「妊娠と葉酸」の常識が一変!?葉酸は妊娠初期だけでなく、妊娠全期でとるべきという事実が、最新ビッグデータであきらかに
妊娠前から妊娠初期の葉酸摂取の必要性は以前からいわれてきました。それが、膨大な調査結果による最新の研究で、葉酸は“妊娠前から妊娠中もずっと摂取するべき”という、これまでの常識より一歩進んだ事実として明らかになってきました。葉酸が妊娠中の重大なトラブルのリスクを抑制してくれるって本当なのか? 効果的な摂取のしかたは? 厚生労働省の検討会で話題になった、葉酸についての最新情報を、産婦人科医の中井章人先生に伺いました。
葉酸は体の細胞分裂とかかわる栄養素。だから、妊娠中はとくに大切。
まずはそもそも葉酸とは?について説明します。
葉酸はビタミンB群の一つ。DNAの合成にかかわり、おなかの赤ちゃんの体の形成に役立つといわれています。妊娠中の母体と胎児にとって欠かせない栄養素です。
葉酸は体の中でどんなふうに働くの?
葉酸は単独ではなく、ビタミンB6、ビタミンB12とともに働き、細胞の分裂・分化に必須の“メチオニン”の代謝を助けることがわかっています。そのため、葉酸は妊娠の成立や胎盤の完成、胎児の発育に重要な役割を果たす栄養として注目されているのです。
葉酸が不足するとどうなるの?
細胞分裂に不可欠な“メチオニン”が代謝される際、困ったことに“ホモシステイン”という有害なアミノ酸も作られます。葉酸が十分であれば、ビタミンB6、ビタミンB12とともに、発生してしまった“ホモシステイン”を“メチオニン”に戻したり、毒性のないものにしたりすることができますが、葉酸が不足すると、“ホモシステイン”は増加し続け、胎盤と子宮をつなぐ血管の内側に障害を起こして、胎盤由来のさまざまな合併症を引き起こす原因になります。
葉酸は妊娠初期だけでなく、出産までずっととり続けるほうがトラブル予防になるとわかってきた!
葉酸は妊娠の成立や胎盤の完成、おなかの赤ちゃんの体の形成にとって大切な栄養素。そのため細胞分裂がとくに盛んな妊娠初期の摂取が強くすすめられてきました。しかしながら、最新のデータの数々から、初期以降もずっと摂取し続けることで、妊娠中のさまざまなトラブルを予防できることがわかってきました。
妊娠初期はどんなトラブル抑制効果があるの?
葉酸には、二分脊椎(にぶんせきつい)症*の発生リスクを抑える効果があることが認められています。二分脊椎症は、世界的にみると減少傾向にある疾患ですが、日本では増加傾向が続いています。予防につながる摂取時期は妊娠初期といわれていますが、葉酸の働きが有効になるまでには時間がかかるため、妊娠成立の3カ月以上前から摂取することが望ましいといわれています。
*胎児の脊椎の管の一部の形成が不完全で、管の中にあるべき脊髄が外に出てしまっている状態。脳や排せつ機能に問題が生じることがあります。
妊娠中期~後期にはどんなトラブル抑制効果があるの?
