発達障害がある子の「生活のしにくさ」を軽減する「療育」。いつから?何を?どうやって?【専門家】
子どもの発達の特性に合わせて、生活のしにくさを軽減し、その子らしい生活を送ることができるように支援するのが「療育」です。就学前までの子どもの療育について、言語聴覚士の原哲也先生に聞きました。
発達障害がある子のための「療育」とは何か?療育の意味とその重要性について
発達障害のある子には、脳の特性から来るさまざまな特徴があり、そのために生活障害(生活のしにくさ)が起きてきます。この生活障害を減らして、子どもが毎日を安心して穏やかに暮らせるようにしたい。そして、うつや引きこもりなどの二次障害を防ぎたい。そのために行われるのが、療育(治療と教育)です。
療育を受けることで、「生活のしにくさ」を軽減できます
注意欠陥多動性障害(ADHD)、自閉症スペクトラム障害(ASD)、学習障害(LD)などの発達障害のある子は、生まれつき定型発達の子とは異なる脳の機能の特性があります。
そのため、そのままでは言葉や日常生活動作(服を着る、片づける)などがなかなか学べません。
しかし、その子の特性を理解し、その子が「わかる」方法で教えることで、子どもは言葉や日常生活動作、そして人とのかかわり方を学ぶことができます。
その脳の機能の特性そのものを変えることは難しいですが、適期に適切に療育を受けることで、「生活のしにくさ」は予防・軽減することが可能なのです。
療育の内容は一人ひとり異なります
発達障害の症状は一人ひとり異なるので、療育の内容も一人ひとり異なります。
療育を行う医師や専門家は、ママやパパに子どもの日常の様子をヒアリングしたり、子どもの様子を観察、評価し、「その子の」ための療育計画を立ます。
療育ではどんなことをするの? 個別に療法を選んで行われる支援とは?
発達障害のある子の症状はさまざまで、同じ診断名でも、適切な療育は一人ひとりまったく異なります。専門家はその子に何が必要かという観点で療法を選び、その子に合った目標を設定し支援を行います。療育で行われる主な療法には以下のようなものがあり、子どもの特性によって組み合わせるなどして行われます。
●作業療法
手や指を使う作業や全身を使う運動を行うことで、着替え、食事、排せつなどの日常生活に必要な動作や社会生活に必要な能力の向上をめざします。
●言語療法
言語評価に基づき、遊びなどを通じて、人への関心を持つように働きかけたり、言葉の理解や表現、言葉に代わる表現方法(身ぶりなど)を獲得できるように支援し、言葉の発達を促します。
●感覚統合療法
人は脳に入ってくるさまざまな感覚を統合することにより、筋肉を動かし動作します。発達障害がある子の場合、感覚統合がうまくいかず、体がうまく使えないことがあります。バランスボールやブランコ、粘土など、子どもが楽しいと感じる遊びを通して、感覚の入力や感覚の統合が適切にできるような活動をします。
●TEACCH
自閉症スペクトラム障害(ASD)の独特の認知スタイル(ものごとの受け取り方、考え方)に合った方法で環境を構造化するかかわり方のことです。1日のスケジュール(時間割)を表にまとめたり、作業の手順をこまかいステップに分けて文字や絵でわかりやすく示して、自律的に行動することを促します。
●応用行動分析
ABA(Applied Behavior Analysis)ともいわれ、子どもの気持ちや行動の原因を、Aきっかけ→Bその子の行動→C結果、の3点から機能的に分析します。この分析をもとに、困った行動を減らし、ほかの行動に置き換える手法です。「大人が望む行動」ではなく、「本人が生活しやすくなる行動」を獲得目標とします。
●ソーシャルキルトトレーニング
ソーシャルスキルとは、周囲の人と円滑にかかわるための、ルールの理解・感情のコントロール・他者の感情を理解するための知識や技能・コツのことです。絵カードを用いて約束やルールを示したり、不適切な振る舞いのお手本を見せて考えたりして、状況によって適切な行動ができるようにトレーニングを行います。
●認知行動療法
人間のものの受け取り方、考え方(認知の部分)に働きかけて気持ちを楽にしたり、行動をコントロールしたりする心理療法です。子どもにわかりやすいキャラクターを用いるなどして、怒りや不安などのネガティブな考え方を少しずつ変えることで問題に対応できるようにします。
●ビジョントレーニング
発達障害のある子の多くは眼球運動に問題があると言われ、ものを探す、読み書きなどが苦手なことがあります。「見る」力の基盤である眼球運動能力や視覚認知力の向上をめざすために、目を動かしたり、先生と同じポーズをとったりするなどのトレーニングを行います。
●音楽療法
音楽で生理・心理・社会性に働きかけることで、心身機能の維持・改善と生活の質を促進するものです。音楽を聴く受動療法と、歌う・演奏するなどの能動療法があります。
療育にはどんな専門家がかかわっているの?
