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「このお口、見れなくなるの少し寂しい」。口唇口蓋裂の子を育てる母の想いと治療とは?~新生児医療の現場から~【新生児科医・豊島勝昭】

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手術前、矯正プレートを口から出して遊んでいるゆいちゃん。

NICUの赤ちゃんたちの成長や家族のかかわりについて、専門家に聞く不定期連載。テレビドラマ『コウノドリ』(2015年、2017年)でも監修を務めた神奈川県立こども医療センター周産期医療センターの豊島勝昭先生に話を聞きます。第12回は、生まれつき唇や歯ぐきなどに割れめがある病気、口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)の赤ちゃんの治療や成長についてです。

「傷跡が消えなかったら」と不安だった

生後間もないゆいちゃん。すやすやねんねしています。

――神奈川県立こども医療センター(以下、神奈川こども)には口唇口蓋裂のある赤ちゃんは年間どのくらい受診していますか。

豊島先生(以下敬称略) 口唇口蓋裂は唇顎口蓋裂(しんがくこうがいれつ)ともいわれ赤ちゃん約500人に1人の割合で見られる病気で、神奈川こどもでは年間約10人の口唇口蓋裂の赤ちゃんの出産があります。原因は遺伝的な要因と環境的な要因が複雑に影響して起こるといわれています。最近は妊娠中のエコー検査でわかることが多く、妊娠中に診断されて、神奈川県の場合、神奈川こどもで出産する家族がほとんどになっています。

近年は医学の進歩で治療方法も確立されつつあり、しっかり治せる病気です。適切な時期に適切な治療・支援を受ければ、機能的な障害は少なく通常の生活を送れることが多いです。

――口唇口蓋裂のある子が治療したエピソードを教えてください。

豊島 ゆいちゃん(仮名)の母・りえさん(仮名)は妊娠25週ころの妊婦健診のエコー検査で「赤ちゃんに口唇裂がありそう」だと言われ、神奈川こどもを紹介受診しました。神奈川こどもに入院して検査をしたところ、おなかの赤ちゃんに口唇裂だけでなく、生まれつきの心臓病があることもわかりました。
りえさんは『顔の手術の傷跡が消えなかったら・・・』と不安だったようですが、歯科や形成外科の医師たちから、赤ちゃんが生まれたあとの治療について説明を受け『口唇裂は手術で治る病気』と出産前には理解してくれたようでした。

2022年12月、神奈川こどもで生まれたゆいちゃん。出産後、口唇顎裂(唇と歯ぐきが割れている)と診断されました。ゆいちゃんには心疾患もあったためにNICUに入院。心臓の様子もみながら、生後すぐに口唇顎裂の矯正プレートを装着して歯ぐきの治療を始めました。ゆいちゃんは口唇口蓋裂専用の哺乳びんでしっかりミルクを飲んで成長し、心臓の治療を終えてから、1歳1カ月ごろに口唇顎裂の手術を終えました。

手術の日、母のりえさんは「このお口も手術が終わったら見れなくなるんだなと思うと、少し寂しい気持ちでした」とのちに話してくれました。手術は無事に成功し、数カ月したら幼児食もしっかり食べられるようになったそうです。現在ゆいちゃんは2歳を過ぎ、おせんべいもから揚げももりもり食べる元気いっぱいの女の子に。傷あともほとんどわからなくなり、初めて会った人に伝えると「全然わからなかった!」と驚かれるほどだと聞いています。りえさんは「子どもの適応能力と回復力はすごいです。同じ病気のある子のご家族には、お子さんを信じて前を向いて頑張ってほしい」と話していました。

胎児はもともと口やあごが割れている

離乳食タイム。矯正プレートをつけたまま離乳食も食べられます。

――口唇口蓋裂はどのような症状があるのでしょうか。

豊島 大きく口唇裂(唇が割れている)、口蓋裂(口の中の上あごが割れている)、顎裂(歯ぐきが割れている)の3つの症状に分けられます。赤ちゃんの唇や歯ぐきが割れていると聞くとびっくりするかもしれませんが、実は胎児はみんな、最初は上あごも下あごも割れた状態です。お母さんのおなかの中で少しずつくっついていきますが、一部の赤ちゃんではその過程が途中で止まってしまうことがあります。そのため、唇や歯ぐきが割れたままの状態で生まれてくることがあるのです。

口唇裂は、唇だけでなく鼻のほうまで割れていることもあります。また上あごが割れている口蓋裂の場合には、発語の問題が生まれたり、顎裂は歯ぐきが割れたところに歯が生えないことによる歯並びの問題があったりします。そのため、小児科、形成外科、耳鼻咽喉科、歯科などの多様な職種によるチーム医療が重要です。

生まれつきのお顔に構造異常があると、家族の不安も大きいと思います。最初は見慣れなくて驚くこともあるでしょう。でも見慣れてくるとかわいいと感じる家族も多いです。赤ちゃんの笑顔はとってもかわいいものですよね。

――妊娠中からわかることが多いですか?

