パパのDNAは胎児を通じてママに伝わる?「胎児の世界」
ママのおなかの中では、ママと一緒に赤ちゃんも一日一日を生き、成長しています。いったい胎児はどんな世界にいて、どんな毎日を送っているのでしょうか? そこで、「たまごクラブ」編集部は、“楽しくてためになる”と話題の本『胎児のはなし』著者である増﨑先生を取材。“胎児のトリビア”をご紹介します。
胎盤はだれのもの? ママ、それとも…?
胎児を育てるための器官である「胎盤」。出産後、胎盤は子宮から出されてしまいますが、では、いったい胎盤はだれのもので、どんな役割をしているのでしょうか?
「それは胎児のものです。だってもともとは1つだったんだから。受精卵が分割し、あるとき胎児と胎盤に分かれる。胎盤は、胎児の生命維持装置なんですよ。赤ちゃんとつながっている臍帯(さいたい)を通じ、母親からもらった栄養や酸素を胎児に送り届けるわけです。胎盤が死んだら赤ちゃんは死んじゃいます。
でも、胎盤は、赤ちゃんがおなかのなかにいるとき、つまり水中生物でいるときにしか使わないものです。胎児は生まれてから80年も90年も生きるけれど、胎盤は出産で寿命が終わる。僕がよく言うのは、1(胎盤)+1(胎児)=1(新生児)。新生児は、胎盤を犠牲にして生まれてくる。僕はこのことを“二段ロケット”と言っています」(増﨑先生)
胎児を通じ、ママの中にパパのDNAが流れ込んでいる!
1997年、母親の血液中に、胎児のDNAが見つかりました。そして2004年、増﨑先生は赤ちゃんの一部である臍帯血の中に、母親のDNAを発見したのです。それはつまり、どういうことなのでしょうか?
「まず母親と胎児はDNAのやりとりをしているということです。それから胎児のDNAの半分は父親由来のものです。つまり父親のDNAが、胎児を介して母親にいっているということがわかったのです。夫婦は他人というけれど、わが子を妊娠することで、実はDNAでつながっているんですね」
胎児は、羊水の中でおしっこをしたり、飲んだりしている
羊水(ようすい)は、羊膜の中を満たしている液のこと。胎児は生まれる瞬間まで、ずっと羊水の中で過ごします。そのような世界で、胎児はどのように過ごしているのでしょうか?
「胎児は生まれるときまでいっさい空気に触れないんです。最初に精子と卵子があって、受精して、分割していって、どんどん形ができて…。でもどの過程の中でも、空気には触れていない。耳の中も鼻の中も頭の中も、体の中も水しかないんです」
まるで怪獣!? 胎児は羊水を鼻から吸って、出している!
「もちろん肺の中も、羊水でいっぱいです。胎児は鼻から羊水を出し入れしている。呼吸様運動といって、鼻で出し入れしてるんです。口ではしない。酸素は臍帯を通じてお母さんからもらっているから、大人の呼吸とは違うんだけど。僕はね、生まれたあとのために、鼻で呼吸をする練習をしていると思ってるんですけどね。
別記事「まるで怪獣! これが胎児の“呼吸様運動”」では先生提供の動画を掲載しています。
胎児は呼吸様運動といって、鼻から羊水を出したり入れたりしている様子が、映像で見られます。
いかがでしたか? 胎児の世界を知ることで、赤ちゃんのことがもっといとおしく、そして出会う日がますます楽しみになるのではないでしょうか。たまごクラブ2019年12月号「さあ、胎児のはなしをしよう」特集では、そんな“胎児のトリビア”をたくさん紹介しています。(文・たまごクラブ編集部)
■監修
増﨑英明先生(長崎大学名誉教授 産婦人科医)
1952年佐賀県生まれ。ロンドン大学への留学、長崎大学産婦人科教授、長崎大学病院 病院長を経て、2018年長崎大学名誉教授に。日本産科婦人科学会理事、日本人類遺伝学会理事、日本生殖医学会理事などを歴任し、産婦人科の世界をリード。胎児を主人公にした『密室』(木星舎)など、超音波や胎児診断に関する著書は10冊を超える。
■参考
『胎児のはなし』
約40年、産婦人科界をけん引した増﨑先生に、生徒役のノンフィクションライター・最相葉月さんが妊娠出産について切り込んでいく1冊。「科学的だけれど難しくない」「軽快なトークに引き込まれる」と話題です。
『胎児のはなし』
増﨑英明・最相葉月著 1,900円
ミシマ社