療育では子どもの状況と特性に応じてさまざまな専門職がかかわります。医療機関の場合は、医師が子どもの状況と特性から、適切な専門職とチームを作り、子どもと保護者への支援を行います。
●医師(児童精神科医・発達障害を掲げる小児科医・心療内科医など)
診察し、診断をします。必要に応じて投薬も行います。合併症(二次障害)の有無・判断、現状と今後の見通しなどを示し、療育の方針を立ます。合併症(二次障害)等の「見立て」や療育計画策定はほかの専門職も行いますが、「診断」と「投薬」を行うことができるのは医師のみです。
●公認心理師、臨床心理士
子どもの発達状況を正しく理解するため、発達検査や心理検査を行います。その結果をもとに応用行動分析などの療法を用いて子どもの行動の学習をサポートしたり、遊びを通して子どもの不安を軽減するなど、幅広い領域で支援を行います。
●作業療法士
日常生活のさまざまな活動や行動(遊び・トイレ・食事・荷物の整理など)の中で、その子にとって困難な状況を分析し、それらの活動や行動がしやすくなるように工夫します(ボタンはめの方法を考えたり、ボタンはめに必要な指先の巧緻性を養うための作業課題を行うなど)。
ブランコなどの遊具やボールを籠に投げ入れるなどの活動で、感覚の入力や感覚の統合が適切にできるようにする感覚統合療法も作業療法士が行います。
●言語聴覚士
子どもの言語理解や表出、そしてコミュニケーションについての評価に基づき、子どもの状況にあったコミュニケーションや言葉の発達に関する支援を行います。発音の障害、場面緘黙(かんもく)や聴覚障害や食事の問題に関する支援も行います。
●音楽療法士
目的に応じたプログラムを組み、子どもが音楽に触れたり、音楽を演奏したりすることで、子どもの心身の安定や子どもがコミュニケーションを広げる手助けをします。
●社会福祉士
子どもや保護者が利用できる制度についての相談、医師やそのほかの関係者との連絡および調整などの援助を行います。
療育を受けるにはどうしたらいい?療育機関とその特徴について
就学前の子どもが療育を受ける場合、最も多いのは定期的に療育機関に通うケースです。国の制度に基づく福祉サービスを受ける場合は『通所受給者証』(受給者証)が必要です。
子どもの発達が気になったら、早めに相談を
子どもの発達が気になったら、療育が必要かどうかも含め、 まずは地域の保健センターや、 市区町村の担当課(児童福祉関係課、障害者福祉関係課)などに相談をしてみましょう。医療機関や療育機関、発達相談などの支援者を紹介してくれます。
療育はどこで受けられるの?
就学前の子どもの療育機関には以下のような場所があります。子どもに非常に顕著な症状(睡眠障害、極度の偏食、排せつの問題などの健康問題、奇声や自傷、他害などの行動の問題、明らかな発達の遅れ等)がみられる場合は、医療機関を受診するといいでしょう。そうでない場合には、通いやすさ、頻度、療育の内容、子どもが楽しく通えるか、などを考えて療育機関を選びましょう。複数の療育機関に通うことも可能です。
●医療機関
医療と連携しながら、医師と各種専門家のチームでの療育を受けることができます。ただし、専門医が少なく、受診までに6カ月ほど待つこともあります。通院の頻度は月1〜2回のところが多いです。
費用は健康保険利用で1回約1000〜3000円、乳幼児医療助成制度がある場合は無料〜数百円程度(自治体により異なる)です。
●児童発達支援センター(福祉型)、児童発達支援事業所
児童発達支援センター(福祉型)、児童発達支援事業所では、所属する専門家による療育を受けることができます。利用するには市区町村が発行する通所受給者証が必要です。頻度は週1〜2回のことが多く、現在は、
幼児教育・保育の無償化により満3歳になったあとの4月1日〜就学までは無料です。それ以外は1回約5000円〜1万円程度かかりますが、受給者証を取得すると公費補助が受けられます(年収890万円以下で月額上限4600円程度)。
●制度外の療育ビジネスが運営する療育施設
内容、頻度や費用は施設により異なります。
療育を受けるにはどんな手続きが必要なの?
児童発達支援事業所、児童発達支援センターなどの国の制度に基づく療育サービスを受ける場合には、市区町村が発行する『通所受給者証』(受給者証)を取得する必要があります。
●申請窓口/市区町村の児童福祉関係課、障害者福祉関係課等
●手続き
(1)市区町村の窓口に利用相談に行く
(2)施設見学をして、利用する曜日・時間などを確認する。空きがあれば施設に利用の内諾をもらう
(3)申請、調査、審査:市区町村に申請すると、子どもの状態の調査がある
(4)受給者証の交付
(5)受給者証と「障害児支援利用計画」を用意して利用する施設と契約をする
※交付の条件や手続きは市区町村によって異なるので、窓口に問い合わせをしましょう。
発達障害は生まれつきの脳の特性によるものです。療育にかかわる専門職は、子どもの特性をみて、子どもに合った教え方、かかわり方で子どもとかかわります。
子どもは特性の理解に立った適切なかかわり方をされることで、さまざまなことが学べるようになるとともに、「人とかかわると楽しい」「自分はこれが好きだ」「自分はいろんなことができる」という経験を重ねることができるようになります。
両親や家族も、専門職からアドバイスを受けることで、子どもの特性を理解し、子どもに合ったかかわり方ができるようになり、その結果、家族の暮らしも穏やかになっていきます。
取材・文/早川奈緒子、ひよこクラブ編集部
「そのまま」だとどうしても起きてきてしまう発達障害のある子の「生活のしにくさ」は療育で適切な理解とかかわを続けることによって、予防・軽減できます。「気になるな」と思った時の相談に始まり、療育を後押しする制度はたくさんあります。
制度の運用は市区町村ごとに異なりますし、制度の改変もありますので、住んでいる市区町村の該当窓口に問い合わせて、必要に応じて福祉・支援を利用しましょう。適期に適切な療育を始めることはとても大切です。
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