吃音は、話し言葉がなめらかに出ない 発話障害のひとつ。適切な対応が大切【小児科医】
話そうとすると言葉がつかえたり、同じ言葉を連発したりする「吃音」。子ども自身もつらそうですし、「どうしてなのか」「どうしたらいいのか」わからずに悩んでいるママ・パパも多いかもしれません。
「今年10月に吃音のガイドラインが公開され、中には保護者向けサポート方法も載っているので、吃音やその疑い症状があるお子さんをお持ちの家庭にぜひ知ってほしい情報です」と太田先生は言います。
小児科医・太田先生からママ・パパへ、今伝えたいこと」連載の#15は、吃音のガイドライン公開についての情報です。
「幼児吃音の臨床ガイドライン」が公開
今年10月に、国立障害者リハビリテーション研究所の森浩一先生を中心に作成された、幼児吃音の臨床ガイドラインが公開されました。
現状では、吃音について、詳しい知識を持つ医療関係者が少ないために、その治療法の普及が遅れており、「ガイドラインがあれば、海外の事例を含む最新の治療法や知識を社会全体で共有できる」「吃音の専門家ではない地域の小児科や耳鼻咽喉科の医師、言語聴覚士が、保護者らの相談に対応できるようになり、適切な診断や治療につながる」と森先生は語られたと新聞記事に書いてありました。
膨大なガイドライン、気になるところから読んでみて
公開されたのは幼児吃音臨床ガイドライン第1版(2021)です。
内容は盛りだくさんで、医療関係者に向けた治療法の紹介だけでなく、保護者や保育園・幼稚園の教員ら向けの資料もあり、吃音の基礎知識や吃音の子どもへの対応、サポート方法などが記載されています。
添付資料もわかりやすく分類されています。
1.添付資料1『吃音って何?』
一般向け情報提供書
2.添付資料2『吃音かなと思ったら』
幼稚園・保育園・認定こども園の先生へ
3.添付資料3『吃音(どもり)に関する相談を受けたら』
地域における子育て支援に関わる方々、特に保健師の方へ
4.添付資料4『お子さんがどもっていると感じたら』
家族にてきるお子さんへのサポートについて
5.添付資料5 『お子さんがどもっていると感じたら』
保護者向けリーフレット
6.添付資料6 『吃音に関する調査票』
外来初診時に使用する調査票 (保護者記入用)と解説
すべてを読むのは大変です。自分に関係あると思う所を優先して読んでいただければいいと思います。
吃音は適切な対応をすることが大切
当院の3歳児健診でも「どもるようになったのですが、どうしたらいいでしょうか」という質問を受けることがあります。
ガイドラインによると、「この時期は、吃音が始まってから半年~1年程度の症状の変動の大きい時期にあたる事が多いそうで、保健・医療関係者からは『様子を見ましょう』と言われることが多くなりがちだが、どのような子どもは、様子を見ても問題なく、どのような子どもは早期に介入を開始したほうがいいのか、その振り分けは不可能なので適切な対応を指導することが重要である」ということになります。
幸い当院の近くには、言語訓練を受けられる公的施設(申し込みから初診まで数カ月待ちの状態です)があるので、診断と治療はそこに紹介できていますが、国内には吃音の専門家が少なく、早期診断や適切な対応・治療につながりにくい地域も多いのが現状のようです。そういう方にもこのガイドラインは安心材料となると思われます。
吃音の発症の多くは遺伝によるもの。「育て方」の問題ではない
吃音は、話し言葉がなめらかに出ない発話障害のひとつです。
原因については、私が手に入れていた専門書(2020年7月初版)には「吃音の原因は特定されていません」と書いてありましたが、ガイドラインには発症の原因の大半が遺伝によるものであると書いてあり、昔からいわれることがあった「育て方が悪いから吃音を発症する」という説は否定されていました。
しかし、まだ、この知見も知れ渡っていないので、育て方が悪かったからかもしれないという罪悪感をいだいているママ・パパたちが多いと思われます。関係者に早く知れ渡ることが期待されます。
幼児の吃音の発症率は約1割ほどで、7割以上は自然に治ると書いてあります。しかし、どの子が治って、どの子が治りにくいかはわからないので、「様子を見ましょう」という対応はしないほうがいいいと。軽いからと言って放置していいわけではない、適切な時期に相談対応機関に受診すべきと読めます。治療の有効率は、幼児のほうが学齢期より高く、現在では有効7割の治療方法が複数確立されたとも書いてありました。
私自身もまだ熟読はできていませんが、今まで知らなかったことがたくさん書いてありました。医療者向けには、発生率、自然経過、専門家への相談が必要な時期、治療法などの記載があり、保護者や子育て支援にかかわる方向けにはサポート方法が詳しく記載してあります。
ガイドラインの指針に従うことで、吃音のある幼児を育てる不安を低減することが望まれると書いてありますが、まさに今後の診療にも大いに役立てる内容でした。今後は、ガイドラインを活用して、保護者を心配させすぎずに適切な治療を受けてもらうよう説明しようと思いなおしています。
文・監修/太田文夫先生 構成/ひよこクラブ編集部
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