コロナ禍で子どもの虐待が増えている!?「悩んだら電話をしてほしい」【子どもの虐待防止センター・相談員】
コロナ禍の中、増えているといわれ、社会問題化している子どもの虐待。1991年の設立以来29年間活動を続けている子どもの虐待防止センターの電話相談にかかってくる内容も変わってきているといいます。実際に電話相談に応じている相談員は「子育てに悩んだら電話してほしい」と話します。寄せられることが多い相談内容、相談員の対応、ママやパパの様子などについて聞きました。11月は厚生労働省提唱の児童虐待防止推進月間です。
相談者の大半は子育て中のママ
子どもを守るためには、子育てに悩むママやパパに寄り添い、気持ちを理解することが最重要課題、との考えで始まったのが子どもの虐待防止センターの電話相談です。
電話をかけてくる人の多くは子育て中のママだとか。相談員は相談者の話をじっくり聴くようにしているので、通話時間は1時間に及ぶこともあります。
「電話相談は相談員も相談者も匿名。お互いに名乗ることはせず会話を始めます。『イライラして子どもをたたいてしまいました』『下の子が生まれたら上の子がかわいく思えなくなり、どう接すればいいのかわかりません』など、かなり追い詰められた状態で電話をしてくる人も少なくありません。
相談員は、ママが悩んでいること、心配なことなどをゆっくり時間をかけて聴き、一緒に解決方法を探していきます。30分~1時間程度話を聞くと、多くの人は気持ちが前向きになり、最後には笑いが出ることも。『うちの子、かわいいところもあるんですよ。子どもともう一度向き合ってみます』と明るく言って電話を切るケースもあります」(相談員Nさん)
相談時間帯(平日:10時~17時、土曜日:10時~15時)は、子どもがママのそばにいる家庭も多いです。電話をしたくても子どもがいるからかけられない…というママは少なくなさそうです。
「子どもが昼寝をしている間、幼稚園に行っている間、DVDを見せている間などにかけてくるママが多いですが、途中でお子さんがぐずってしまい、一度切ってまたかけ直してくる、なんてこともありますよ。また、『何をしても泣きやまないんです。どうしたらいいんでしょうか』と、子どもが大泣きしている状態でかけてくるママもいます。
育児中のママが、落ち着いた環境で電話をできる機会はすごく少ないと思います。『子どもが寝たあとで』『静かに話せるときに』などと考えず、話を聴いてほしいと思ったら、その場で電話をかけてきてほしいと思っています」(相談員Nさん)
話を聴いてもらうことで、自ら解決策を見つけ出せることも
新型コロナウイルスの感染防止のために、親子が家にいる時間が増えました。それにより、相談内容に変化はあったでしょうか。
「夫婦ともに在宅勤務、お子さんは保育園を休んで家にいる状態で、パパは1日中仕事に集中。仕事・家事・育児すべてをこなしていたママから、イライラして子どもにどなり散らしてしまった…という相談がありました。コロナ禍で増えた相談例です。
このケースは話を聞いているうちに、自分一人ですべてをこなすのは物理的に無理だと気づき、『一人で全部やれるわけないですよね。無理をしていました。パパと話し合ってみます』と、解決策を見つけることができました」(相談員Nさん)
人に話を聴いてもらうと、自分の置かれた立場を客観的に見られるようになり、今の状況を打破するにはどうしたらいいか、答えを自分で導き出せることがありますね。
「話をしているうちに解決策を自分で見つけ出し、育児に前向きになれた人は少なくないと思います」(相談員Nさん)
虐待はどの家庭でも起こりうること。孤立しないことが重要
コロナ禍で子どもの虐待が増えていることが問題になっています。子どもの虐待は、以下の4つに定義されます。
●身体的虐待:殴る、ける、たたくなどの暴力をふるって身体的苦痛を与えること。
●心理的虐待:言葉で脅す、無視する、きょうだい間で差別的な扱いをする、子どもの前で夫婦間暴力(DV)を行うなど、精神的苦痛を与えること。
●ネグレクト:食事を与えない、ひどく不潔なままにする、重い病気でも医者に見せない、学校に行かせないなどの養育の拒否や、子どもを放置したり、家族や第三者からの虐待を見過ごしたりすること。
●性的虐待:性関係の強要、性的行為を見せる、ポルノなどの被写体にするなど、子どもに性的な刺激を与えたり、性的行為をさせたりすること。
「虐待はどの子家庭でも起こりうることであり、虐待をする親と子どもは、周囲の温かい支えと支援が必要」というのが同センターの考えです。
電話で話を聴く中で、支援が必要と思われるケースにはどのように対応されていますか。
「虐待をしている親自身が悩み、やめたいと望んでいるケースも多いのです。まず、ここに電話できたことで第一歩が踏み出せたんだと話します。その上で、子どもに手をあげそうになったらいつでも電話をしていてほしいと伝えます。具体的な支援が必要であれば児童相談所に相談することをすすめる場合もあります。
匿名相談のため対応には限界がありますが、孤立が虐待を悪化させることは間違いないので、相談してきたママが『自分は一人ではない』と実感できたとしたら、それだけでも電話相談の意味があると考えています」(相談員Nさん)
悩みを抱えたママたちに共感し、一緒に解決策を探していくのは大変なことだと思います。
どのような方が相談員をしているのでしょうか。
「相談員になるには、当センターで行っている相談員養成講座を受ける必要があります。理論講座で子どもの虐待についての理解や傾聴のしかたなど相談員が身につけておくべきことを学び、ロールプレイで相談の場面を再現し実践的に学びます。」(相談員Nさん)
家庭や学校、地域など社会全般で、児童虐待問題に対する深い関心と理解を得ることができるよう、厚生労働省は毎年11月を「児童虐待防止推進月間」に設定しています。これに合わせて同センターでは、電話相談キャンペーンを実施。2020年11月6日(金)・7日(土)の2日間は受付時間を10時~21時まで延長して相談を受けるそうです。
「通常の時間帯だと電話できない、というママやパパにも、電話相談を利用してほしいという願いを込めています。すごく悩んでいるわけではないけどちょっと人と話がしたい、そんな場合でももちろんOKです。遠慮せず電話をかけてきてくださいね。コロナ禍で相談件数が増えているため、電話をかけてくださったときに話し中になってしまうことがあるかもしれません。でもあきらめずに、少し時間をおいて電話をかけてきてほしいと思います
」(相談員Nさん)
*子どもの虐待防止センターの相談員は匿名で電話相談に応じているため、仮名で掲載しました。
お話/子どもの虐待防止センター 取材・文/東裕美、ひよこクラブ編集部
子育てに悩みは尽きず、悩みは一人で抱えているとどんどん大きくなりがち。だれかに話を聞いてほしい、でもママ友や親きょうだいには話せない…そんなときは、電話相談を利用してみませんか。きっと気持ちがラクになり、子育てに前向きになれるでしょう。
子どもの虐待防止センター
Profile
1991年に任意団体として発足、97年社会福祉認法人認可。理事長は小児科医の松田博雄先生。臨床心理士、弁護士、小児精神科医、ソーシャルワーカーなど、各分野の専門家11人が理事を務める。
2021年11/3(祝日)10:00~17:00 電話相談キャンペーンが行われます。