赤ちゃんがママのエアバッグ代わりになって大けが…。赤ちゃんを抱っこしての自転車乗車はNG!【専門家】
ママやパパが、赤ちゃんを抱っこひもで抱っこした状態で自転車に乗って車とぶつかったり、転倒したりする事故が起こっています。ときには赤ちゃんが亡くなってしまうことも…。子どもの事故に詳しい小児科医 山中龍宏先生に、抱っこやおんぶで自転車に乗る危険性について聞きました。
抱っこでの自転車乗車は、転倒したとき赤ちゃんが大人のエアバッグ代わりに…
昨年、ママが当時8カ月の赤ちゃんを抱っこひもで抱っこして自転車に乗り、T字路交差点で左折しようとしたトラックに巻き込まれ、赤ちゃんが頭を強く打って亡くなるという痛ましい交通事故がありました。
――赤ちゃんを抱っこして自転車に乗り、交通事故にあうことは多いのでしょうか。
山中先生(以下敬称略) 以前、東京都立小児総合医療センター救命救急科の医師などと一緒に「保護者の自転車に子守帯を用いて同乗した乳児の外傷」(※1)について調査をしたのですが、その調査では、抱っこで自転車に乗り事故が起きた中には右頭頂骨骨折などが判明し、集中治療室に入院したケースがありました。その事故の状況は、次の通りです。
【事故の状況】
ママが抱っこひもで、3カ月の赤ちゃんを抱っこし、自転車の前後にきょうだいを乗せて、右にゆるく傾斜がある道を走行していました。左前方から出てきた自転車と衝突し、ママの自転車は転倒。ママは転倒した際、とっさに右手で赤ちゃんの頭を守ろうとしたのですが間に合わず、縁石に右頭頂部を強くぶつけてしまいました。病院で検査をしたところ、意識ははっきりしているのですが、右頭頂骨骨折と軽度の右外傷性硬膜外血腫が認められました。集中治療室に入院し、3日間の経過観察後に、後遺症もなく退院できました。
――調査の中では、集中治療室などに入院しなかった子もなかにはいたのでしょうか。
山中 入院はせず外来診療のみは8例中6例でしたが、ほとんどの子が頭部を打撲するなど頭にけがをしています。頭部にけがをせず、顔面打撲だった子は1例。額にけがをした子も1例いました。
――事故の衝撃で抱っこひもから赤ちゃんが飛び出てしまい、大けがをしたり、亡くなったりしている場合もあるのでしょうか。
山中 赤ちゃんが飛び出すかは、抱っこひもの締め具合や衝撃の度合いなどにもよるので一概には言えません。また抱っこひもから飛び出なければ、けがをしない訳ではありません。調査(※1)では、赤ちゃんが抱っこひもから飛び出さない場合は、大人のエアバッグ代わりになってしまうこともわかっています。赤ちゃんを抱っこして自転車に乗って事故を起こすと、大人は比較的軽症です。赤ちゃんがエアバッグ代わりになってしまうことが一因です。
赤ちゃんを抱っこして自転車に乗ったときの転倒の瞬間
写真は高速度カメラで、赤ちゃんを抱っこして自転車に乗車し、転倒した瞬間を撮影したところ。赤ちゃんは、転倒した瞬間、頭を打っています。
実験では、赤ちゃんが頭を打ったあと、親も頭を打つことに
自転車が転倒したとき、赤ちゃんの頭がどのようにぶつかるかは、その時の状況によって異なります。実験では、赤ちゃんだけでなく、親も頭を打っていることがわかりました。
おんぶでの自転車乗車も危険! 事故による後遺症が残った子も
抱っこでの自転車の乗車は、各都道府県の道路交通規則で違反とされています。しかし条件つきではあるものの、おんぶでの自転車乗車は認められています。警視庁のホームページ「自転車の交通ルール」では「16歳以上の運転者は、幼児用座席を設けた自転車に小学校就学の始期に達するまでの者を1人に限り乗車させることができます。運転者はさらに幼児1人を子守バンド等で背負って運転できます」と記されています。
――赤ちゃんをおんぶして自転車に乗るのは、危険ではないのでしょうか。
山中 実はおんぶで自転車に乗るのも危険です。先ほどの調査(※1)では、おんぶによる自転車事故についても調べていますが、実際に起きた事故では、赤ちゃんに後遺症が残っています。事故の状況は次の通りです。
【事故の状況】
5カ月の赤ちゃんを子守帯でおんぶして、自転車用チャイルドシート(後部)に上の子を乗せてママが自転車に乗っていました。信号のない交差点を走行した際、前方左側から徐行で左折してきた普通乗用車が、自転車に接触。自転車が転倒し、赤ちゃんは子守帯から飛び出し、頭を下にして1メートル右前方向に落下しました。救急搬送されたところ意識障害が認められ、検査の結果、右頭頂骨骨折、右硬膜下血腫、外傷性脳挫傷が判明。集中治療室に6日間入院し、退院となったのですが手に麻痺が残りました。
――抱っこもおんぶも、自転車で事故が起きたとき右頭頂骨骨折、右硬膜下血腫など、頭に大けがをする赤ちゃんが多いようですが、自転車で転倒すると、それだけ頭に大きな衝撃が加わるということなのでしょうか。
山中 調査(※1)では、赤ちゃんをおんぶして自転車に乗り、転倒した場合は、6カ月の子の頭蓋骨骨折リスクは2.26~3.47倍になることがわかっています。
※1 日本小児科学会雑誌123巻5号「保護者の自転車に子守帯を用いて同乗した乳児の外傷」より。
信号無視、スピードの出し過ぎなどは絶対NG! 安全運転を心掛けて
山中先生は、赤ちゃんを乗せた自転車事故を防ぐには、ママやパパが交通ルールを守るほか、社会全体で考えていく必要があると言います。
――ママやパパが、赤ちゃんをおんぶしたりして自転車に乗るのは危険ですが、保育園の送迎などやむを得ない事情もあるようです。
山中 自転車での事故から赤ちゃんを守るには、まずはママやパパが信号無視をしたり、スピードを出し過ぎたりしないなど交通ルールを守ることが第一です。
また自転車用のチャイルドシートは1歳から使えるタイプが多いので、1歳になったらチャイルドシートを使いましょう。ヘルメットの着用も必須です。
子どもを前に乗せるフロントタイプのチャイルドシートは、バランスを崩しやすくハンドル操作も難しいです。転倒などの事故が起きやすいので、十分注意してください。
少し走行は大変でしょうが、小型タイプの自転車のほうが、万一、転倒したとき、子どものけがは軽くすみます。
私は、子どもを乗せた自転車事故を防ぐには、社会全体で考えていくことが必要だと思います。たとえば地域の巡回バスの本数を増やして、利用しやすくするのも一案です。また東京都町田市では、時間外保育が必要な場合は、町田駅近隣の専用の送迎保育ステーションで一時的に子どもを預かり、そこから保育園などに専用バスで子どもを送迎する「送迎保育ステーション事業」を行っています。ママやパパが余裕をもって送迎できたり、「駅なら徒歩で行ける」というママやパパもいるでしょうから、こうした取り組みも、自転車事故を防ぐことにつながるのではないでしょうか。
写真提供/東京工業大学 宮崎祐介先生 取材・文/麻生珠恵、ひよこクラブ編集部
これから自転車デビューを予定しているママやパパもいると思います。子どもがいると自転車は便利ですが、万一、転倒したり、事故にあったとき、大人よりも子どものほうがけがをするリスクは高いようです。なかには長い治療が必要になったり、事故による後遺症が残ってしまう子もいるので、十分、注意してください。
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