東日本大震災を経験した医師が教える防災対策!アレルギーがある子は特に注意を
地震、水害、土砂崩れなど、全国的に災害が頻発しています。家庭でも、さまざまな防災対策をしていると思いますが、アレルギーがある子の防災対策はプラスαが必要です。アレルギーの子のための防災対策について、宮城県立こども病院 アレルギー科科長 三浦克志先生に聞きました。三浦先生は、2011年3月11日に発生した、東日本大震災で甚大な被害を受けた宮城県出身・在住です。
災害でライフラインが止まると、アレルギー症状は悪化しやすい
三浦先生は、ほかの医師と共に東日本大震災後の2011年4月22日から5月23日の1カ月間、定期受診をしたアレルギー疾患をもつ子のママ・パパにアンケートを実施。『東日本大震災におけるアレルギー児の保護者へのアンケート調査』という論文を発表しています。データからは、アレルギー疾患がある子に与える震災の影響などがわかります。
――東日本大震災発生直後、先生の病院は診療ができないような状況だったのでしょうか。
三浦先生(以下敬称略) 地震が起きたときは診察中でした。私が勤務する宮城県立こども病院は、免震構造だったため大きな被害はなく、震災直後から診察は継続できました。
――震災直後アレルギーが悪化し、受診した子は増えたのでしょうか。
三浦 私たちがまとめたデータでは、気管支ぜんそくがひどくなった子は22%(n=164)、アトピー性皮膚炎がひどくなった子は55%(n=228)でした。私の病院でも、アトピー性皮膚炎やぜんそくなどのアレルギー症状が悪化し、入院した子が何人かいました。しかし「ガソリンがない」「道路が通れない」などの理由で受診できない子もいました。
――震災で、子どものアレルギー症状が悪化する理由を教えてください。
三浦 電気、ガス、水道などのライフラインが止まることが大きな理由です。
たとえばアトピー性皮膚炎がある子のママ・パパに困ったことを聞いたところ、「入浴できずに湿疹が悪化した」という回答が90%以上でトップでした。また「皮膚を清潔に保つのが大変」という声もありました。
何日間も入浴できない環境が、症状の悪化につながったようです。そのため後でも触れますが、入浴できなくても体がふけるようにウェットティッシュなどは防災グッズに入れておいたほうがいいです。
東日本大震災では、アレルギーの薬が3日~1週間程度しか処方できなかったことも
災害時は、診療体制やいつも処方されている薬が入手できるのか気になります。
――災害時、いつも処方されている薬は比較的、入手しやすいのでしょうか。
三浦 道路が寸断されたりして物流が滞ると、いつもの処方薬が入手できないこともあります。東日本大震災のときは、物流の見通しが立つまでは、通常は1~3カ月分ぐらいまとめて処方していた薬を、3日分~1週間分しか処方できませんでした。
また震災時は、担当医に診てもらえなかったり、アレルギー専門の医師に診てもらえなかったりすることもあります。そうした場合は、住まいの近くの小児科や内科の医師に診てもらってください。
――担当医に診てもらえない場合、注意したほうがいいことはありますか。
三浦 お薬手帳を提示すれば問題はないのですが、東日本大震災のときは、津波によってお薬手帳が流されてしまった人が多かったです。
「いつも何の薬を、飲んでいましたか?」と聞いても「薬の名前がわからない」と言うママやパパもいたので、子どもがいつも処方される薬は覚えておくか、スマートフォンのカメラなどで写真を撮って保存しておいたほうがいいと思います。
最近は、大雨による水害も増えているので、お薬手帳の保管場所なども見直してください。
食物アレルギーの子は、避難所では注意が必要!
――アレルギーがある子が、避難所を利用するときの注意点を教えてください。
三浦 避難所の責任者と周囲の人には、どんなアレルギーをもっていて、どんなことで発作が誘発されるのか伝えてください。
とくに注意が必要なのは、食物アレルギーの子です。東日本大震災のときは食物アレルギーがある子が「ボランティアの人が配布した、表示がないお菓子を食べたところ、アレルゲンであるナッツ類が入っていて嘔吐した」などの報告がありました。
そのため子どもには、食べてはいけない食品などがひと目でわかるように、非常時用のアレルギー対応のサインプレートやビブスなどを着用させましょう。インターネット通販などで購入できます。
またアレルギーの子を守る避難所の環境整備については、私たちも行政担当者に呼びかけをしています。しかし食物アレルギー対応の備蓄品などが十分でない自治体もあるので、各家庭で備えたほうが安心です。
アレルギー疾患別 防災グッズに加えたほうがいいもの
アレルギーの子の防災対策は、以下を参考にしてください。
【基本の備え】
・お薬手帳
・薬1週間分
・緊急時お願いカード
(子ども・保護者の氏名、住所、緊急時の連絡先、かかりつけの医療機関・連絡先、アレルギー疾患名、緊急時の対応などを記入)
【アトピー性皮膚炎の場合】
・処方されている軟膏(未開封)
・入浴セット
・ウェットティッシュ
・空のペットボトル
(スキンケア用の水を補充するため)
・シャワーキャップ
(ペットボトルに取りつけて使うタイプ)
【食物アレルギーの場合】
・アレルギー対応食品1週間分
・食物アレルギーを知らせるためのビブスなど
・エピペン(アナフィラキシーの既往などがあり処方されている場合)
・食物アレルギー緊急対応マニュアル
【ぜんそくの場合】
・主治医が作成したアクションプラン(ぜんそく患者カード)
・発作時の薬1週間分
・使い捨てマスク
・防ダニシート
・スペーサー(ぜんそく用吸入補助器具)
・ピークフローメーターとぜんそく日記
取材・文/麻生珠恵、ひよこクラブ編集部
三浦先生は、食品や薬などの備蓄は1週間分が目安ですが、災害時、孤立しやすいエリアの場合は、プラスαが必要だと言います。東日本大震災のときは、1カ月近く救援物資が届かなかったエリアもあるそうです。また日本小児アレルギー学会では、三浦先生などが執筆委員を務めた『災害時のこどものアレルギー疾患対応パンフレット』をまとめています。ママ・パパ向けの情報がわかりやすく紹介されているので、チェックしてください。