知っておきたい! 切迫流産の注意点
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「切迫流産」と聞くと「流産しそうなの?」と不安になりますよね。でも、すべてが“流産しそう”というわけではなく、多くのママは妊娠を継続できます。自己判断は禁物ですが、落ち着いて対処するために知っておきたいポイントについて、産婦人科医の新村朋美先生に伺いました。
切迫流産ってどういう状態?
出血や腹痛があって受診し、医師が「赤ちゃんは元気」と確認すると、「切迫流産」と診断されますが、すべての人が“流産しそう”なわけではありません。
「切迫流産」とは?
妊娠22週未満で、おなかの中から出血があっても正常妊娠している状態を「切迫流産」といいます。腹痛を伴うことも多く、出血はおなかの中だけで腟外に出ない場合もあります。流産と症状は似ていますが、超音波検査で赤ちゃんの心拍が確認できれば「切迫流産」と診断されます。たまごクラブのアンケートではママの16%※が経験しており、決してめずらしいことではありません。
※たまごクラブ特別編集「最新 月数ごとに見てわかる! 妊娠・出産新百科mini」先輩ママ200人DATAより
原因は? 多くが“心配のない出血”
妊娠12週までの流産の原因は、ほとんどが受精卵の染色体異常。誰にでも起こりうることで、ママは何も悪くありません。
そして、切迫流産と診断されてもとくに妊娠12週未満は、すべてが“流産しそう”という意味ではありません。多くが“心配のない出血”なのですが、その出血が“心配のない出血”なのか、“流産しそうな出血”なのか判断が難しいので、出血があっても赤ちゃんが元気ならすべて「切迫流産」という診断名がつくのです。
<妊娠12週未満の「切迫流産」と診断される出血の原因>
(1)受精卵が子宮内膜に入り込みながら胎盤が作られる過程で、子宮内膜の血管がまだ細いので出血しやすくなっている(妊娠が順調でも出血しやすい)
(2)激しい運動・・・胎盤が(1)の状態のため、激しく動くと血管から出血しやすくなっている
(3)絨毛膜下血腫・・・(1)の過程で絨毛膜(赤ちゃんと羊水を包む卵膜の一部)の外側に血がたまっている状態。血腫が大きかったり、血腫の位置によっては注意が必要です
(4)前置胎盤・・・胎盤が子宮口をふさぐような位置にあり出血しやすい。大量出血しないよう注意は必要です
ただし、妊娠12週~21週の切迫流産は原因が上記と異なってきます。ママの感染症や子宮頸管無力症などの可能性もあるので、妊娠12週を過ぎても症状が治まらない場合は、改めて受診するようにしましょう。
こんなときはすぐ産院へ
以下のような出血があったらすぐ産院へ! それ以外の出血は次の妊婦健診まで様子を見ても大丈夫ですが、不安なときは産院に電話してみましょう。
・血の色が鮮血
・出血量が生理2日目以上
・かたまりのようなものが出た
産院に連絡するとき伝えること
・妊娠の週数
・(健診で)胎嚢(たいのう)が確認されているか
・(健診で)心拍が確認されているか
・出血の量、血の色、何かかたまりが出たか
・腹痛の強さ(椅子に座っていることもできないなど)
・症状の経過(どんどん強くなっている、強い痛みが治まってきたなど)
何を検査して診断するの?
産院を受診すると、以下を検査します。
・超音波検査で赤ちゃんに心拍があるか
・週数に見合った大きさに成長しているか
・ママの子宮頸管が開いていないか
・ママが感染症に感染していないか など
以上が大丈夫なら「赤ちゃんは元気だから切迫流産です」と診断されます。
切迫流産と診断されたら
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妊娠12週未満で切迫流産と診断された場合、治療はせず様子を見たり安静が指示されます。まずは、流産のリスクが低くなるラインの妊娠12週を目指します。
特別な治療はしません
診察の結果、赤ちゃんが元気で子宮頸管が閉じていれば症状が治まる可能性が高いので、特別な治療はしません。自宅安静や入院安静を指示されることもあります。
「治療しないで本当に大丈夫?」と心配になると思いますが、たとえ流産につながる出血だったとしても、妊娠12週までの流産の原因は受精卵の染色体異常が多く、治療して止めることは難しいのです。
妊娠12週を過ぎると流産のリスクが低くなります。
基本的に薬は処方されません
妊娠12週未満で心配のない出血なら基本的に薬は処方されません。医師の判断で以下のような薬を処方されることもありますが、流産を止める効果が確立された薬はないのが現状です。
薬の種類 | 効果 | 副作用 |
---|---|---|
ピペリドレート塩酸塩 (妊娠12週未満) | 子宮収縮を抑える「はりどめ」(内服) | 肝機能障害・黄疸、めまい、動悸など |
イソクスプリン塩酸塩 (妊娠12週以降16週未満) | 子宮収縮を抑える(内服・点滴) | 動悸、頭痛、顔面潮紅 |
塩酸リトドリン (妊娠16週以降) | 子宮収縮を抑える(内服・点滴) | 動悸、倦怠感、筋肉痛、肺水腫、横紋筋融解症など |
黄体ホルモン製剤 | 子宮内膜を厚くする | 血栓症、うっ血性心不全、ショック、乳頭水腫など |
ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)製剤 | 子宮内膜を厚くする黄体ホルモンや卵胞ホルモンの分泌を促す | ショック、卵巣過剰刺激症候群、血栓症,脳梗塞,卵巣破裂,卵巣茎捻転,呼吸困難,肺水腫など |
止血剤 | 出血を止める | 胃の不快感、かゆみなど |
自宅安静を指示されたら
「安静」といっても、日常と変わらない生活をしながら「疲れたら横になる」という軽いものから、入院安静に近いケースまで症状によって違うので、医師に確認して。
