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「どうして僕はうまくしゃべれないの?」ある日突然、3才の息子に吃音の症状が…。誰にも相談できずに悩み続けた日々【体験記】

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福岡県に住む佐野和子さん(仮名)は、夫、長男(9才)と次男の康太くん(仮名・7才)の4人家族。次男の康太くんが3才になるころから、吃音(きつおん)の症状に悩んでいましたが、リッカムプログラムという治療法に取り組み、症状が改善したそうです。和子さんに、康太くんの症状について話を聞きました(上の写真は絵本を用いてリッカムプログラムに取り組む康太くんの様子です)。

ある日突然現れた繰り返しの吃音症状

赤ちゃんのころの康太くんは、「アー」「ウー」などの喃語(なんご・※)が出るのも早く、1才くらいには「まんま」「ブーブー」などの言葉が出て、おしゃべりが好きでずっとお話をしている子でした。それが、あるきっかけで、3才になる少し前に突然吃音の症状が出始めたそうです。

「2017年4月20日、2才8カ月の時のことでした。幼稚園の慣らし保育に行くのに、風邪気味だったのでマスクをつけさせました。当時、康太が指しゃぶりをしていたのが気になっていて、マスクをして指しゃぶりが取れたらいいな、という考えもありました。マスクで指しゃぶりができなくなった康太は、その日から『ぼぼぼぼくは』『おおおおおにいちゃん』と、言葉の1音目を繰り返すようになったんです」(和子さん)

康太くんの吃音の症状はマスクをはずしても治らず、2週間ほど続きました。その後いったんは落ち着いたものの、7月の康太くんの3才の誕生日のころにまた吃音が出始めるように。一般的に吃音の症状には「ぼぼぼくは」と始まりの音を繰り返す「連発」、「ぼーーーくは」と一部を伸ばす「伸発(しんぱつ)」、「……っぼくは」と1音目が発音しにくく詰まってしまう「難発(なんぱつ、ブロックともいう)」の3種類の症状がありますが、康太くんはこのすべての症状が出るようになりました。

※喃語/赤ちゃんが言葉を覚える前に発する、意味を伴わない声のこと

支援先が見つからず、思い悩む日々が続く

和子さんは、康太くんの吃音について幼稚園の先生や地域の市民センターで行われる発育相談の保健師に相談しました。しかし具体的な治療についての情報はなかなか得ることができなかったそうです。

「保健師さんには『環境を整えたら自然に治るかも』とか『ママが忙しすぎて、お子さんと一緒にいる時間が少ないんじゃない?』などと言われました。吃音が出ていなかったとしても、子どもへの愛情がたりているかどうかということは日ごろから私自身が気にしていたことだったので、ショックでした。私は専業主婦でしたが、幼稚園の役員をしていたりして忙しかったので、生活を見直さなきゃいけないのかな…でも具体的な治療は本当にないんだろうか、とずっと悩んでいました。
周囲の人には『気にしすぎ』と言われてしまうので誰にも相談できなかったんです」(和子さん)

和子さんは、吃音についての情報が少ない中で、インターネットやSNSで少しずつ吃音について学びました。日常生活で康太くんが話している時には、吃音が出ていても話をさえぎらず、最後まで言わせてあげることや、『ゆっくりしゃべってごらん』と言わないことなどに気をつけるようになったそうです。
しかしそんな毎日に、和子さん自身がストレスを抱えてしまうこともあったと言います。

「できるだけ気をつけようとは思っても、康太がうまくしゃべれないのがかわいそうで、もどかしくて。『ぼぼぼぼぼぼくはね、きょきょきょきょきょうね、きゅきゅきゅきゅきゅうしょくが…』と話をするので、何を言いたいのか先にわかるんですが、それをさえぎらないで聞いてあげようと、なるべく最後まで待っているようにしました。でも毎日続くと、イラッとしてしまうこともありました。

だれかに助けてほしい、早く答えがほしい、とあせる気持ちでしたが、近くに吃音に関する支援の場所は見つかりませんでした。療育や言語聴覚士のいる小児科も調べましたが、遠方だったり、予約がいっぱいだったりと、現実的に相談をするのが難しい状況でした」(和子さん)

どうして僕はみんなみたいにしゃべれないの?

康太くんの吃音の症状が出るタイミングには波があり、1〜2週間症状が出たら、しばらく治り、また症状が出る、という繰り返しが続いていたそうです。どうしたらいいかわからない中、小学校入学を控えた年長児の2020年11月に、康太くんが自分の症状に気づいたのだと言います。

「康太が初めて私に『どうして僕はみんなみたいにしゃべれないの? どうして詰まっちゃうの?』と言ったんです。彼は自分で気づいていたんだ、とハッとしました。本人が不自由さを感じているなら、どうにかしないといけない、と、再び支援先を探しました。
色々と調べる中で、吃音は症状が出始めて1年以上経過しても落ち着かなければ、すぐに相談したほうがいいということを知り、知識がないばかりに何年も放置してしまったことをとても後悔しました。知っていればもっと早く動けたのに…。

