国内初!「幼児吃音臨床ガイドライン」が9月に発表。子どもに「ゆっくり話してごらん」はNG!正しい対応は?【専門家】
発達障害の症状の1つである吃音(きつおん)は「どもり」ともいわれ昔からある言語症状ですが、日本ではこれまであまり注目されてこなかったため、国内に吃音の専門家は少なく、治療法も普及していない状況です。2021年11月上旬に開催された、こども発達支援研究会の主催によるセミナー「吃音を抱える子どもたちへの支援」では、講師である言語聴覚士 寺田奈々先生が吃音に関する正しい情報や支援の現状について話しました。その内容をリポートします。
吃音についての正しい理解が広がっていない
吃音とは、話し言葉がつっかえたり 詰まったり、音を繰り返したりして、思うように話すことが難しい症状のこと。幼児期の吃音は「発達性吃音」といわれるものがほとんどで、症状が出る原因は不明です。
「言葉を話すとき、私たちは頭の中で言葉を組み立て、それを口やのどを動かして話す、という協調運動をしています。吃音の症状が出るのは、脳がこのような運動の指令を出す段階で何らかのトラブルがあるのではないか、といわれていますが、詳しくはまだわかっていません。
吃音の子どもを持つ親は、育て方が悪かったのか、引っ越ししたのがよくなかったのか、下の子の誕生が原因かと思ったり、また愛情不足なのかな、などの原因を考えて自分を責めてしまいがちです。また、『自然と治るものだから小さいころは様子見がいい』『本人に自覚させると症状が重くなる』といった誤解を持っている場合も多いです。そのような誤解がないよう、吃音についての正しい知識を持つことが適切な支援のためには大事だと考えます」(寺田先生)
吃音の特徴とは?
幼児期に起きやすい発達性吃音には、以下のような特徴があります。
・2〜4才に発症することが多い
・2〜4才の8〜10%に発症する(※1)
・男児の割合が高い
「2〜4才代のうちに吃音になる子どもは1割ほどいますが、このうち約7割が自然治癒します。自然治癒するとはいえ、症状が出てから治るまでに1〜2年かかることが多いです。残りの約3割は自然治癒しませんので、治らない場合も想定して早めに対応できるといいと思います。
また、幼児期の症状は一時的に出たり出なかったりすることもあります。専門家に相談をするときにかぎって、吃音の症状がほとんど出ないことも。相談をするときには、症状が出ているときの録音や動画を用意していくといいでしょう」(寺田先生)
発達性吃音の症状
幼児期の吃音の主な症状には、以下の3つがあります。
・連発/初めの音や言葉の一部を繰り返す 例:「ぼぼぼぼぼくね」
・伸発(しんぱつ)/初めの音を引き延ばす 例:「あーーーのさ」
・難発(なんぱつ)/初めの言葉が出づらい(ブロックともいう) 例:「………っぼくね」
連発、伸発の症状は子どもとの会話の中で目立ちやすくわかりやすいですが、重症度は軽いのだとか。注意が必要なのは難発の症状があるときです。
「難発は言葉が出るまでに苦しく、力が入ることで身体的負担も大きいため、重い症状といえます。音が出ないので外見的には静かで、吃音が減っているように誤解されることや、吃音があるとわかりづらいことがあります。難発の症状が出ている子には、早めに専門家の介入が必要でしょう」(寺田先生)
また、これらの症状にともなって現れる二次的な症状もあるのだそうです。
「難発の症状がある子は、声を出そうとして体に力が入り、ひざをたたく、首を振る、腕を振り下ろすなどの、随伴(ずいはん)症状と呼ばれる動きが出ることがあります。また、吃音が出ないような話し方を工夫することも。たとえば『おかあさん』のおの音がどもりそうだと気づいたら、『お』をつけずに『かあさん』ということなどです。このほか、話すこと自体を避けたり言葉の言い換えをしたりすることや、吃音が出るかもしれない、と不安を感じることもあります」(寺田先生)
吃音のある子にやってしまいがちなNG対応
子どもに吃音が出ると周囲は驚いてあわててしまい、悪気なく不適切な対応をしてしまうことがあります。アドバイスや子どもの話をさえぎることはやってしまいがちですが、注意が必要です。
「子どもに吃音が出ると『ゆっくり、落ち着いて話してごらん』と言ってしまうことが多く見られますが、小学校低学年くらいまでの子どもにはアドバイスは効果がありません。本人も言われたくないと思っていることもあります。それよりは親や周囲がゆっくり話すように心がけ、子どももゆっくり話ができる環境にするほうがいいでしょう。
また、子どもが言いかけた言葉を先取りしたり、話をさえぎったりすることもNGです。子どもが苦しそうに話そうとする様子を見ていると、つい先取りしたくなる気持ちはわかりますが、ぜひ子ども自身に言わせてあげてほしいです。子どもが言おうとしている言葉を奪わないようにしてあげましょう」(寺田先生)
子どもの吃音の症状が気になる場合、親ができる支援は「子どもが話しやすい環境を作ってあげること」と寺田先生は言います。
「自然な抑揚で、優しい声でゆっくり話しかけてあげることや、子どもの発達に合わせて理解できる言葉で話してあげること、できれば静かな環境で、子どもに体を向けて話を聞いてあげることなどです。話し相手の大人が、いい聞き手になることが重要です。
また、保育園や幼稚園の先生やお友だちに吃音について理解してもらうよう説明をするなどの間接的な支援も効果的です。吃音の症状自体は緩和しなくても、環境が変われば子ども自身の心の負担を少なくしてあげられるでしょう」(寺田先生)
2021年9月、国内初「幼児吃音臨床ガイドライン」が発表
今年9月、国立障害者が、国内で初めて「幼児吃音臨床ガイドライン」を作成し、発表しました(※1)。一般的に、吃音がある子どもに対しては、小児科や耳鼻咽喉科の医師と言語聴覚士が協力して対応しますが、吃音に関する詳しい知識を持つ医療関係者は国内に少ないのが現状です。そのため、ガイドライン作成によって、関係者が連携して早期診断や適切な治療につなげてもらうのがねらいです。ガイドラインでは幼児期における有効な治療法として「RESTART/JSTART-DCM(※2)」と「リッカムプログラム」の2つがあげられています。
「『RESTART/JSTART-DCM』は現在国立障害者リハビリテーションセンター病院の先生方を中心としたチームが、研修の準備をしているところです。『リッカムプログラム』は言語聴覚士によって実施される治療法でライセンスが必要ですが、現在、このライセンスを取得している言語聴覚士は全国に200人弱と、まだまだ少ない状況です。
ガイドラインでは保護者や保育園・幼稚園の先生向けの添付資料もありますので、なかなか支援先が見つからない場合にも、接し方のヒントになるでしょう。親や周囲が適切な知識を持って接すれば、それだけでも子どもにとって大きな助けになるはずです」(寺田先生)
取材協力/一般社団法人こども発達支援研究会 取材・文/早川奈緒子、ひよこクラブ編集部
吃音は、昔は精神的な原因があるとされていたこともあり、吃音症状を隠したり、相談先がなく悩みを1人で抱えたまま大人になった人も少なくないそうです。欧米では一般的に早期の治療介入がされますが、日本ではまだ専門家が少ない状況です。一般にも広く吃音についての知識が広まることが、子どもの吃音による困りごとや不安を少なくしてあげることにつながるのではないでしょうか。
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