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〈発表〉冬生まれの赤ちゃんは、はいはい・ひとり歩きなどの発達が早い?その理由は?【専門家】

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若いアジアの母とリビングルームの赤ちゃん
※写真はイメージです
itakayuki/gettyimages

国立成育医療研究センターでは、2022年3月『冬生まれの子は「おすわり」「ひとり歩き」などの運動発達が早い』というデータを発表しました。この研究成果は、米国医学雑誌『The Journal of Pediatrics』でオンライン公開されています。研究に携わった、同センター分子内分泌研究部 基礎内分泌研究室室長 鳴海覚志先生に、分析の内容と影響について話を聞きました。

世界初! 育児記録アプリの発達データを用いて赤ちゃんの発達を分析

今回の研究は、育児記録アプリ「パパっと育児@赤ちゃん手帳」の運営を行っているファーストアセントと国立成育医療研究センターが共同で行ったものです。育児記録アプリの発達データを用いた研究は世界初です。

――今回の研究で、冬生まれの子は、おすわり、ひとり歩きなどの発達が早いということがわかったとのことですが、どのような方法で調査・研究を行ったのでしょうか。また冬生まれとは何月生まれの子でしょうか。

鳴海先生(以下敬称略) 調査・研究は、育児記録アプリ「パパっと育児@赤ちゃん手帳」の運営を行っているファーストアセントと共同で行い、2014~2019年の期間に「パパっと育児@赤ちゃん手帳」に記録された発達記録のうち、2歳ごろまでに達成される20項目について、のべ1万6627人分のデータを分析しました。
冬生まれとは、12~2月生まれを指します。

――育児記録アプリの発達データを使う研究は世界初とのことですが、育児記録アプリを使うことにメリットはあるのでしょうか。

鳴海 1つは登録者が多いためにビッグデータが得られることです。
乳幼児の発育・発達については、厚生労働省が定期調査を行っていますが、時間が経過すると、ママやパパの記憶はあいまいになりやすいです。また、「おすわりは何カ月からできるようになりましたか?」などと質問される乳幼児健診も、ある決まった月齢での健診なので、うろ覚えで答えるママやパパもいます。
しかし育児記録アプリのデータだと、ママやパパがリアルタイムに、はいはいができた日にちなどを記録するので、正確な情報を得やすいというのがメリットだと考えました。

――データを分析した20項目とは、たとえばどのような項目でしょうか。

鳴海 基本動作の粗大運動発達に分類される「寝返り」「おすわり」「はいはい」「つかまり立ち」「つたい歩き」「ひとり歩き」や、協調運動といって「親指と人さし指で小さなものがつまめる」「ものを持って右手から左手に持ち替えられる」などです。
また「人見知りをする」「バイバイなどのまねをする」などの精神発達や、言語発達なども含んで研究しました。

――先ほどはメリットについてうかがいましたが、育児記録アプリを使うデメリットはあるのでしょうか。

鳴海 ママやパパが判断して記録するため、見極めが難しい部分もあります。最も見極めが難しいのは首すわりです。ママやパパが「首がすわった」と思っても、小児科医などが見ると「すわっていない」と判断することもあるので、今回の調査項目には「首すわり」は入れませんでした。

研究結果では、冬生まれの子は、夏生まれの子より3週早く「はいはい」を達成

今回の調査・研究の特徴は「性別」「生まれた季節」「栄養方法」によって発達に違いがあるかを調べたことです。

――今回の調査・研究で、冬生まれの子は、運動発達が早いとわかったのはなぜでしょうか。

鳴海 性別、生まれた季節(春・3~5月生まれ、夏・6~8月生まれ、秋・9~11月生まれ、冬・12~2月生まれ)、栄養方法(母乳中心、混合栄養、粉ミルク中心)の3つの特性に着目し、詳しい解析を行ったためです。その結果、冬生まれの子は、運動発達が早いということがわかりました。
ちなみに性差は、以前から発達に影響があるといわれていますし、栄養方法についてはさまざまな論文があり、あらためて検証したいと考えましたが、今回の調査・研究については、栄養方法の違いによっては発達に明らかな差は見られませんでした。
一方で、生まれた季節によって発達に違いがあるということが、データを分析した結果、顕著に表れました。