妊娠初期以降も葉酸を摂取し続けることで、胎盤の血管の問題をきっかけに発症する「胎盤関連産科合併症(たいばんかんれんさんかがっぺいしょう)」の発症リスクを抑制できるとことがわかってきています。胎盤関連産科合併症は、一度発症すると出産するまで改善しにくく、早産につながったり、母体や胎児の命にかかわったりする怖いトラブル。葉酸にはこれらの発症を未然に防ぐ効果があるというのです。「発症リスクには個人差がありますが、とくに前回の妊娠で合併症になった場合や、初産でも実母が同様のトラブルの経験者であった場合などは、積極的に葉酸を摂取することでトラブルの予防が期待できるでしょう」(中井先生)
<代表的な胎盤関連産科合併症>
常位胎盤早期剥離
胎内にまだ赤ちゃんがいるのに、胎盤が子宮壁(しきゅうへき)からはがれてしまうこと。胎盤がはがれると、胎内の赤ちゃんへの酸素や栄養の供給が止まってしまいます。大出血を伴い、母子ともに命にかかわることも。
妊娠高血圧症候群
胎盤から母体の血管に障害を起こす物質が放出され、血圧が高くなったり、高血圧に加えタンパク尿が出たりします。症状が悪化すると、胎盤の機能が低下し、胎児の発育に問題が生じることも。
胎児発育不全
おなかの赤ちゃんがなんらかの理由で、妊娠週数に応じた大きさに成長していないこと。
早産
妊娠22週以降37週未満の時期に妊娠が終了してしまうこと。
葉酸はどれくらい、どんなふうにとるといいの?
葉酸の1日の摂取量は、妊娠初期は食事からの摂取1日240㎍に加え、400㎍をサプリメント等から、妊娠中期~後期は食事から1日480㎍を摂取することが望まれます。
しかし、日本の妊婦さんの摂取状況はそれを大きく下回っていることがわかります(上のグラフ参照)。食事からでは不足しがちなので、サプリメント等の摂取でフォローすることも大切。また、葉酸は単独ではなく、ビタミンB6とビタミンB12を含むマルチビタミンと同時摂取することで妊娠中のトラブル軽減に大きな効果を発揮することもわかっています。「妊娠前から妊娠中を通じて長く継続的に葉酸を摂取することで、胎盤由来のトラブルを予防する効果が期待できます。もし多めにとっても、1日1mg(=1000µg)未満ならば問題ありません」(中井先生)
妊娠中の葉酸サプリ気になることQ&A
Q妊娠後期に葉酸をとりすぎると赤ちゃんが喘息(ぜんそく)になると聞きましたが?
A
わずかなリスクはありますが、流産や胎盤関連産科合併症の予防などの効果と比較すると問題になる確率ではありません。妊娠初期以降も引き続き葉酸を長く摂取することが大切です。
Q葉酸はたくさんとればとるほどいい?
A
サプリメントに記載の用法・用量を守って摂取しましょう。食事+サプリメントの活用で「とりすぎているのでは?」と心配する方もいらっしゃるかもしれませんが、1日に1mg(=1000μg)未満であれば心配ありません。
Q妊娠中はどんな葉酸サプリを選べばいいですか?
A
葉酸の働きは、葉酸だけでなく、ビタミンB6、ビタミンB12を含むマルチビタミンとの同時摂取で効果を発揮できることがわかっています。葉酸+マルチビタミンのサプリを選びましょう。ただし、ビタミンAなど妊娠初期の過剰摂取に注意が必要な栄養素もあります。信頼のおけるメーカーの、妊婦に配慮されたサプリメントを選ぶようにしましょう。心配な場合は事前に主治医に確認してください。
Qサプリメントは高額なので、安い海外製品が気になります。
A
海外のサプリメントの場合、日本で売っているのと同じ製品名でも販売地域の人の栄養状態に合わせて成分を調整している可能性があります。日本人に合った国産の製品で、含有量をきちんと確認できるもののほうがおすすめです。
葉酸は妊娠初期だけでなく妊娠中に起こり得るさまざまなトラブルを抑制する働きがあることがわかってきました。葉酸摂取を意識した食事とサプリメントによるフォローが、おなかの赤ちゃんのためにできることの一つといえそうです。
(文・松田祥子、たまごクラブ編集部)
■監修/中井章人先生
東京都多摩市・日本医科大学多摩永山病院 院長 日本医科大学産婦人科教授。
1983年日本医科大学医学部卒業。日本医科大学付属第一病院産婦人科、スウェーデン王立ルンド大学実験脳研究所などを経て、現職。
■参考/厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
※記事内の情報を一部更新しました(2024年3月)