【女医が実体験を語る】アラフォー出産のリアル
女性の出産年齢は年々上がっています。そこで今回は高齢出産を控えたママたちの声を集めるとともに、家庭医で自身も現在第3子を妊娠中の菅長麗依先生に、高齢妊婦の日々の過ごし方について話を聞きました。
仕事や上の子の世話があって、なかなか安静にしていられない
まずは、口コミサイト「ウィメンズパーク」からママたちの声を紹介します。高齢での妊娠がわかり、不安を抱く人が多いようです。
仕事もあるし、上の子の世話でちっとも休めない
「36歳で、第5子を出産します。『経産婦だし大丈夫!』と周りには言われますが、上の子もいるので、安静にすることも、仕事を休むこともできず(仕事的にも、金銭的にも)にいます。産道が緩いのでリスクが高いと、病院からは釘を刺されています。
自分の年齢と、保育園の入所も考慮して、最後のチャンスと妊活しましたが、このコロナ騒動…。不安ばかりですが、頑張ります!」
過去2回流産しているから確定するまで夫にも言えない…
「過去に2回、心拍確認前に流産しています。ガッカリさせたくないので、まだ夫に妊娠のことを話せていません。腰痛がひどく、休みの日はほとんど横になっています。職場にも話せないので、休日以外は仕事で働いています。夫が休みのたびにお出かけに誘ってくるので辛いです」
初期から自宅安静の指示が出て、ストレスが暴発しそう
「41歳で現在妊娠後期、7週の時から自宅安静指示の継続中です。
当初、妊娠に気づかず生理不順だと思っていましたが、病院へ行った時に流産しかけてると診断されました。さらに、そのあとの出血で慌てて病院に連絡したら、『止められないのでできることはありません。塊が出てきたら持ってきてください』と言われた時は恐怖しかありませんでした。
私は今回が初めての自宅安静、そしてトラブル続きなので不安の毎日でしたが、安静にしていたおかげでここまでたどり着くことができたと思っています。
絨毛膜血腫、胎盤が寄ってきてる、子宮頸管が短い、前置胎盤などと、診察記録に書かれています。時々、イライラが爆発して夫とケンカして泣いたことも。
不安で仕方がないですが、少しでも前向きになれるように赤ちゃんグッズを検索したり、部屋の模様替えをイメージしたり、スタイを縫ったりと休みながら楽しむようにしています」
つわり・出血といろんなトラブルが
「40歳、妊娠12週で、切迫流産のため自宅安静中です。
今までの妊娠&出産は大きなトラブルはなかったので、今回、出血した時は本当にびっくりしました。こんなに不安になったのも初めてです。痛みはあまりありませんが、つわりに悩まされています。
1回目の出血時は『そのうち、治るかな』なんて、正直甘く考えてましたが、2回繰り返すと不安度が一気に増します。起き上がるのもドキドキしちゃいます」
もう特別じゃない高齢出産
日本の第一子平均出産年齢はこの35年で4歳も上がっており(2019年は30.7歳)、35歳以上の出産(いわゆる高齢出産)は、全出産の約3割を占めています(*1)。
もはや特別とはいえないアラフォー出産。今回、アドバイスをいただく菅長麗依先生も38歳で第1子、39歳で第2子を出産し、現在42歳で3回目の妊娠中です。
そこでご自身の経験も踏まえ、アラフォー出産のママたちにアドバイスをいただきました。
Q 高齢出産にプラスの面はありますか?
