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死ぬとしても教えてほしかった。「親の死や病気」で心に傷を負う子どもを守るために、嘘のない家族を願う医療者たちの闘い

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特集「たまひよ 家族を考える」では、妊娠・育児をとりまくさまざまな事象を、できるだけわかりやすくお届けし、少しでも子育てしやすい社会になるようなヒントを探したいと考えています。

もしもあなたやあなたのパートナーが、がんなどの重い病気になったら、それを子どもに話しますか?隠しますか?
東京・中央区の聖路加国際病院では10年前に「こども医療支援室」を立ち上げ、小児科医やチャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)、臨床心理士、保育士らが「チャイルド・サポート」チームを組んで、病気の親を持つ子どもたちの心理的ケアを行なっています。このチームができた背景と現在のサポートの内容、親が重い病気になった時の子どもの気持ちなどについて、「チャイルド・サポート」チームの皆さんに話を聞きました。

患者はケアしても、「患者の子ども」は無視されていた10年前

日本で初めてソーシャルワーカーを採用するなど、先駆的な取り組みで知られている東京・中央区の聖路加国際病院。この病院が2011年に立ち上げたのが「病院に来る全ての子どもたちのサポート」を専門に行う「こども医療支援室」です。

「こども医療支援室」は小児科医と心の専門家である臨床心理士、子どものストレスへの対処を手助けするチャイルド・ライフ・スペシャリスト(以下、CLS)、子どもの生活全般の支援をする保育士によって構成されています。入院・通院中の子どもとそのきょうだいのケアをはじめ、がんや重篤な病気に親がなってしまった子どもたちの心理的ケア(チャイルド・サポート)を行っています。

10年前の設立当時は「チャイルド・サポート」というものに対して、医療現場でもまだ目が向けられていませんでした。

「聖路加国際病院では昔から『患者の家族も支援すべき対象』と考えていますが、10年前はその家族の中に子どもは入っていませんでした。がんの患者のカルテには家族歴を書く欄があるのですが、そこにも子どものことは書かれず、その家族に子どもがいるかどうかすらわからないのが一般的だったんです」
そう説明してくれるのは小児科医長で「こども医療支援室」室長の小澤美和先生。

「その一方で、診療中も診療のあとも、親の病気で心理的影響を受けた子どもたちをたくさん診てきました。これはなんとかしなくてはと、強く思うようになっていきました」(小澤先生)

当時、先生は小児科の診療の後で、家族の病気で心理的影響を受けた子どもや、自身や伴侶が亡くならんとしている親から残される子どもについて、相談を受けることがあったと言います。その中で、家族の病気や死で深く傷ついた子どもを、とても多く目にしたそうです。

親の病気や死でPTSDを発症したり、赤ちゃん返りした子どもたち

「親の病気や死は、子どもの心の成長・発達に大きな影響を与えます。例えば、移植手術をして退院したお母さんがお子さんと一緒にベッドで寝ている時に急変し、亡くなってしまったご家庭では、お子さんがPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症してしまいました。
その子はお母さんの病気が重いことを知らされておらず、良くなって退院したと思っていたそうです。なのに突然、それも自分の横で亡くなってしまい、大きなショックを受けたのです」(小澤先生)

また、お母さんの急死を受け入れられなかったお父さんが、その後10年以上、家でお母さんの話をすることを禁じたために、子どもが精神的に追い詰められたケースもあったそうです。学級委員をするほど活発で勉強もできた子が、何年間もおむつを当てたがるほどの赤ちゃん返り状態に陥ったと言います。

「このように親の病気や死で傷ついたりトラウマを抱える子どもたちが、世の中にはもっともっとたくさんいると感じました。子どもたちが心に傷を負う前に、何か自分たちにできることがあるのではないか。そう思って病院の精神科のスタッフに声をかけたのが、チャイルド・サポートの始まりでした」(小澤先生)

まずは子どもがいる患者(親)の病室に先生たちから訪問して声をかけ、相談を引き出していったそうです。当初、患者はもちろん、医療者も目の前の治療が先決で、患者の子どもの心のケアには関心を寄せられないことが多くありました。

しかし、地道な活動を続けるうちに、少しずつ患者にも病院のスタッフにもチャイルド・サポートが知られるように。親の看護をしているスタッフから、「〇〇さんの子どもにはチャイルド・サポートが必要かもしれない」などの声もかけられるようになり、連携が取れるようになっていったのです。

その後、厚生労働省の「臨床研究事業 がん診療におけるチャイルドサポート研究班」にも参加し、チャイルド・サポートに対する社会的なニーズの高まりを感じた小澤先生は、思い切って「スタッフを常勤として配置してもらいたい」と病院に申請。すると当時の院長が全面的に賛同し、全国でも珍しい「こども支援室」が実現したのです。

「民間のNPO法人をはじめ、一緒に活動してくれた仲間が病院の中にも外にも多くいました。だからこそ、こうして形になってきたんだと思います。私たちだけではとてもできませんでした。また、それだけ必要なものであったと言えると思います」(小澤先生)