豊島 神奈川県は胎児診療がさかんなので、胎児期に見つかることがほとんどです。胎児期に口唇裂と口蓋裂の両方あるかどうかを確かめたり、ほかの合併症があるかどうかも確認します。口唇口蓋裂があるお子さんは、20〜50%が染色体異常などのほかの病気を合併することがあるのです。

妊娠中に口唇口蓋裂があることがわかれば、合併症などのことも含め、どんな治療をしていくかを、新生児科、形成外科、歯科などの医師が家族に説明しています。口唇口蓋裂自体はしっかり治療すれば治せる病気だということを説明して、出産に向けて家族の不安をやわらげたいと思っています。

生後すぐから矯正治療をして、多くの場合手術は1回

2歳を過ぎたゆいちゃん。おどけて「あっかんべー!」しています。

――口唇口蓋裂の手術は、いつ行うのでしょうか。

豊島 神奈川こどもでは、できるだけ手術回数を少なくする治療方針をとっています。そのためほかの合併症がなければ、生後2〜3日で歯ぐきの形を整えるための装置(矯正プレート)というものを装着して、歯ぐきの形を矯正する治療を開始します。生後3〜4カ月くらいまで2週間に1回通院してもらい、矯正装置の調整をします。その後、生後7〜8カ月で唇や歯ぐきやあごをくっつける手術を同時に行います。

ほかの医療機関では、生後3カ月ごろに唇の手術、1歳半ごろに上あごの手術と、2段階で行われることが多いようですが、神奈川こどもでは口唇口蓋裂のお子さんの半数以上に1回で同時手術を行っています。

――出産後、7〜8カ月ごろの手術までの入院は必要ですか?

豊島 いいえ、心臓病などを合併していない口唇口蓋裂であれば、誕生後1週間程度でお母さんと一緒に退院できます。ほとんど通常のお子さんと同じような生活が可能です。離乳食も食べられますし、保育園の生活も送れるので、職場復帰しているお母さんもいます。

ただ、心臓病や肺の病気、染色体異常など、ほかのご病気がある場合はNICUに入院して治療が必要です。矯正プレートを入れると呼吸が苦しそうなら、口唇口蓋裂の矯正治療は先送りにし、心臓や肺などの病気の治療を先に行います。

口唇口蓋裂がある子の、生活上の心配ごととは?

手術後のゆいちゃん。傷口を触らないように、手にサポーター(抑制筒)をつけています。

――口唇口蓋裂がある赤ちゃんもミルクを飲めるのでしょうか?

豊島 唇や上あごが割れていても母乳による授乳はできますし、専用の哺乳びんの乳首もあります。ただ唇や上あごにすき間があると、飲む力があってもうまく吸い込めないことや、鼻から少しミルクが出てしまうことがあります。母乳をあげても体重が増えにくい場合は、搾乳して哺乳びんで飲ませたり、人工乳をたしたりすることもあります。

また、ミルクと一緒に空気を飲みやすいので、授乳の途中でげっぷをさせてあげる必要があったり、飲むのに時間がかかったりすることもあります。でも、だんだん成長して生後1カ月くらいには上手に飲めるようになる子は多いです。

――発語についてはどうでしょうか?

豊島 口蓋裂のあるお子さんは、鼻(鼻咽腔)と口の奥ののどをふさぐ弁がうまく機能せずに、発音するときに空気が鼻のほうにもれてしまい、「か行」や「ぱ行」などを発音しにくい「構音障害」になることがあります。

手術後は、発語前から言語聴覚士がチェックして、早めに言語訓練を開始することもあります。構音障害が生じた場合にも、訓練で改善することがほとんどです。神奈川こどもで手術したお子さんたちの半数以上は、構音障害を生じることなく成長しています。

また、口唇口蓋裂のある場合、滲出性中耳炎(しんしゅつせいちゅうじえん)になりやすいことも知られています。中耳炎を放置すると難聴の原因になりますので、耳鼻科医とも連携して経過観察を行います。母乳栄養によって中耳炎のリスクが半分ほどになるという報告もありますので、口唇口蓋裂のお子さんにも母乳育児支援は大事だと考えています。

お話・監修/豊島勝昭先生 写真提供/ブログ「がんばれ!小さき生命たちよ Ver.2」、りえさん 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部

口唇口蓋裂の症状によって手術回数や治療の流れに違いはありますが、適切に治療すれば治る病気とのことです。一方で、発音や見た目の問題などで悩む人も・・・。親、そして形成外科、耳鼻咽喉科、歯科などの医師たちが連携を取って治療をすすめることが大切なようです。

神奈川こどもNICU 早産児の育児応援サイト

がんばれ!小さき生命たちよ Ver.2

●記事の内容は2025年5月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

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