「元気に生まれてくるはずだったのに、私のせいで娘に障害が…」後悔は一生消えない~先天性風疹症候群体験談~
妊娠初期に風疹にかかると、どんなリスクがあるか知っていますか?12年前、第2子の妊娠7週目に風疹にかかり、赤ちゃんが「先天性風疹症候群」と診断された経験を持つ西村麻依子さんは、現在「風疹をなくそうの会『hand in hand』」で活動をしています。「『あの人みたいになりたくない』と思われてもいいから、自分の経験を知ってもらって、風疹をなくしたい」。そう語る西村さんに、風疹感染が判明したときのことや妊娠中の悩み、生まれた赤ちゃんの症状、活動のきっかけなどについて聞きました。全2回インタビューの後編です。
生まれた娘は1500g。「先天性風疹症候群」と診断されて…
妊娠初期に風疹に感染し、妊娠34週に緊急帝王切開で出産した西村さん。妊娠12週までの妊娠初期に風疹ウイルスに感染すると、おなかの赤ちゃんは胎内で風疹ウイルスに感染し、目、耳、心臓の障害や、体・心の発達に遅れが出る「先天性風疹症候群(せんてんせいふうしんしょうこうぐん)」という病気になる可能性が高くなります。西村さんの場合、風疹にかかったのは妊娠7週。赤ちゃんが「先天性風疹症候群」になる可能性が高い時期の感染でした。
「生まれた長女・葉七(はな)は出生体重が1500gと小さく、すぐにNICUへ。そして検査の結果、右目の角膜がにごっていて白内障の疑いがあり、さらに出生後は閉じるはずの動脈管が閉じない動脈管開存症(どうみゃくかんかいぞんしょう)があり、先天性風疹症候群と診断されました。医師からは、成長するにつれて、耳にも障害が出る可能性もあると言われました。
本当だったら元気に生まれてくるはずだったのに、私が予防接種をしていなかったために、娘に障害を持たせてしまったと思うと娘に申し訳なかったですし、私自身もつらかったです。後悔は一生続くと思います」(西村さん)
退院後は、定期的にこども病院で診察を受けてはいたものの、葉七ちゃんはすくすくと成長。みんなに見守られながら育ち、今はもう12歳。小学6年生になり、まもなく小学校卒業を迎えます。
「心臓の動脈管開存症は、経過観察をしていましたが、赤ちゃんのうちにふさがりました。耳は6歳まで病院の診察でフォローしてもらっていましたが、おかげさまで難聴の可能性はなくなりました。
白内障の疑いがあった右目ですが、経過観察の結果、白内障も緑内障もありませんでした。でも乱視がひどく、弱視で、斜視があり、小さいころはアイパッチをつけて過ごしていたこともあります。今でも眼鏡をかけていて、経過観察をしていましたが、今年病院での診察フォローも終了しました。
ただ、出生後、脳室が拡大していて、一部石灰化をしていました。1歳までにそれもなくなったのですが、脳室拡大の影響はあって、軽度の発達障害・学習障害があり、小学校は支援学級に通っています。
会話をする分には問題ないのですが、感情のコントロールがうまくできないことがあるので、人間関係が難しいですね。学習面については、小学校6年生ですが、今ようやくかけ算やわり算を頑張っているところ。時計を読むのはなかなか難しいようです。
発達障害について大変なところはありますが、最近は普通の子育てになってきたなぁと感じることもありますね。理解のある人たちに囲まれて、とてもかわいがってもらえて、できないことがあってもフォローのための対策を考えてくれたりして、前向きないい環境で過ごさせてもらっています。
葉七は現在、保育園と連携のあるデイサービスに通っているんですが、そこでの園児さんたちとの交流も刺激になっているようです。葉七は絵を描くのが大好きなので、今年度は全員の顔を描く!と張りきっていて、描いた絵は園児さんや保育士さんはもちろん、親御さんにも見てもらえているそうです。
これからも大変なことや困難はあるかもしれないけれど、自分でやりたいことを、自分の手で見つけてほしいなと思いますね」(西村さん)
「あの人みたいになりたくない」そう思われてもいいから風疹をなくしたい
現在、西村さんは保育士として働きながら、「風疹をなくそうの会『hand in hand』」で共同代表を務めています。この会の主旨は、風疹になった女性や家族への情報提供や、お子さんの交流の場の提供、そして、風疹をなくすために国や自治体、企業などへ風疹対策の提言を行う活動。その活動のきっかけはどんなことだったのでしょうか。
「2012年の風疹がはやり始めていたころに、NHKの記者の方がこども病院に取材の申し入れをしてくださいました。先天性風疹症候群の赤ちゃんが生まれたことについて話を聞きたいと。断ってもいいけどどうする?っていう話を主治医の先生からもらったんです。
そのころ、私も先天性風疹症候群についてもっと知ってもらいたいと思って、妊娠中に風疹に感染した体験をブログに書いていたんですが、全然閲覧数が伸びなくて。どうすれば自分の経験をいろんな人に聞いてもらえるだろうと思っていたので、その取材を受けました。それを見た現共同代表の可児さんから連絡をもらったのが、この活動を始めたきっかけです」(西村さん)
時期的に、風疹が流行していて、先天性風疹症候群の赤ちゃんもどんどん生まれていました。なんとか風疹の流行を止めたいと、当事者同士がつながって始まった活動は、医師も協力して緊急会議を開いたり、厚生労働省に要望書を出したりと、広まっていきました。
「ワクチンを打っても抗体がつかない女性もいる中でどうやって女性を守っていけばいいんだろうと考えたとき、子どものころに風疹のワクチンを打っていない世代(昭和37年4月~54年3月生まれの男性)がかかることで、風疹が流行してしまうというところにたどり着きました。
