しい知識と経験がある医師がいる施設を選びましょう。具体的な選び方のポイントを紹介します。

産院のホームページなどを見て、無痛分娩の説明内容をチェックする

ホームページ内の無痛分娩の説明がよくわかるように書いてあるかどうかは一つのポイント。また、その内容が産科麻酔学会の「無痛分娩Q&A 」の内容とズレがないかどうかも重要です。

産科麻酔学会の「無痛分娩Q&A 」

無痛分娩の症例数を、ホームページまたは直接問い合わせてチェックする

無痛分娩の症例数が多い=経験値が高いことになります。無痛分娩の経験が多い医師にお願いすることは、安心材料になります。

万が一のときの搬送先や、バックアップ体制が整っているかをチェックする

何かトラブルがあったとき、総合病院など大きな病院では対応することができますが、クリニックなど規模が小さい病院では対応が難しくなることも。万が一のとき、バックアップ体制が整っていることが重要です。トラブルが生じた際、どの病院に搬送されるのか、妊婦健診のときなどに確かめておきましょう。

【8】医療スタッフとのコミュニケーションを大切に

無痛分娩の不安を解消するためにも、麻酔をうまくコントロールしてもらうためにも、医療スタッフとのコミュニケーションを大切にしましょう。

無痛分娩を検討している妊婦さんによく見られるのが、「何がわからないのかわからない」ことです。基本的にはどんなことでも聞いてほしいのですが、私たち産科麻酔を専門とする麻酔科医は、まず「今、無痛分娩をしたい気持ちが何%くらいあるか」を尋ねることがあります。「絶対に痛いのは嫌」なのか、「ある程度、痛いのは我慢できる」のかなど、自分の希望を明確にしておくといいでしょう。また、「どういうタイミングで無痛(麻酔)を始めたいか」も考えておきましょう。もしあとから聞きたいことが浮かんできた場合は、忘れずにメモしておき、妊婦健診のときなどに医師や助産師に聞いておくといいでしょう。

次に実際に無痛分娩をスタートしてからのコミュニケーションについてです。痛みの感じ方には個人差があります。どのくらい痛いかを伝えたいとき、0〜10までの段階に分け、数値化して伝えるとわかりやすいです。痛みは決して我慢せず、少しでも気になることや変だなと思うことがあったら、遠慮なく医師や助産師、看護師、麻酔科医に聞きましょう。とくに無痛分娩の最中に脚が動きにくい、気分が悪くなってきたといったことがあれば、すぐに伝えるようにしてください。

監修/日本産科麻酔学会 取材・文/樋口由夏、たまごクラブ編集部

お産は何が起こるかわからないもの。経腟分娩であれ、無痛分娩であれ、帝王切開であれ、100%安全なお産はありません。だからこそ、どんなお産も安心・安全がいちばん優先されるのです。出産するのは妊婦さん本人です。ママ自身の安心のためにも、そして赤ちゃんの安全のためにも、わからないことがあればどんどん伝え、しっかり不安を解消しておきましょう。

監修/一般社団法人 日本産科麻酔学会
1961年に妊娠・出産に関わる麻酔の研究会として発足。麻酔科医と産科医と助産師とが力を合わせて,妊婦さんと赤ちゃんを守るため、様々な情報発信も行っている。

一般社団法人 日本産科麻酔学会

松田祐典先生(まつだゆうすけ)

PROFILE
埼玉医科大学総合医療センター 産科麻酔科 診療部長・准教授、医学博士・日本専門医機構認定麻酔科専門医、日本産科麻酔学会 広報委員長・ツイッター部部長

日向俊輔先生(ひゅうがしゅんすけ)

PROFILE
北里大学病院周産母子成育医療センター産科麻酔部門、医学博士・日本専門医機構認定麻酔科専門医

田辺瀬良美先生(たなべせらび)

PROFILE
東京都立多摩総合医療センター麻酔科、
医学博士・日本専門医機構認定麻酔科専門医

●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

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