体重管理、これは避けたい!妊娠中期以降の「○○しすぎ」は赤ちゃんにリスクが!?

妊娠中の体重管理、苦労している人も多いですよね。実は出産までの体重増加は、妊娠期間トータルで考えるだけでなく、各妊娠時期の増加量にも注意が必要なことはご存じですか?しかも、約10万人の妊婦さんが参加した、環境省の取り組み「エコチル調査」のデータをもとに調べたところ、「体重増加の時期」が低出生体重児や巨大児の出生にかかわりがあるらしいという、気になる結果が出てきました。
★ラストにアンケートご協力のお願いがあります。ぜひ最後までお読みください。
妊娠中期からの体重増加、セーブしようとしたら…




妊娠中期以降の体重増加量が少ないと「低出生体重児」の、多いと「巨大児」の出生リスクが高まる!?
妊娠中の体重増加量は、多すぎても少なすぎても、母子ともにさまざまなリスクと関係があるとされています。代表的なものは、低出生体重児(2500g未満で生まれる赤ちゃん)、巨大児(4000g以上で生まれる赤ちゃん)の出生、ママの妊娠高血圧症候群などです。
とくに日本では、低出生体重児の割合が約40年間で1.8倍ほどに増加※1。子どもの将来の生活習慣病との関連も報告されており(DOHaD説)、問題視されていました。このような状況を受けて2021年、厚生労働省はママと赤ちゃんの長期的な健康のため、「妊産婦のための食生活指針」を改定。以下のように、妊娠中の望ましい体重増加量が示されました。
※1 厚生労働省「人口動態統計」、「低出生体重児保健指導マニュアル」より

★BMIって何?★
身長と体重から計算する「体格指数」のこと。
計算方法はこちら!さっそく自分の場合をチェックしてみて。
【妊娠前の体重(㎏)÷身長(m)÷身長(m)=BMI】
約15年ぶりに新しくなった「妊娠中の適切な体重増加量の目安」。ただ、これは妊娠期トータルでの目安であり、“妊娠時期ごとの体重増加量”については記載がありません。また、それが赤ちゃんの出生体重にどう影響するかは、あきらかになっていませんでした。
そこで、「エコチル調査」の研究チームが、収集データを分析。約10万組の親子を対象に、妊娠時期ごとの体重増加量と赤ちゃんの出生体重の関連を調べたところ、以下のような結果が出たのです。
■妊娠前~妊娠初期の体重増加量は、低出生体重児・巨大児の出生リスクへの影響が小さかった。
■妊娠中期までに体重が減りすぎたり、妊娠中期~出産時の体重増加量が2kg未満だと、低出生体重児のリスクが高まった。
■どの妊娠前BMI群でも、妊娠前半の体重増加量が少ない・多いにかかわらず、妊娠後半の体重増加量が少ないと低出生体重児の、多いと巨大児のリスクを高めていた。
データ対象者の増加パターンを解析すると、妊娠前半で体重が増えなかった、または減ってしまった人は妊娠後半で体重増加が多く、逆に前半に増えすぎた人は、後半の体重増加が少ないこともわかりました。つまり妊婦さんたちは、各妊娠時期よりも妊娠期トータルの体重増加量を重視して、目安体重に近づくように調整しているのではないかと考えられます。
ですが、エコチル調査の研究データによると、トータルでの体重増加量を意識しすぎて、妊娠後半で調整すると、むしろリスクが上昇してしまう可能性も…。これらの結果から、妊娠中の体重増加量は、“妊娠期トータルでとらえるだけでなく、各妊娠時期によって望ましい増加量の目安を持つことが大切”で、とくに“妊娠後半の体重増加量に注意する必要がある”ということが示されました。

【注】この研究は観察研究であり、各妊娠時期のいつごろ測定したデータなのかは、対象者によって異なります。また、産院による体重指導の影響などを示すものではありません。
じゃあ実際、どのくらい体重を増やせばいいの?
研究論文を発表したエコチル調査「甲信ユニットセンター」の内沼裕幸ドクター(山梨大学糖尿病・内分泌内科)は、妊娠中の体重増加量と低出生体重児・巨大児の出生との関連について、以下のような具体例を示しています。今回はクイズ形式で紹介するので、一緒に考えてみてくださいね!
突然ですが、クイズです!
【妊娠前の体重50kg、BMI20(普通体形)のAさんの場合】
Q.妊娠中期のAさん。妊娠初期~中期までに7㎏増加していますが、出産までにあと何㎏増やすのが適切ですか?

この研究論文によると…こちら!
次のグラフは、妊娠前のBMIを4つに分け、妊娠中の体重増加量と低出生体重児・巨大児のリスクとの関連を表したものです。

妊娠初期~中期の体重増加量を横列、妊娠中期~出産時の体重増加量を縦列としています。オレンジは、研究の結果あきらかになった、低出生体重児や巨大児のリスクが1.5倍以上、白は1.5倍未満となる範囲を表します。
まず、Aさんの妊娠前のBMIに該当する部分を赤枠でチェックしました。次に妊娠初期~中期までに+7㎏なので、青枠を見ます。

たとえばAさんが、出産までに+10kgの体重増加を意識して、妊娠中期以降の体重を+3kgに抑えたとします。その場合、グラフの★マークの位置になります。

★マークの枠はオレンジ色なので、低出生体重児または巨大児の出生リスクを上げてしまうことがわかります。
エコチル調査の結果をもとに考えるならば、リスクを上昇させないための妊娠中期以降の体重増加量は、4㎏以上10㎏未満ということになります。
この研究結果の内容と厚生労働省の目安(普通体形BMIの人のトータル目標10~13㎏)を掛け合わせて考えると、Aさんの場合、あと4㎏以上7㎏未満を出産までの体重増加の目安とするのが妥当といえそうです。
【注】このグラフは、エコチル調査参加者のデータをもとにしています。この研究であきらかになった各妊娠時期の体重増加量を目安として、体重管理を行った場合、実際に低出生体重児や巨大児の出生リスクを下げることができるかは今後、検証する必要があります。
【注】この研究で示した体重増加量を無理に達成しようとすることで、血糖コントロールの悪化や塩分摂取量の増加などのリスクもあります。体重増加量の目安はあくまでも推奨値です。主治医と相談しながら目標値を決めていきましょう。
参考・引用論文/日本女性における妊娠中の体重増加量と低出生体重児、巨大児との関連【著:内沼裕幸ら】「Uchinuma, H., et al. International Journal of Obesity. 2021 Dec;45(12):2666-2674.」
エコチル調査とは?

「エコチル調査」とは2010年度(2011年1月)に、環境省によって取り組みが始まった全国調査のこと。環境中の化学物質や生活習慣などと、子どもの成長・発達との関連について調べています。
参加者は約10万組の親子。妊娠中から参加し、赤ちゃんが生まれてからも10年以上、追跡調査が行われてきました。ママや子どもたちが協力してくれた調査データは研究・分析が進められ、多くの論文が発表されています。その結果は、日本だけではなく、世界中の子どもたちの未来にも役立てられていく予定です。
(エコチル調査の参加者募集は、2011年1月から2014年3月に行われました)
協力/環境省
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