「そもそも、なぜ高齢出産などとラベリングする必要があるのでしょうか。それは、ほとんどの方がご存知とは思いますが、10〜30代前半までとは違い、妊娠・出産全ての過程において、さまざまな医学的なリスクを伴うからです。
今この記事を読んでいる方は、妊娠するまでのハードル(妊娠率の低さ、流産率の高さなど)を乗り越えた妊婦さん、または、妊娠中のハードル(胎児及び妊婦のさまざまな健康問題・合併症など)と出産時のハードル(帝王切開率の高さ、出産時の出血量が多いなど)を乗り越えられたお母さんかと思います。
妊娠中に不安がつきものなのは、高齢か若年かに差はないものの、高齢妊婦の場合は、前述のハードルが高い分、我が子が生まれるその日まで、毎度の妊婦検診が不安で、心配が尽きないですよね。
私も第2子妊娠時は高齢妊婦に合併しやすい妊娠糖尿病となり、年子となる1歳の上の子を育てながら自己血糖測定を行い、ストレスフルな妊娠期を過ごしました。若い妊婦さんに比べて、乗り越えるべきハードルはやや高かったですが、その分、無事出産に至り、いま、我が子を抱きしめられる幸せは、筆舌しがたいものです。
アラフォー出産には医学的・体力的な問題はあって、さまざまな注意が必要ですが、プラスの側面もあります。例えば、高齢出産の場合、経済的な余裕が若い人たちに比べてあることが多いため(子どもの教育に熱心なことが多いという要素も関係しますが)、その子どものIQは高くなる傾向にあるという研究結果や、子どもの10〜12歳時の問題行動が少ないという報告などがあります(*2)。
また、お仕事をされている人は、若い人に比べ、キャリアや職場環境も融通がきき、経済的・精神的にも安定している可能性が高まります。育児では親の思い通りにいかないことがたくさんありますが、社会経験が長い分、その折り合いの付け方も上手といえるかもしれません」
Q 高齢出産の場合、妊娠期にしておくといいことはありますか?
「産後の育児については、体力勝負。抱っこやおんぶで腱鞘炎や腰痛が起きたかと思えば、子どもが泣き止まなかったり、イヤイヤ期などが重なったりすると、イライラモードになりがちですね。
産後の抜け毛も若い人より回復が遅れたり、産後の筋骨格系の問題が長期化したり、尿もれが起きやすかったり、月経再開時の精神の不安定さが目立ったり、月経の量や間隔などが乱れやすかったり…といったことも想定されます。
これら身体面の課題について、事前に対策できることはたくさんありますので、ぜひ、妊娠中に対策しておくといいと思います。
例えば、以下のようなことです。
●尿もれ対策として骨盤底筋群体操を行う
●産前産後を通じて腰痛対策などのためにヨガや簡単なストレッチ・体操などを短時間でも習慣化する(*3)。
●可能な範囲でスカルプケアを心がける(育毛剤など使ってみるなど)
また、産後に起こりやすい身体面の問題について、あらかじめ少し勉強しておくのも手です。産後は思わないところに痛みがでることもあります。多くはホルモンの仕業ですが、生活動作や少しの工夫で軽減することもできます(*3.4)。
つわりで辛い時期などは、母子手帳の最後の方にある母性健康管理指導事項連絡カードを有効活用しましょう。主治医にこのカードを記載してもらい、休職以外にも勤務時間や通勤時間の調整などについて上司に申し出ることができます。
妊娠初期のつわりでは、高齢出産だと流産の心配があり、妊娠していること自体、申し出にくいかもしれません。直属の上司だけに伝えて配慮してもらうほか、家事代行サービスなどを利用することもぜひ検討しましょう」
Q 妊娠中、体が辛い中での上の子の世話はどうしたらいいでしょうか?
