やせすぎ妊婦は注意!ママの栄養不足が赤ちゃんの将来の健康にも影響する!?
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妊娠して、それまで以上に体重を気にするようになった人は少なくないでしょう。「太るとお産が大変になりそう」「産後、体重が戻らなくなりそう」といった理由で、妊娠中の体重増加を必要以上に少なくしようとしていたら、それは大きな間違い。最近の研究では、やせすぎて栄養不足のママからは低出生体重児が生まれやすくなり、その赤ちゃんは将来的に肥満や糖尿病などになりやすいという報告も。妊娠を希望する若い女性の”やせ志向”に、警鐘をならす産婦人科の先生が多くいます。
その中で、日経BP社がママと赤ちゃんの栄養状態をよりよく保ち、将来の赤ちゃんの健康のための啓蒙活動を行う「ヘルシー・マザリング・プロジェクト」を立ち上げました。その第一弾として開かれたオープンセミナーの様子をレポート。やせている女性が増えている現状や、栄養不足のママから生まれた赤ちゃんに起こりうるリスクについての報告を紹介します。
現代女性のやせ、栄養不足は深刻!
さまざまな食べ物が手軽に手に入る日本では、「やせすぎ」、「栄養不足」はあまり関係のないことに思えます。ところが、多くのデータから読み取れるのは、深刻な状況。現代女性の”やせすぎ”について、日経BP総研のメディカルヘルスラボ主任研究員、黒住紗織さんが報告しました。
「現代の20代女性のエネルギー摂取量は、終戦直後の1950年と比べても約500kcalも少ない。食べるものが不十分だった戦後すぐよりも栄養不足です。やせているかどうかはBMIで算出しますが、”やせ”と言われるBMI18.5未満の女性は、厚生労働省が発表した国民栄養調査では20代で20.7%、30代でも16.8%。ほぼ5人に1人がやせ過ぎです」(黒住さん)
太りすぎが健康によくないことはわかりますが、なぜやせ過ぎが問題になるのでしょう? 黒住さんは、
「行き過ぎたダイエットや食事不足は、必要な栄養が不足した体をつくり、不調となって表れます。さらに妊娠を考えた場合、スムーズな妊娠を妨げ、おなかの赤ちゃんの成長やその後の健康にまで影響する可能性があります。女性のやせ志向、栄養不足、それらが起因となる問題を多くの人に知ってもらいたい」
と、プロジェクトの必要性について触れました。
日本では低出生体重児の割合が増加。ママの栄養不足も影響?
日本で出生体重が2500g未満の低出生体重児の割合が増えていることについても、報告がありました。
「1980年代から低出生体重児の割合が増加しており、先進国の中では最も高い数値です。赤ちゃんが小さく生まれる要因はさまざまで、すべてにあてはまるわけではありませんが、母体の栄養状態が悪く、やせすぎている場合に、赤ちゃんの出生体重が小さくなる可能性も指摘されています。
そして、小さく生まれた子が妊娠をすると、妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群、早産などのリスクが高まることも指摘されています。小さく生まれた子どもの健康への影響は、3世代にわたって影響を及ぼす恐れがあることもわかってきています」(黒住さん)
やせすぎの女性が増え、妊娠中に適切な体重増加をしないままだと、小さく生まれる赤ちゃんも増え、さらにその子の妊娠も大変になるかもしれない…だとしたらとても心配なことです。
さらにセミナーでは、“胎生期(おなかの中にいる時期)や幼児期の栄養状態がその人の将来の健康リスクに影響する”という「DOHaD説」について、井村裕夫先生(京都大学名誉教授・元総長)が講演されました。
「第二次世界大戦時、オランダで大きな飢饉(ききん)が起こり、多くの人が飢餓状態になりました。このときに極度の低栄養状態だった妊婦から生まれた赤ちゃんを追跡調査したところ、心筋梗塞や糖尿病などの発症率が高いことがわかりました。
これは、胎生期(おなかの中にいる時期)に飢餓状態であった場合、その赤ちゃんは栄養を吸収しやすい体質に遺伝子が切り替わり、その体質は生涯を通して変わらず、生まれたあとの環境が豊かであれば、より栄養を吸収してしまうためではないかと考えられています」(井村先生)
井村先生は、おなかの中にいるときから健康状態を見守り、病気のリスクが高い可能性があれば、早い時期に健康指導をすることで発症を防ぐことができる“先制医療”の重要性についてもお話しされました。
妊娠中のママが赤ちゃんのためにできることは?
ママの栄養状態が赤ちゃんの将来の健康に影響するとしたら、妊娠中のママの食事はとても大切なものだとわかります。また、妊娠中、「太りたくない」と自己判断で体重制限をすることも危険です。
ただ、つわりで思うように食べられずに体重が落ちてしまった、頑張ってもたくさん食べられない…など、食事量や体重の変化は個々の妊娠経過によっても違いがあります。自分のもともとの体重やBMI(体重㎏÷身長mの2乗)から妊娠中はどのくらい体重を増やしたらいいのか、増やせるのか、産婦人科の先生や助産師に相談しておくと安心です。また体重を増やすためにカロリーだけを気にするのではなく、バランスよく栄養をとることが大切。おなかの赤ちゃんのより健やかな成長のために、いろいろな食品から栄養をとるように心がけたいものです。
セミナーでは、福岡秀興先生(産婦人科医・日本DOHaD学会代表幹事)から、赤ちゃんが低出生体重児だった場合に、将来の病気を防ぐためにできることとして、次のようなアドバイスもありました。
「低出生体重児の場合、母乳育児をはじめとして、スキンシップをたくさんとることが大切。脳からオキシトシンというホルモンが多く分泌されると、インスリンの働きがよくなり、糖尿病の予防につながります。
また、高校生ぐらいまでは成長曲線をチェックし、急激な体重増加や身長の伸びの低下があった場合には、医師に相談しましょう。運動習慣をつけることも、肥満や糖尿病予防には大切です」(福岡先生)
肥満は健康によくないと思うがために、やせようという意識が働いてしまうもの。けれど、妊娠中は太りすぎだけでなく、やせすぎも問題。個々の体重や妊娠経過に応じた、“適切な体重増加と栄養”が必要です。あまり神経質になりすぎる必要はありませんが、ママ自身と赤ちゃんのよりよい健康状態につなげるために、毎日の食事を見直してみませんか。(文・たまごクラブ編集部)
取材協力/日経BP社
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