女優 加藤貴子 つもりにつもったイラ立ちをぶつけた相手は保育士だった
連載15回目となる女優・加藤貴子さんのお話は、いっぱいいっぱいの状況下で、保育園の先生からかけられた温かい言葉について。この連載は、44才で第一子、46才で第二子を出産した、加藤さんの赤裸々な育児話と、育児に影響を与えた言葉を紹介しています。
バタバタで自分を見失っていた半年間
コロナ禍もこう長引くと、辛抱も限界に近くなっていませんか? 経済面、環境面のみならず、心身の面でも、いろいろなところで影響を受けて、ご苦労なさっている方は多いと思います。
わが家では、昨年要請された3カ月ほどの断続的な登園自粛から、3歳の二男が保育園登園の度にギャン泣きするように。義父は、もともとつえを使っていた足が思うように動かなくなり、デイサービスなどに出かけられず、ますます歩行が困難になってしまいました。さらには、尿路感染症で入院したら、とうとうそのまま歩けなくなってしまったのです。
そんなこんなで、この春から義母との同居を始めることにした私ですが、そこに至るまでの半年間が、まーあ、てんやわんやでした。
車いすが通れるように主人の実家のリノベーション。二男の保育園転園活動。長男の卒園と小学校入学準備。両親の引っ越し、わが家の引っ越し…などなど。そんなあわただしい中、私、大失態をしちゃったんです。
いら立ちの矛先が保育園の先生に
年末のある日、保育園で、長男の延長保育届にはサインしたのに、二男の延長届にサインするのをうっかり忘れてしまいました。その日は朝から二男が保育園へ行きたがらず、何とか連れていったものの大遅刻。延長届にサインをする台の前には子どもたちが全員並んで座って、先生のお話を聞いていました。
邪魔にならないようにとサインを後回しにして、先にしたくを済ませ、二男を預けようとしたところでまたしてもイヤイヤが始まり、ようやくなだめ終えたころにはすっかりサインのことなど忘れていて、そのまま保育園を出てしまいました。なのでその日二男は、延長の食事をとれないまま19時まで私を待っていたんです。
その事実を知った途端、私の頭に血がのぼり…。「こんなに精いっぱいやってるのに何でこうなっちゃうんだろう…もうヤダ!」叫びたい気持ちをグッと抑えつけても自分に対してのいら立ちは収まらず、あろうことか、そのいら立ちを保育園側にぶつけてしまったんです。
「サインしなかったのは私が悪いんですけど、お兄ちゃんが延長なのに、どうして連絡してくれなかったんですか? 子どもが脱水状態になったらどうするんですか? 何かあったら保育園側はどう責任取ってくれるんですか? 水分を自分からとりたいと言える年齢ではないんです。何かあってからでは遅いんです!」と。
口では「私が悪いんですけど」とは言っているものの、保育園側だけが悪いようなテンションで怒りをあらわに、先生を攻め立ててしまった私。
そのあと帰りのしたくをしながら自分の態度に反省して、先生におわびをして帰ったのですが、帰り道は自分が情けなくてふがいなくて…。何もかもがイヤになっちゃいました。
心が軽くなった若い保育士からの言葉
翌日、園長先生とお話をする中で、きちんと今後の対策を提案していただきました。そして、私の娘といってもいいくらいの年齢の担任の先生に「お母さん、すみませんでした。アンくんのことを考えたらお母さんが怒るのも当然です。私がお母さんの立場だったら、同じことを言ったと思います。子どもたちのことをいちばんに考える行動をとるべきだと、職員であらためて話し合いました」と言葉をかけられました。
自分の過失は棚に上げて怒りをぶつけた私に寄り添ってくれた言葉でした。胸が熱くなり、涙がとまりませんでした。
そんな私の子育てを支えてくれた保育園を、この春転園することになって、二男はもとより私のほうが不安でした。するとその担任の先生が、「お母さんは頑張り屋さんなので、あんまり頑張り過ぎないでくださいね。4つやろうとして2つしかできなかったとしても、その2つができた自分をほめて過ごしてくださいね」と声をかけてくれました。
頑張り過ぎると空回りすること、わかっていたつもりでもなかなか直らずですが、そうやってお声がけくださったことで気持ちが軽くなりました。
4つやりたかったことが2つしかできなかったと嘆いてばかりいずに、2つできたと思えたら、自分を追いたててしまう習性、裁いてしまう習性から少しは解放されるんだろうなあ。言葉って面白いですね。同じ言葉でも受けとめられるときと、跳ねのけてしまうときがある。いろんな失敗、失態を重ねて、じんわり心に浸透する言葉もある。第1回で紹介した『育児は育自』、あらためてまた身につまされました。
文/加藤貴子 構成/ひよこクラブ編集部
まわりに相談する時間もなく、1人で抱えこんでしまいがちな家庭のこと。日々頑張る自分をほめて認めることができれば、もっと家族を大切に自分を大切に、楽しい毎日が過ごせるかもしれませんね。次回も、加藤さんの育児の対するリアルな思いを紹介します。お楽しみに!
加藤貴子さん(かとうたかこ)
Profile
1970年生まれ。1990年に芸能界デビューして以降、数々の作品に出演。代表作として『温泉へ行こう』シリーズ(TBS系)、『新・科捜研の女』シリーズ(テレビ朝日系)、『花より男子』(TBS系)などがある。