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重い病気の親をもつ子たち…「僕を嫌いになったの?」親が告げないことで起こりうる不協和音を避けるために

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特集「たまひよ 家族を考える」では、妊娠・育児をとりまくさまざまな事象を、できるだけわかりやすくお届けし、少しでも子育てしやすい社会になるようなヒントを探したいと考えています。

東京・中央区にある聖路加国際病院の「こども医療支援室」では、小児科医やチャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)、臨床心理士、保育士がチームを組んで、病気の親を持つ子どもたちの心理的ケア(チャイルド・サポート)を行なっています。子どもたちは、親が入院や手術をすることになった時、何を感じてどんな行動をするのでしょう?親が重い病気であることを知った時、どんな反応を見せるのでしょう?
前回の記事「死ぬとしても教えてほしかった。『親の死や病気』で心に傷を負う子どもを守るために、嘘のない家族を願う医療者たちの闘い」に引き続き、今回は「チャイルド・サポート」チームが実際に関わった3つの家族のケースから、子どもたちの気持ちと、その対応に必要なポイントなどを教えてもらいました。

ケース1:「うちの子は受け止められない!」と心配していた娘が描いた1枚の絵

東京・中央区にある聖路加国際病院には、小児科医と臨床心理士、チャイルド・ライフ・スペシャリスト(以下、CLS)、保育士によって構成される「こども医療支援室」があります。ここでは、彼ら子どもの専門家たちが1つのチームとなり、入院・通院中の子どもとそのきょうだいのケアや、親ががんなどの重篤な病気を持つ子どもたちの心理的ケア(チャイルド・サポート)を行っています。

チームに寄せられる相談で最も多いのが「病気のことを子どもに伝えた方がいのか、伝えなくてもいいのか」という内容です。30代で乳がんが見つかったAさんも、そのことで悩んでいました。
Aさんは小学5年生の娘を「デリケート過ぎるところがあり、ちょっとしたことで不安になったり傷ついたりしてしまう」と心配しており、「娘には私の病気を絶対に知らせない方がいい」と主張していました。

しかし、「チャイルド・サポート」チームのメンバーで、子どもが入院した時や家族が病気になった時に子どものストレスへの対処を手助けするチャイルド・ライフ・スペシャリスト(以下、CLS)の三浦絵莉子さんは
「黙っていることは、親にとっても子どもにとっても不安を大きくしてしまう場合が多い」と言います。

「通院だけで済む病気なら『ちょっと○○に行ってくる』とごまかせますが、乳がんなどの重い病気の場合、入院や手術、その後の継続的な治療が必要です。子どもに本当のことを伝えない状況が続くと、親は事実を隠すことへの罪悪感や、つじつまを合わせるための気苦労が増します。子どもの方にも『何か隠されている気がする』という不安が生まれる可能性もあります。実際、子どもの多くは察していることが多いのです。
親御さんにある程度の心の準備ができたら、なるべく早く子どもに伝えてあげることが、双方の安心につながります」(三浦さん)

Aさんにも丁寧にそれを伝えたところ、娘に病気のことを伝える決心をしました。ただし「自分の口から説明する自信はない」ということで、Aさんの手術を担当する外科医から、Aさんご夫婦と娘さんに手術の説明を受ける形で伝えてもらいました。

その後、Aさんは無事に退院して普通の生活に戻り、娘さんの授業参観に行った時のこと。授業は子どもたちが「家族の絵」を描いて皆の前で発表するという内容だったのですが、Aさんの娘は「手」を描き、「お母さんが乳がんになって、お母さんの病気を治してくれた先生がいます。この手はその先生の手でもあり、治してもらったお母さんの手でもあり、自分もこういう手を持つお医者さんになりたいです」と笑顔で発表したそうです。

「デリケート過ぎて親の病気を受け止められないと思っていた娘が、実はしっかり受け止めていて、さらに将来の夢まで見い出していたことに、誰よりもお母さんが驚いていました」(「チャイルド・サポート」チームの小児科医・小澤美和先生)

親は病気を伝えることで、子どもを不安にさせてしまうのではないかと心配しますが、子どもが不安になるのはそこではないと小澤先生は指摘します。

「子どもが最も不安になるのは、家族にとって重大なことが、自分に隠されたりごまかされたりして、何が起きているのか分からないまま蚊帳の外に置かれることです。病気のことを伝えることの一番の利点は、親の重大な事実を子どもも入れた家族全員で共有し、子どももサポーターのひとりとしてケアの輪の中に入れることができることなのです」(小澤先生)

