【産科医に聞く】妊婦や授乳期のママが新型コロナに感染!赤ちゃんへの影響は?
新型コロナウイルスの収束はまだ見えず、いつだれが感染してもおかしくない状況が続いています。妊娠中や授乳期のママが感染した場合、胎児や赤ちゃんに影響が出るのでしょうか。2021年3月時点でわかっていることについて、昭和大学江東豊洲病院周産期センター長の大槻克文先生に聞きました。
*新型コロナ感染症は未知のことが多い病気です。本記事掲載後に新しい知見や情報が発表される可能性があります。その点も考慮しながらお読みください。
「妊婦」という理由だけで、新型コロナウイルスが重症化するという報告はない
――新型コロナウイルスの感染が広がり始めたころ「妊婦が感染すると重症化しやすい」と言われていたかと思います。現在はどのように考えられていますか。
大槻先生(以下、敬称略) 妊娠中に新型コロナウイルスに感染しても、基礎疾患がない妊婦さんは、重症化リスクや感染後の経過は、同年代の妊娠していない女性と変わらない、というのが現在の見解です。「妊娠している」ということが、重症化の要因にはならないと考えられています。
ただし、高年齢での妊娠や、肥満、高血圧、糖尿病などの基礎疾患がある妊婦さんは、重症化するリスクが高くなります。該当する人は、とくに感染予防対を怠らないようにしてください。
――感染予防に努めていても、どこでうつるかわからないのが新型コロナウイルスの怖いところです。妊婦さんが感染した場合、おなかの赤ちゃんに影響は出ますか。
大槻 妊婦さんが新型コロナウイルスに感染しても、胎児が感染することはまれだと考えられています。また、妊娠初期および中期に感染した場合、ウイルスが原因で胎児に先天異常が引き起こされる可能性も低いと考えられています。
でも、新型コロナウイルスはわかっていないことが多いため、10年くらいたってから、「胎児のころ新型コロナウイルスに感染した子どもに共通の症状がある」といった報告が出てくる可能性がないとも言えません。
未知のウイルスなだけに、妊娠中はとくに感染予防に気をつけてほしいですが、過剰に怖がってストレスをためるのも、胎児にとってよくないので、その点は注意が必要です。
感染したママも母乳を飲ませて大丈夫。 ただし、感染予防対策は徹底して
――授乳期のママが新型コロナウイルスに感染した場合、母乳を与えてもいいのでしょうか。
大槻 感染したママの母乳には、新型コロナウイルスの抗体が含まれていて、赤ちゃんの発病予防や重症化が予防できると考えられるので、母乳を与えることはむしろメリットがあると言えます。
そのため、WHO(世界保健機関)やアメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、手洗いやマスク着用などの感染予防策を行ったうえで母乳を与えることを推奨しています。
ただし、新型コロナウイルスの抗体がどれくらいの期間母乳に含まれるのかは、わかっていません。
――感染したママは、母乳を飲ませることで、赤ちゃんを新型コロナウイルスから守れるかもしれないんですね。授乳するときの注意点を教えてください。
大槻 感染したママの母乳に新型コロナウイルスが含まれていたという報告は今のところありませんが、感染直後はウイルスが移行する可能性がゼロとも言えないので、発熱した場合は発熱中と平熱に戻ってから4日間は、母乳を与えるのをやめたほうがいいでしょう。母乳が止まらないように、この間も搾乳はできる限り行ってほしいのですが、もちろん、ママがつらくない範囲でOKです。
――ママが感染中に、直接授乳を行うことは可能ですか。
大槻 直接授乳は赤ちゃんへの感染リスクが高くなると考えられるので、やめたほうがいいでしょう。搾乳して与えることをおすすめします。
搾乳する際は、まず手洗いと手指消毒を十分に行い、ママの乳首まわりもていねいに消毒します。搾乳機や哺乳びんも消毒してから使ってください。家族に授乳をお願いできる環境にいる場合は、家族に飲ませてもらいましょう。
PCR検査で陰性になったら、直接授乳に戻して大丈夫です。
妊娠中や授乳期に新型コロナウイルスに感染したら、通常よりも心配なことが増えると思いますが、正しい知識を身につけることで、過度な不安は取り除くことができるでしょう。そのうえで、家庭内で感染を広げないように、しっかりと感染予防策を行うことが大切です。
お話・監修/先生 取材・文/東裕美、ひよこクラブ編集部
妊娠中に新型コロナウイルスに感染しても、重症化や胎児への影響は過度に心配しなくてもいいようです。これを知っていたら、万一感染したときも冷静に対応できそうです。また、授乳期に感染した場合は、母乳を飲ませることで赤ちゃんを新型コロナウイルスから守る効果もあるようなので、可能な範囲で母乳育児を続けるようにしましょう。
大槻克文先生(おおつきかつふみ)
Profile
東京都昭和大学江東豊洲病院周産期センター長、教授。昭和大学医学部卒業。昭和大学病院病棟医長、昭和大学医学部産婦人科教室医局長などを経て、2014年から現職。救急搬送の妊婦さんも数多く受け入れています。