――冬生まれの子が、発達が早いというのは運動発達全般でしょうか。

鳴海 先にも触れましたが、今回の調査では基本動作の粗大運動発達に分類される7項目(寝返り、おすわり、はいはい、つかまり立ち、つたい歩き、ひとり立ち、ひとり歩き)を調べました。それでは、すべての項目において冬生まれの子のほうが早かったです。一方で「小さいものをつまむ」といったこまかい運動では冬生まれ、夏生まれでの違いが見られなかったので、季節差は粗大運動に特徴的なものと考えられます。

――冬生まれの子は運動発達が早いというのは、どのぐらい早いのでしょうか。

鳴海 たとえば「はいはい」の達成は、冬生まれの子の平均は生後34週ですが、夏生まれの子の平均は37週です。夏生まれの子より3週間早く、はいはいができるようになっています。
このような差が7項目すべての粗大運動で見られます。

冬生まれと夏生まれの子のはいはいの比較

上は、冬生まれの子のグラフ。下は夏生まれの子のグラフ。はいはいを達成した平均は、冬生まれの子が34週、夏生まれの子37週となっています。

――冬生まれの子は発達が早いというのは、どのような理由が考えられますか。

鳴海 これはあくまでも仮説ですが、冬生まれの子が「はいはい」を始めるのは夏です。薄着で動きやすい衣服を着ているために、発達がうながされやすいのではないかと考えられます。
子どもの発達と衣類には、深い関係があるのではないかと推察しています。

研究結果では、まねや言葉の発達は女の子のほうが早い傾向が

鳴海先生のグループは、運動発達だけでなく、言語発達についても調査・研究を行っています。

――今回の研究では、男の子ほうが言語発達がゆっくりめな子が多いということも発表されています。

鳴海 男の子のほうが言葉はゆっくり発達するといわれることが多いのですが、エビデンスがあるのは幼児期です。今回の研究では乳児期からそうした傾向が見られるということがわかりました。
たとえばことばの発達にもつながる、バイバイなどの「まね」は、女の子のほうが1カ月ぐらい達成が早かったです。

また「ママ」と呼ぶ平均は生後50週で、性差はありませんでしたが、1歳半以降に初めて「ママ」と呼ぶのは、男の子は15%、女の子は8%でした。

男の子、女の子別「ママ」と呼ぶ週数

上は、男の子のグラフ。下は女の子のグラフ。ママと呼ぶ平均は、生後50週で性差はないものの、女の子のほうが「ママ」と呼ぶのが全体的に早い傾向があります。

――今回の調査結果によって、乳幼児健診などで、発達がゆっくりめな子はアドバイスのされ方なども変わってくるのでしょうか。

鳴海 現在の乳幼児健診は、節目月齢・節目年齢を見て発達の遅れなどを判断しますが、今回の結果をもとに生まれた季節も考慮してほしいと思います。粗大運動発達がゆっくりめな子は、動きやすい衣類を着せる提案などをされるかも知れません。
また「早生まれの子は発達が遅め」と言われた経験があるママやパパもいるかもしれませんが、それは日本の学年の考え方(4月スタート)であって、今回の研究結果で、早生まれの子は発達が遅いとはいちがいに言えないこともわかったと思います。

お話・監修・データ提供/鳴海覚志(なるみ さとし)先生

取材・文/麻生珠恵、ひよこクラブ編集部

研究結果では、夏生まれの子は、冬生まれの子よりはいはいの達成の平均が3週遅いことがわかりました。「うちの子、発達がゆっくりかも!?」と悩んでいるママやパパは、生まれた季節も考慮して見るといいようです。

【発表論文情報】
英文タイトル:『Achievement of Developmental Milestones Recorded in Real Time: A Mobile App-Based Study』
和文タイトル:『発達マイルストーン達成のリアルタイム記録:スマートフォンアプリを用いた研究』

掲載誌:The Journal of Pediatrics DOI:

※記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

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