ケース2 :「お父さん変わった!病院に行くのイヤ」と父親を拒む男の子

親が入院しどんな治療を受けているか、クマのぬいぐるみを使って点滴など治療の説明をすることも。

幼稚園の年長さんのB君のお父さんは、大腸がんで入院していました。最初、B君はお母さんと一緒にお父さんに会いに来ていましたが、お父さんはB君がいても眠っていることが多く、そうでない時は体調が悪くてイライラしたり、時には大声を出すことも。

B君にとっては、いつも遊んでくれたやさしいお父さんが突然変わってしまったように見えました。そして「病院に行ってもおもしろくないから行かない!」と言い張るようになってしまったそうです。
お母さんは「こんな関係のままでいいんだろうか、万一、お父さんが急に死んでしまってこのまま会えなくなったら……」と悩み、「チャイルド・サポート」チームに相談に来たそうです。

「病院という場所は子どもにとって、決して心地良い場所ではありません。特に小さいお子さんは、怖いと感じることもよくあります。
また、小さい子どもは親に対して、入院前と同様のスキンシップを求めようとしますが、以前と同じようにはしてもらえないことに遭遇して寂しがったり、『お父さんは僕が嫌いになっちゃったのかな』と戸惑うことも多いんです」(三浦さん)

そこで、「チャイルド・サポート」チームでは、病室が親子で触れ合いながら過ごせる場所になるように、お父さんの病室におもちゃを用意したり、親子で一緒にできる工作を考えたり。窓ガラスに絵を描けるクレヨンを渡して「お父さんの部屋を飾ってあげてね」と伝えたり、「お父さんにハンドクリームぬってあげよう」と誘ってスキンシップのきっかけをつくるなど、さまざまな工夫を続けました。

こうした時間を重ねる中で、B君は少しずつ病院のお父さんに会うのを楽しみにするようになったそうです。

「お父さんが構ってくれなくて寂しがっている時には、『お父さんが遊んでくれないのは、病気を治すための治療のせいで痛いからなの』など、はっきり説明してあげた方が子どもは安心できます。お父さんがどうしてそうなのかがわかっていれば、子どもが不要に傷ついたり、怖がったりしなくて済むんです。

お父さんはこの後すぐに帰らぬ人となってしまったのですが、入院したお父さんと触れ合い笑い合った時間があったのとなかったのとでは、B君の心に与える影響は全く異なると思います」(「チャイルド・サポート」チームの臨床心理士・金亜美さん)

ケース3:「思い出の品」が亡くなった後も家族の気持ちや生活の支えに

親の余命が少ない場合は、残される子どものために思い出の品を作ることも。左上は指紋のキーホルダーの作り方を手書きで記したもの。これを患者の家族に作ってもらいます。

「チャイルド・サポート」チームに相談にくる方の中には、病状が悪く、どんなに治療を尽くしても亡くなってしまう場合もあります。チームでは、その方の家族がその後の生活で支えとできるような「思い出の品」を残すことも大切にしているそうです。

40代のCさんは、乳がんがわかった時はすでに末期の状態だったため、緩和ケア病棟に入院していました。中学1年生の女の子と小学2年生の男の子の2人の子どもがいたのですが、お母さんの病気を伝えることをお父さんが強く拒否。子どもたちにお母さんの看取りを伝えることができないまま、時間が過ぎていきました。

「お父さんに『子どもたちがお母さんとお別れする時間をちゃんと確保するためにも、病気のことを伝えた方がいいと思います』とお話ししたところ、今度は私たちのことも避けるように。おばあちゃまは病気を伝えることに賛成だったのですが、『お母さんが亡くなった後に子どもたちを育てるのはお父さんだから……』と、お父さんの気持ちを尊重して見守っていらっしゃいました」(金さん)

しかし、残された時間はどんどんなくなっていきます。そこで、「チャイルド・サポート」チームが行ったのが「子どもたちのために思い出を作る」ことでした。
看護師さんとも連携し、日々のお母さんのワンシーンを撮影してフォトブックを作成。さらに人差し指の型をスタンプで取ってキーホルダーを作ったそうです。