行動 | ○×△ | |
---|---|---|
家事 | △ | 最小限に。立ちっぱなしは厳禁。トイレ掃除などおなかを圧迫する動きや、高いところに手を伸ばす姿勢も避けましょう。家事をせず横になっているよう指示される場合もあります |
階段 | × | 陣痛の促進になるので、なるべくエレベーターやエスカレーターを使いましょう |
外出・買い物 | × | 近所の買い物はOKの場合もありますが、ネットスーパーを活用するなど工夫して、不要・不急の外出は控えましょう |
車 | × | 振動が刺激になるので、不要・不急の運転・乗車は控えましょう |
入浴 | △ | 体力を消耗するので、基本的にシャワーで済ませて |
仕事 | × | 必要に応じて医師に診断書を書いてもらい休みましょう |
上の子 | △ | できるだけ家族やシッターなどのサポートを頼りましょう |
入院安静になったら
流産のリスクが高いと入院安静になる場合もあります。症状が治まれば妊娠週数などを考慮して退院できますが、退院後も自宅安静になることが多いです。
行動 | ○×△ | |
---|---|---|
読書・テレビ | △ | 短時間ならベッドで本を読んだり音楽を聞くなどもOKですが、「疲れない程度に」が大切 |
見舞い客とおしゃべり | △ | 気分転換は大切ですが、長時間のおしゃべりは疲れるので短かめに |
歩く | △ | 許可が出て歩く場合もトイレや洗面など必要最低限に。病院内を歩き回るのはNGです |
双子・高齢妊婦は特に注意
出血しやすかったり、流産するリスクが高い人もいます。以下のママは、体の変化や出血には特に注意しながら経過をみましょう。
・双子・・・双子は1人を妊娠しているときより流産・早産のリスクが高いので、早い段階から流産・早産対策が必要です
・高年妊婦・・・35歳未満の妊婦と比べ、年齢が上がると流産する確率が高くなります
・前置胎盤・・・胎盤が子宮口をふさいでいるので、大量出血しやすい状態です
・流産・早産経験がある人・・・流産・早産を繰り返す医学的根拠はありませんが、心配なら医師に相談しながら注意していきましょう
パパに知っておいてほしいこと
・セックスは、切迫流産と診断をされているときはNG。診断されていない場合も、ママに出血・腹痛があるときは控えて。切迫流産の症状がおさまり、安定期に入っても、ママのおなかを圧迫するような体位は避けましょう。また、精液には子宮収縮を促す成分が含まれているので、必ずコンドームを使用しましょう。感染症予防にもなります。
・自宅安静の指示が出たら、家事や上の子の世話などをどうするか、パパが率先してママや周りの人と相談するようにしましょう。親きょうだいや家事代行サービスに頼る方法もあります。「みんなに悪いから」とママが無理をしてしまうことがないようにしてあげて。ママは不安で精神的にも負担が大きい時期。メンタル面からしっかり支えてあげましょう。
切迫流産にならないために
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・いちばん大切なのは、日ごろから無理のない妊娠生活を送ること。疲れて免疫力が下がらないように心がけましょう
・妊婦健診をきちんと受けましょう
・むやみに人ごみに出てウイルスに感染しないようにしましょう
・妊娠12週以降の切迫流産の原因は腟からの感染症が多くなります。妊娠初期から外陰部は清潔に保ち、排便時は前から後ろにふくように、温水洗浄器(使いすぎに注意!)も前から後ろへかけるようにしましょう
切迫流産Q&A
Q:妊娠3カ月に入っても茶色い出血が続いていますが、主治医には「異常ない」と言われています。本当に大丈夫なのでしょうか?
A:「異常ない」と言われてもママは不安ですよね。でも、切迫流産と診断されてもほとんどのママは妊娠を継続できています。出血は安静にしていると止まりやすくなるので、心配なら体を横にしているといいですよ。出血量が増えたり、かたまりのような出血があったら受診しましょう。
Q:流産が心配で、趣味のダンスなどの運動も控えているのですが、心配しすぎでしょうか?
A:毎日を不安な気持ちで過ごしているのですね。慎重になることでママが安心できるのなら控えても良いと思います。妊娠中のエアロビクスやヨガなどの適度な運動はむしろ好ましいと言われているので、安定期に入ったり、ママが心配がなくなった時点で再開すると良いでしょう。転倒・転落する危険があったり、体がぶつかり合うような運動は控えましょう。
Q:胎児心拍を確認できたあと、ゴルフの練習に励んだら出血。切迫流産になり、自宅安静を指示されました。ゴルフがいけなかったのでしょうか?
A:妊娠経過が順調でも激しい運動をすると出血することがあります。流産につながる出血ではないですが、出血・腹痛があるときは安静にしましょう。
Q:前回の妊娠で、胎嚢確認後、長時間立ち仕事をしたあと流産しました。今回の妊娠は、立ち仕事を控えたほうが良いでしょうか?
A:前回はつらい思いをしましたね。妊娠初期の流産の原因は大半が赤ちゃん側の問題なので、ママの立ち仕事とは関係なかったと思いますよ。「あれをしたから」「あれをしなかったから」と後悔しやすいのですが、異常があって医師から安静を指示されない限りは、今回もいつもの生活を送って大丈夫ですよ。
「切迫流産」を経験する多くのママが、その後も妊娠を継続できています。残念ながら流産してしまうママは妊娠全体の15%ほど(切迫流産と診断されていない人も含む)いますが、妊娠12週を過ぎると流産の確率がぐんと低くなります。精神的なストレスが流産につながるという説もあるので、あまり心配しすぎず、まずは12週を目指して、頑張りましょう!
(文/大部陽子、たまごクラブ編集部)
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