ショックだから「隠す」のではなく「準備」をさせてあげる

「チャイルド・サポート」チームへの相談件数は年々増加しており、2020年度は330件もの相談が寄せられました。

「一番多い相談は『病気のことを子どもに伝えた方がいいのか、伝えなくてもいいのか』ということです。『伝えるとしたらどういうふうに言えばいいのか』というご相談もとても多くあります」と話してくれたのは、「チャイルド・サポート」チームの一員でCLSの三浦絵莉子さん。

「親御さんたちには『病気のことをごまかすのではなく、ちゃんと親から子どもに話をしてあげることが大事です』ということを丁寧にお話します。そして、どんな言葉で伝えると子どもにわかりやすいか、年齢や環境に合わせてどういう点に気をつければ良いかを、『手術痕を隠して結局見られてしまうより、親御さんから子どもに見せて触らせてあげたりするほうが、子どもにとって良い場合がありますよ』などのアドバイスも散りばめながらお伝えしています」(三浦さん)

三浦さんと同じCLSの直正唯さんも、たとえ子どもが幼くても「事実を伝える」ことが大切だと言います。

「子どもが小さい場合、大人は『言ってもわからないから』と済ませてしまいがちです。でも、2歳より小さい子であっても、首の座らない赤ちゃんでなければ、いろいろな気持ちを持っていますし、見聞きしたことから察知する力もあります。大切なのは、幼い子にもわかるように説明をして、幼い子なりに準備ができるようしてあげること。私たちもそれを考えながらサポートしています」(直正さん)

親が入院したり手術をするのは、子どもにとって日常ではありません。めったに経験しないことが突然起こるよりも、前もって準備できる方が受け入れやすく、自分の体験として消化しやすくなると言います。

しかし、自分や家族が病気になった時、親自身が混乱してパニックになってしまうもの。そんな中で「子どもにどう伝えるかまで考えられない」と言う人は少なくありません。
また、「子どもが悲しむから言えない」「うちの子には受け止めきれないと思う」と考える親も多いそうです。

臨床心理士の金亜美さんは「そういう時は親御さん自身が悩み苦しんでいらっしゃるのですから、無理に説得はしません」と言います。
「まずは親御さんのケアが必要ですので、看護師さんに『こういうことで困られているので相談にのってあげてください』と伝えたり、病院のソーシャルワーカーさんに繋ぐなど、親御さんの様子に合わせたサポートを行ないます。

ただ、それで終わりにするのではなく、カルテで通院される日を確認して声をかけ、少しずつチャイルド・サポートの情報を伝えるようにしています。すると徐々に落ち着かれて『やっぱり子どもに伝えたい』とおっしゃる方が少なくありません」(金さん)

これまでチャイルド・サポートを行なってきた中で、「子どもに伝えなきゃよかった」という後悔の声はまだ1回も聞いていないとのこと。逆に「伝えたくない」と言っていた人も、伝えた後には「話してよかった」「子どもといろいろな話ができて安心した」と笑顔になるそうです。

「子ども」と「心」のプロで構成さる「チャイルド・サポート」チーム

左から臨床心理士・金亜美さん、チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)の直正唯さんと三浦絵莉子さん

嘘の中で育つ子どもは決して幸せではない

写真左は「シンチレーションカメラ」という検査用機械の木製模型。入院している子どもがこれを使った検査をする時には、この模型と人形で検査の手順や目的などを説明。

小澤先生は「いくら子どものためを思ってついた嘘であっても、嘘の中で育つ子どもは決して幸せではありません」と言います。

「親が嘘をつけば、子どもも嘘で返すしかなくなります。親の様子から『何かある。いつもと違う』と察しても、気づいていないふりをして、誰にも言えずにひとりで苦しむことになるんです。
子どもはたとえ幼くても、現実を受け止め、対応する力を持っています。親御さんにはぜひ、子どもの力を信じてほしいのです。私自身、子どもを信じることができた時、小児科医としてラクになれましたし、実際子どもを信じて問題はありませんでした。


『大人と子ども』ではなく『家族』として、子どもに接してあげてください。そばにいる大好きな大人が、自分と同じ土俵、同じ高さにいてくれていると感じることができれば、つらいことがあっても傷やトラウマにならずに『成長できる体験』にしていけると思います」(小澤先生)

※患者・家族のエピソードは個人が特定されないよう、一部改変しています。


監修/小澤美和先生 取材・文/かきの木のりみ

親の病気を知った時の子どもの反応は、子どもの年齢や家庭環境などによってさまざまで、親が思いもしなかった行動や反応をすることも多いそうです。
次回は、聖路加国際病院の「チャイルド・サポート」チームが実際に対応したケースから、子どもたちの気持ちや、その対応に必要なポイントなどを教えてもらいます。

聖路加国際病院小児科医長、こども医療支援室室長・小澤美和先生

北里大小児科入局、神奈川県立こども医療センター児童精神科を経て、95年より聖路加国際病院小児科。2011〜13年厚生労働科学研究「がん診療におけるチャイルドサポート」研究代表者。日本小児科学会 専門医。AHA認定PALSプロバイダー



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