「私の場合、第2子の妊娠が判明したのが上の子が1歳になる前で年子だったので、言い聞かせたところで抱っこしないわけにもいかず、産後6カ月以降まで2人抱っこ(または抱っこ+おんぶ)が必要でした。産後は腰痛ベルトなどが欠かせない時期もありましたが、不適切かつ不十分なケアは、育児生活だけでなく、中年〜老年期にも響きうるため、できる範囲で自分の体も労りたいものです。
妊娠期の上の子の抱っこにもポイントがあります。骨盤底筋を(産後は腹筋も)意識し、なるべく腰を反りすぎることのないようにし、主に両腕の力で抱っこすることです。骨盤底筋のトレーニングにもなるので、産後の尿もれも減り、産後に起きやすい腰痛も軽減されることが期待できます。座っている時も猫背にならないよう、クッションなどを背中に置いて日常生活から骨盤を立てることを意識しましょう。
その他、上の子の世話については、一般的によく言われることを実行しました。
妊娠中から上の子には、兄・姉になることに対し憧れをもってもらえるような声かけや仕掛け(関連する絵本やごっこ遊びで兄・姉になってもらうなど)をすることです。
産後は、上の子に“自分だけは特別”感を感じる時間をなるべくとりました。“憧れの”お姉ちゃん(お兄ちゃん)として手伝ってもらう→とにかく褒め、笑顔で感謝を伝える→優越感と自信をもたせることを繰り返します。下の子の授乳をしながら上の子に読み聞かせをし、寝る前に上の子だけに『大好きだよ。いつもありがとう』とこしょこしょ話(耳打ち)をするなどもしました。上の子の年齢によっては、お手紙でやりとりしたりするのも良いですよね。
しかし、それでもどうにもならないことも多々あります。そういう時は、頑張りすぎず、夫や親戚、自治体や民間のサービス(一時預かり、家事代行、ファミサポなど)など、“周囲に上手に頼る”ことも、とても大切です。高齢出産のママは頑張りすぎる傾向があるかもしれません。罪悪感を捨て、勇気を出し、周りに頼る力“授援力”を高めましょう!」
Q コロナの心配もある現在、特に気をつけるべきことはなんでしょうか?
「高齢出産の場合、その親御さんも高齢であることが多いですよね。
特にコロナ禍ということもり、平時だけでなく子どもや自分の病時は特に預けにくいかもしれません。お母さん自身の親御さんがそもそも基礎疾患をお持ちで、場合によればその健康問題について、育児と並行してみなければいけない“ダブルケア“という局面にたつ可能性も高まります。
親御さんが検診や予防接種を適時適切に受けられているか、ぜひ育児の合間をみて、親御さんの健康についても気にかけてほしいと思います。これは、後々の自分自身のためにもなる大切なことです(*5)。
子どもが今の自分の年齢の頃には、自分は80歳前後。人生100年時代とはいえ、健康なおばあちゃんとして、できれば孫を抱っこしたいですよね。
高齢出産を機に、自分や家族の健康を見直すことができると思います。家族みんなが心身ともに健康な状態に導く良いきっかけとして、前向きに頑張りましょう!!」
■参考URL
(*1)厚生労働省 令和元年(2019)人口動態統計
(*2)https://srcd.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/cdev.13267
(*3)産前産後の母親に関わる医療従事者による無料エクササイズ
(*4) 産前産後の母に関わる医療従事者のための 入門ブック Ver.1 監修:マザーヘルス協会&産後リハビリテーション研究会 (産前産後に見られるトラブルについて:医療従事者用の資料ですが、図示されておりわかりやすいです)
(*5) 日本産婦人科学会 HUMAN+ 女と男のディクショナリー
正しい情報や知識が妊娠時や出産時の不安を減らす助けになるのですね。ぜひ参考ページを役立ててもらえればと思います。(取材・文/橋本真理子)
菅長麗依先生
亀田総合病院付属幕張クリニック・亀田ファミリークリニック館山 家庭医診療科 勤務。亀田総合病院総合診療・感染症科(現:総合内科)で後期研修医。神戸大学医学部附属病院感染症内科でのフェロー、亀田ファミリークリニック館山で家庭医療診療科フェロー、医長を経て2017年より現職。2013年に結婚、2016年と2018年に出産。現在第3子妊娠中。
■文中のコメントは『ウィメンズパーク』の投稿を再編集したものです。