妊娠中の貧血は治る? 立ちくらみは貧血? 貧血予防と改善のルール
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たまごクラブで行ったアンケート※1では妊娠中に貧血と診断されたことのある人は49.8%。約半数を占めていました。貧血は、血液の中の酸素を運ぶ働きをするヘモグロビンが低下した状態。ヘモグロビンは鉄分とタンパク質からつくられますが、少なくなると、体が酸素不足になって、疲れやだるさ、息切れなどの症状が出てきます。妊娠中はママの体から、胎盤を通しておなかの赤ちゃんに栄養や酸素を送るため、血液量が増え、その分、貧血になりやすい状態。妊娠前よりも気をつける必要があるのです。妊娠中の貧血について、東府中病院産婦人科医の細野真沙子先生に教えてもらいました。
※1たまごクラブ2018年7月号実施アンケートより
どうして妊娠すると貧血になりやすいの?
妊娠中は血液量が増えて、ピーク時では、妊娠前と比べて1.5倍の血液量になります。血液には、赤血球や白血球などの細胞成分である「血球」と液体成分の「血漿(けっしょう)」があります。妊娠中は血液量が増えるものの、血漿の割合が血球より増えるため血液が薄まって、ヘモグロビンの値が低下します。血液量が増え、ヘモグロビンが低下して鉄分の必要量が増えている一方で、妊娠前から貧血傾向の人や、食事で鉄分がとれていない妊婦さんは、貧血になったり、悪化させたりしてしまいがちです。
貧血が進むとおなかの赤ちゃんや産後の体に影響が
貧血と診断されても、軽度であればとくに自覚症状を感じません。また、妊娠経過やおなかの赤ちゃんに大きな影響はありませんが、貧血が進むと赤ちゃんの発育や産後の回復に影響が出ます。血液検査で、ヘモグロビン値6.0g/dl(強貧血)になると、胎児の発育不全や早産などが心配されます。また貧血が重いと疲れやすく体力も低下。産後、ママの血液量は通常に戻りますが、分娩時の出血が多いと、だれもが貧血になる可能性があります。また授乳によっても鉄分が排出されるため、貧血状態では体力の回復が遅れることにもなりかねません。元気に育児をするために、妊娠中に貧血を改善しておくことは大切です。
立ちくらみだけで判断はNG! 貧血は血液検査をしないとわからない
急に立ち上がって、ふらっとすると、「貧血かも?」と考える人は多いですが、実は別。起立性低血圧といって、急に起き上がったときに血圧の調節がうまくいかず、一時的に脳に届く血液が減って起こる立ちくらみです。立ちくらみがあるから貧血とはいえず、また立ちくらみがないから貧血ではないと安心するのも禁物! 貧血は血液検査をしないと判断できません。
貧血は初期・中期・後期に血液検査でチェック
一般的に貧血は、妊婦健診の血液検査で初期、中期、後期にそれぞれチェックされています。血液中のヘモグロビン値が11.0g/dlを下回ると貧血と診断されます。また、貧血の種類をある程度調べるためにMCV値(平均赤血球容積)もチェックします。基準値を少し下回っても、生理的な変化と考えることが多く、検査結果を複合的に見て、治療が必要な貧血かどうかが判断されます。
貧血と診断されたら? 薬を飲まないといけないの?
貧血の診断基準を少し下回っている程度であれば、まず鉄分の多い食事をとるように指導されることが多いでしょう。それでも貧血が進んでいた場合、食事療法に加えて鉄剤が処方されます。鉄剤は吐きけや、胃の不快感、便秘などの副作用をうったえる人もいます。だからといって勝手に服用を中止せずに、医師に相談してみましょう。場合によっては、鉄剤は種類の変更や、内服ではなく注射や点滴で行うことも検討されます。
貧血予防と改善には「食事」で鉄分補給を
貧血予防と改善のいちばんは鉄分の摂取。ほかの栄養素もバランスよくとることが大切ですが、なるべく鉄分の多い食材を意識してとるように心がけましょう! 上手に鉄分をとる方法を紹介します。
鉄分の多い食材をメニューに取り入れよう
鉄分には肉や魚の赤色の部分に含まれる「ヘム鉄」と、肉や魚の赤色でない部分、豆、野菜、貝類などに含まれる「非ヘム鉄」があります。「ヘム鉄」は少量でも吸収率が高いのが特徴で、ビタミンCや酸味、香味を組み合わせると吸収率がアップします。「非ヘム鉄」は「ヘム鉄」と比べて吸収率は劣るものの、動物性タンパク質やビタミンCを一緒にとると吸収率がよくなります。両方の食材をうまく組み合わせ、毎日の食事に取り入れましょう。
●鉄分が多くても「レバー」「まぐろ」のとりすぎは注意
レバーは鉄分を多く含む食品ですが、ビタミンAも多く含まれ、過剰な摂取は胎児の器官形成に影響する恐れがあるといわれています。妊娠初期には食べすぎに注意が必要です。レバーと同様、鉄分が多いですが、まぐろには水銀が含まれているため、毎日のように食べるのはやめましょう。
鉄の吸収を妨げる栄養素に要注意!
とりすぎると鉄分の吸収を阻害する成分には要注意。玄米や麦芽に含まれるフィチン酸や食物繊維は、鉄分を一緒に排出してしまう可能性が。適度にとることは問題ありませんが、とりすぎには注意しましょう。また、食品添加物のリン酸塩は鉄の吸収を妨げるため、食べるのはなるべく避けましょう。
調理器具を鉄製にすると鉄分アップ
鉄製のフライパンややかんを使うと、鉄分が溶け出て料理の鉄分量がアップします。調理器具でなくても、お湯を沸かすときに一緒に入れて、鉄分を溶出させるアイテムもあります。
妊婦さんにとって、鉄分はとくに意識してとりたい栄養素のひとつ。鉄剤に頼らないで済ませるためにも、鉄分の多い食品を取り入れましょう。鉄分入りのヨーグルトや牛乳などもあるので、活用してみるのもひとつの手かもしれません。
(文/たまごクラブ編集部)
監修/細野真沙子先生(東府中病院)