その世代にどうやって予防接種を受けてもらうかがカギだったので、厚生労働省に話をしに行ったり、対策会議にも参加させてもらったりしてできたのが、昭和37年4月2日〜昭和54年4月1日生まれの男性を対象にした、無料の追加接種クーポンです。
ただ、わざわざそのために医療機関へ行くのは面倒ということもあってかクーポンの利用率は約3割(2024年5月時点)と低く、そのうえ並行してコロナがはやったり、ワクチンの不備があったりで、風疹ワクチンが品薄になってしまい、子どもの定期接種を優先させる関係で、打ちたくても打てない人も出てきたりしている状態で、接種率はなかなか上がっていません。
まもなく、このクーポン配布は終わり、無料で抗体検査などができる期間も終了してしまうのですが、このまま終わってしまったら、この日本から風疹をなくすことにはつながらないので、国にはぜひ次の策を考えてほしいと思っています。今後、万博などもあり、海外からたくさんの人が日本に来ますしね。
私もそうでしたが、危険性はわかっていても、まさか自分が風疹にかかるとは思っていなくて、どこか他人事なんですよね。自分が妊娠するわけでもない独身の男性なら、なおさらだと思います。そんな他人事の人にとって、抗体価を調べるために病院を予約して、低かったらまた別の日に予約してワクチンを打ってという現在のクーポンのシステムは、私が考えても面倒くさいなって思うんですよね。
だから、この手間をどうやって省くかが重要だと思うんです。以前、Jリーグの会場で、特設ブースを開設してもらって無料で風疹の抗体価を調べるイベントを行ったりしたこともありましたし、企業の健康診断の項目の中に入れてもらうとか、企業内接種を実施してもらうとかをお願いしたこともありました。ただ、大企業ではやってくださった会社もあるんですが、小さいところだとなかなかできないですよね。
どうにか手間をなくして、クーポンがなくても抗体価を調べたり、予防接種を受けたりできるしくみがあったらなと思っています」(西村さん)
風疹はワクチン接種で予防できる病気です。みんなが風疹の予防接種を打っていれば、風疹の流行を抑えられるし、悲しい思いをする女性や子どもも少なくなります。西村さんのように、せっかく宿った命に対して中絶をすすめられることもなくなるでしょう。
「私がこの活動を始めたいちばんのきっかけは、私が失敗してしまった経験を知ってほしい、私みたいになってほしくないっていう思いからでした。私が予防接種をしてなかったから、子どもに迷惑をかけてしまったんです。ぜひ私の失敗を知ってもらって『あの人みたいになりたくないよね』と思ってほしい。そして、じゃあどうしたらいいかを考えてほしいんです。
ただ、私が葉七を出産したことは『失敗』ではありませんし、後悔したことは1度もありません。でも、妊娠中に風疹にかかってしまったら、もしかしたら私のようにつらい選択を迫られることがあるかもしれません。だからと言って、すぐに赤ちゃんをあきらめることはないとも思って欲しいんです。おなかの赤ちゃんの様子をしっかり診てもらったり、先天性風疹症候群で生まれてきたけれど楽しく過ごせている子もいるということを知ってもらったりしたうえで、妊娠を継続するかどうかの選択をしてほしいと思っています。
そのためにも私の経験をまずは知ってほしいし、この記事を読んでくださった方にも、ぜひまわりの人に話をしてほしいです。そして、自分が予防接種を打っていない世代に該当していたり、身近な人が該当していたりしたら、ぜひ抗体検査をしてみてほしいし、ワクチンを打ってほしいです。ワクチン1本で風疹から小さな命を守ることができるので、1歩踏み出して、行動してもらえたらなと思います」(西村さん)
お話・写真提供/西村麻依子さん 取材・文/酒井有美、たまひよONLINE編集部
「あの人みたいになりたくないと言われてもいいから、風疹をなくしたい」。西村さんのこの言葉には強い決意を感じます。それだけ予防接種を打たなかったことの後悔が大きいからでしょう。その決意を無駄にしたくない、そう感じるお話でした。風疹のワクチンが含まれているMRワクチンは、2回接種すると効果的と言われます。定期接種の1回目は1歳代、2回目は5歳以上小学校入学前。公費で受けることのできるこの2回の接種は必ず打つこと、そして抗体を持っているかどうかがわからない場合は検査を受ける、妊娠中に抗体価が低いことが判明したら産後入院中に風疹の予防接種を受ける――。私たち1人1人が確実にこなすことが、未来の小さな命を守ることになるのだと強く感じました。
「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指して様々な課題を取材し、発信していきます。
西村麻依子さん
PROFILE
「風疹をなくそうの会『hand in hand』」共同代表。2012年春、妊娠7週目に風疹に感染。同年秋、出産した第2子の長女・葉七ちゃんが「先天性風疹症候群」と診断される。葉七ちゃんの病気と向き合う中で、現在、ともに「風疹をなくそうの会」の代表を務める可児佳代さんと出会い、保育士として働きながら、国や自治体、メディアに対しての風疹対策の提言や、風疹になった女性や家族、お子さんの交流の場や情報の提供を行っている。
参考文献
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●掲載している情報は2025年2月現在のものです。
※記事の内容を一部修正しました(2025年2月)。