「Cさんが亡くなった後、おばあちゃま経由でお父さんに渡していただきました。受け取りを拒否されるかもと心配していましたが、たいへん喜んで娘さんたちにも見せてくださって、本当にホッとしました。
親御さんが亡くなってしまう場合『確かにそこに存在したと言える証』みたいな物を残すことが、後々の子どもたちの成長にとても大事です。それが家族の象徴のような存在になればいいなと思いながら、思い出の品を作るお手伝いをさせていただいています」(金さん)

子どもの反応は100人いれば100パターンある

左から臨床心理士・金亜美さん、チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)の直正唯さんと三浦絵莉子さん

親の病気を知った時の子どもの反応は、その子の年齢や性格、家族の関係などによって実にさまざまで、親が予想していない反応を示す子どもがほとんどだそうです。

「泣く子もいれば、怒り出す子もいます。中には『(お母さんが入院する間)おばあちゃんが来てくれる』と目先のことに喜ぶ子こどももいて、親は大いに戸惑います。
でも、いずれの子も、頭のどこかにお母さんの入院や手術のイメージはちゃんと残っていて、それを踏まえることでお母さんとの生活が安定し、手術から帰ってきたお母さんとの生活も進められることになっていくのです」(三浦さん)

子どもがある程度大きい場合は子どもが察していて、「知ってたよ」「やっぱりね」と言われることも多いのだとか。また、お父さんとお母さんがこそこそ話をしていることから『離婚する』と誤解したり、治る病気なのに『きっと死んじゃうんだ!』と思い込んでしまう子もいるそうです。

「3月にひな人形を飾ったら、病気のことを知らないはずの子どもがひな壇に向かって『お母さんが元気になりますように』と祈っていたとショックを受けていたお母さんもいました。その子はお母さんがちょっと近所に出かるだけでも、『私も行く!』とすごい剣幕でついてきて、お母さんと離れるのを異常に怖がったそうです。

普通の生活なら、お母さんは見えなくなってもまた帰ってくるという信頼感を待てるのですが、病気を隠したことによって信頼が崩れ、不安が大きくなってしまったのでしょう。このように中途半端に隠すことで、子どもを不安定にさせてしまうこともあるんです」(金さん)

そうした子どもたちを見るにつけ、親の病気を、親の口から子どもに伝えてあげることの大切さを感じると、チャイルド・サポートの皆さんは言います。
お父さんやお母さんが悲しいと思っている気持ちや、どうして怒ってるのかなどを全部共有できると、逆に子どもは安心でき、「自分も悲しいから泣いていいんだ」と思えるようになるのだそうです。

「子どもは自分がどういう気持ちなのか、うまく言葉にして伝えることができません。自分で自分の気持ちがわからない場合も少なくありません。私たちは、そういう子どもたちの『代弁者』でありたいと考えています。
大切なのは親の病気を『伝えるか伝えないか』ではなく、子どもたちが何を必要としてるかを親御さんに知ってもらうこと。そういう子どものニーズや、子どもが持っている力を親御さんに伝えることが、ベストなサポートの形だと思っています」(小澤先生)

※患者・家族のエピソードは個人が特定されないよう、一部改変しています。


監修/小澤美和先生 取材・文/かきの木のりみ

自分や家族の病気のことになると、子どもにも周囲にもできるだけ隠そうとしてしまいがちです。しかし、子どもたちを守り、より良い状態で治療に取り組むためにも、「家族として皆で病気に立ち向かっていくことが大事」と「チャイルド・サポート」チームの皆さんは言います。
「こども医療支援室」のような専門部署がない病院でも、今はソーシャルワーカーや医療スタッフがさまざまな相談にのってくれるケースが増えているとのこと。また、「チャイルド・サポート」に関する情報を発信するNPOなどの外部団体も増えています。家族だけで悩まず、恐れずに周りにヘルプを求めること。それも「チャイルド・サポート」の1つと言えそうです。

聖路加国際病院小児科医長、こども医療支援室室長・小澤美和先生

北里大小児科入局、神奈川県立こども医療センター児童精神科を経て、95年より聖路加国際病院小児科。2011〜13年厚生労働科学研究「がん診療におけるチャイルドサポート」研究代表者。日本小児科学会 専門医。AHA認定PALSプロバイダー


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