そしてたまたまインスタグラムで「#吃音」と検索して言語聴覚士の寺田奈々先生の「stkotori」のサイトを見つけたんです。寺田先生のサイトを見て、『リッカムプログラム』という治療法があると知りました。東京の相談室だし不安もありましたが、すがる思いで連絡をしてみたところ、運よくオンラインで面談をしてもらえることに。康太の症状などを相談したところ、オンラインでリッカムプログラムに取り組んでみることになりました」(和子さん)

1人の親が毎日子どもと取り組むリッカムプログラム

リッカムプログラムとは、オーストラリアで考案された、行動療法の理論に基づく吃音の治療法です。親が子どもに絵カードや絵本、ブロックなどを題材に話をさせ「スラスラ言えたね」「つっかからなかったね」などとフィードバックしながら進めます。そのときのポイントは吃音を注意することと、ほめることの割合を1対4にすること。たとえば、5枚の絵カードのうち、4枚をスラスラ言えればほめる。1枚を言うときに吃音が出たら「言い直してみよう」と直させる。子どもに自信をつけさせる声かけをすることで、吃音の頻度を下げていくことを目的とします。このリッカムプログラムは対象年齢が就学前(7才未満)の子どもと決まっていて、康太くんはぎりぎりの年齢であったものの、性格的にも向いているかもしれない、ということで、すぐに練習を始めることに。

「プログラムは言語聴覚士から直接指導を受けている親しか行ってはいけない、寝る前ではなくできるだけ日中に行う、吃音の状態について0〜9段階の記録を付ける、365日続けるというルールがあります。毎朝、幼稚園のしたくを済ませてから、康太との練習を録音して、オンラインファイルで先生に共有しました。私たちの場合は遠方ということもあり、先生がその録音を聞いた上で、月に2回、オンラインミーティングを行い私にフィードバックをくれる形で治療を進めています。

練習自体は子どもの集中力が切れない10〜15分程度。内容も、カードや絵本を親子で読むような感じだったので、本人は楽しみながらやっていました。先生から楽しい教材をいくつも教えてもらい、それを購入して取り組みました。ちゃんとできない日もあるし、親子げんかになる日もありますが(笑)、とにかく毎日続けようと、頑張っています」(和子さん)

開始から3カ月で効果を実感。学校にも楽しく通えてひと安心

絵本を見ながら親子で会話をする中にリッカムプログラムを取り入れる方法も。

康太くんには、吃音症状で重いとされる「難発(ブロック)」の症状が出ていましたが、プログラム開始から3カ月たった2021年の2月ころには、その症状がかなり少なくなるほどに改善したそうです。

「本人も、ブロックの症状がいちばん話しにくくて苦しさがあったようですが、3月ころには『僕さあ、最近、あんまり言葉がつまらなくなったよね』と言っていて、子ども自身がわかるほどなのだと、その時点ですごく効果を実感しました。その後も少しずつ課題を難しくしながら取り組んで、約1年たった今は少し連発(繰り返し)症状が出るくらいまでに改善しています。
去年までは、ひどい時はなんのことをしゃべっているのかわからず会話にならないこともありましたが、今はわりとスムーズに会話ができるので、私も楽になりました。人とコミュニケーションが取れることって、当たり前かもしれないけど、すごいことなんですよね」(和子さん)

和子さんは、康太くんの小学校では学校の先生にフォローをお願いし、保護者会でも康太くんの吃音のことを話して理解を求めたそうです。

「小学校でのお友だちとの関係が不安でしたが、先生や保護者・お友だちが理解してくれているおかげで、康太は話しにくいから学校に行きたくない、ということはまったくありません。楽しく学校に行くことができて本当によかったです。康太は、今少し連発の症状があることをあまり気にしていない様子ですが、今後気になることもあると思うので、症状が出なくなるまで練習を続けられたらいいなと思っています」(和子さん)

【寺田先生より】

佐野さん親子とお会いしたのは康太くんが年長さんの冬。それから1年間リッカムプログラムを継続しています。リッカムプログラムの正規のルールでは、毎週お子さんが同席してミーティングを行う必要があります。ですが、相談室の予約を確保するのが難しく、また康太くんやご家庭の負担を考え、録音を送ってもらう代わりに月に2回の形で継続してきました。毎朝欠かさず練習タイムを行い、少しずつ成果が現れています。決してラクな治療ではないので、地道に取り組んでいただいているのは本当にすごいことです。
注意してほしいのは、吃音自体、必ずしもなおすべきものというわけではありません。練習をしたい人もいれば、しない選択をされる方もいらっしゃいます。言語聴覚士として、そのお子さんとご家庭の選択を支援させていただいています。

お話・監修/寺田奈々(てらだなな)先生

写真提供/佐野和子さん 取材・文/早川奈緒子、ひよこクラブ編集部

世界中で検証され、その効果が認められてきているリッカムプログラム。しかし、プログラムを行うには研修を受けた言語聴覚士が指導しなければならず、日本ではまだ支援者が不足している状況です。和子さんは「子どもに吃音がある親は、きっとみんな困って悩んでいると思います。吃音についてもっと理解が広まってほしいし、言語聴覚士やそれをサポートする人ももっと増えてほしい」と話していました。

※記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

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