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東日本大震災の取材、無力感や後悔から防災アナウンサーに。事前にできる“防災”を

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東日本大震災をきっかけに防災をライフワークに取り組み始め、防災士・環境省森里川海プロジェクトアンバサダーとしても活躍している防災アナウンサー 奥村奈津美さん。2才の男の子を育てるママでもある奥村さんに、子どもたちの命を守るため、ママやパパに知ってほしいことについて話を聞きました。

東日本大震災をきっかけに防災をライフワークに

東日本大震災直後の緊急報道番組の様子

――2011年、東日本大震災では被災地の状況などのリポートをされていたそうです。大変な状況でしたが、どんな気持ちで報道していましたか?

奥村さん(以下敬称略) 宮城県のテレビ局でアナウンサーをしていた私は、地震発生直後から72時間の緊急報道に携わりました。放送局内も被災してスタジオ以外は真っ暗で、自家発電も使えなかったので、中継車から電波を発信して放送をしていました。そこに入ってくるのは、この世のものとは思えない映像ばかり。被災地に取材に行くとご遺体もあり、スタッフみんな、涙を流しながら働いていました。あのとき、たくさんの悲しい光景を目にし、自分には何もできなかったという無力感や後悔が残っています。

そんな中でも、私の「暖房もなく寒い中、津波でぬれた状態で避難している人がいます」というリポートを見た人が、石油ストーブと灯油をトラックに積んで運んできてくれたということがありました。呼びかけが支援につながったことに希望も感じ、それ以来10年間、防災をライフワークに取り組んできました。そして2020年、防災についての伝え手になろうと決心し「防災アナウンサー」として活動を始めました。

被災地の声で強く心に残っていること

2015年 関東・東北豪雨 鬼怒川決壊により1階の軒下まで浸水した

――この10年間で10カ所以上の被災地に直接赴き、調査、取材、ボランティア活動を行ってきた奥村さんですが、被災者の声で心に残っているものはありますか?

奥村 被災者、被災遺族の方に話を聞くと、みなさん口にするのが「まさか自分がこうなるとは思わなかった」という話です。そして「もっと備えておけばよかった」「もっと早く避難すればよかった」という後悔。東日本大震災を経験して、だれもが気をつけよう、と思ったはずなのに、自分ごとにして準備できる人は少ないです。災害が起きたあとは手遅れになってしまうけれど、起きる前ならできることは無数にあります。事後ではなく、事前にできる“防災”についてもっと発信していきたいと強く思っています。

保育園や幼稚園の防災対策を確認しておこう

――奥村さん自身も2才の男の子を育てるママですが、子育て中のママやパパたちが知っておくべきことを教えてください。

奥村 東日本大震災で亡くなってしまった日和幼稚園の園児のご遺族に話を聞いたことがあります。地震のあと、安全であった高台にある幼稚園から、子どもたちを乗せたバスがなぜか津波が来る方向に走ったそうです。付近は津波から難を逃れようとしていた車で渋滞し、そこに津波が押し寄せバスは被災しました。被災した幼稚園バスの周辺にはその後火災が発生し、園児5人が延焼火災に巻き込まれ、命を落としてしまったんです。

人災の側面もあるこの教訓を未来につなげなければいけません。ご遺族は「災害に関心を持って、自分にできることに取り組んでほしい」と話していました。

ママやパパたちは、自宅での防災の備えももちろんですが、子どもが自宅外にいるときに災害が起こる場面も想像してほしいです。とくに共働き家庭は帰宅困難になれば、数日間、子どもを園に預ける状況にもなり得ます。災害時に園がどこにどのように子どもたちを避難させるかも確認しておく必要があります。

また、アレルギーがある子は対応する食品を備蓄してもらう、薬が必要な子は非常用持ち出し袋に入れてロッカーに置いておくなど、準備できることはしてほしいです。自然災害が起こることは防げないことかもしれませんが、人災的要素はできる限りなんとかしたい。小さな子どもの命を守れるのは親です。自宅の防災だけでなく、保育園や幼稚園の防災対策も確認してほしいですね。

妊婦、子育てママはマイノリティー。もっと声を出そう

――いざ災害が起き、避難所に行くとなると、乳幼児がいるママやパパは夜泣きや授乳など、避難所での生活がストレスになることもあると聞きます。ミルクや生理用品などの支援物資が届きにくいなどのニュースもありました。女性として気になることは?

奥村 子育て中のママ、とくに妊婦はマイノリティーで、なかなか声が届きにくい現状があります。けれど、未来を担う子どもの命を守ると考えると、妊産婦や乳幼児を抱えたママやパパたちの意見は尊いものです。だからこそ、当事者目線で発信することが私たちに求められている役割だと感じています。やっぱり、誰かが気づいて声を上げないと変わらないですよね。

男女共同参画の視点からの防災のガイドラインとして、避難所などで妊婦や子育て中の女性に配慮するように明記されてはいますが、実際に現場のリーダーや職員は男性が多いです。男性で気づかないことは声を上げて知らせる必要があると思っています。

もし被災して避難所で過ごすなら「授乳期の人がいるから授乳室を作ってください」とか「子育て家庭は部屋を分けてください」とか、運営者に要望を伝えることで変わることがあるはずだと思います。

オンライン防災講座、関心がない人に届けたい

奥村奈津美さん主催 オンライン防災講座の様子

――奥村さんはオンラインでの防災講座を毎月開催しています。どんな人に、何を伝えたいですか?

奥村 新型コロナ以前は対面での防災訓練で講演などをしていましたが、コロナでまったくできなくなってしまったので、2020年5月からオンライン防災講座を始めました。講座のいちばんのテーマは、関心がない人に届ける、ということ。

この10年防災にかかわって、防災意識の格差が広がっているな、と感じています。関心がない人は、水すら備えていないんですね。どんなに呼びかけても、関心がないとどうしても届かないんです。そこで、子育て世代が知りたいテーマ…アレルギーや離乳食、口腔ケアなど、普段の子育てに役立つことと、一緒に防災のことを発信しています。これまで防災をしてこなかったママたちから、防災について考えるきっかけになった、という声をもらっています。届けたい人に少しずつでも届けることができ、うれしいですね。

お話・監修・写真提供/奥村奈津美さん 取材・文/早川奈緒子、ひよこクラブ編集部

東日本大震災の体験だけでなく、日本各地の災害現場に直接行って、被災者の声を聞いてきた奥村さん。自身も子を持つ親だからこそ「命を守る」ことへの強い思いがあります。目の前の大切な命を守るために、自分にできる小さなことから考え始めてみませんか。

奥村奈津美さん(おくむらなつみ)

Profile
1982年 東京生まれ。広島、仙台で8年間、地方局アナウンサーとして活動。その後、東京に戻り2013年からフリーアナウンサーに。TBS『はなまるマーケット』で「はなまるアナ」(リポーター)を務め、NHK『ニュースウオッチ9』や『NHKジャーナル』など報道番組を長年担当。防災士、福祉防災認定コーチ、防災教育推進協会講師、防災住宅研究所理事として防災啓発活動に携わるとともに、環境省 森里川海プロジェクトアンバサダーとして「防災×気候変動」をテーマに取材、発信中。一児の母。

子どもの命と未来を守る! 「防災」新常識 パパ、ママができる!!水害・地震への備え

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コロナ禍の避難の考え方・温暖化で頻発する豪雨など、新しい時代の災害を家族で生き抜くための“防災本"。妊娠・出産したら読む防災の本です。

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