先の読めない社会で幸せになる方法は? 超人気塾の取締役ママが語る、令和時代の子どもとの関わり方
2022年度から、全国の高校で新たに「総合的な探究の時間」が始まりました。この変化の激しい時代に、子どもたちが自分の生き方を考える上で“探究的な見方・考え方”を持つことが大事になってきています。
10年前から「探究」の名前を冠して、主に小中学生を対象にオリジナル授業を提供している「探究学舎」(東京・三鷹市)。子どもの好奇心や探究心を第一に、宇宙、算数、音楽、戦国などをテーマに「もっと知りたい!」「やってみたい!」とワクワクする授業内容で人気を集めています。
株式会社探究学舎の取締役・宝槻圭美さんへのインタビュー後編では、今の時代に求められる教育や、親の心がまえについて話を聞きました。
今、「探究」の学びが注目される理由
――探究学舎は「受験も勉強も教えない塾」というユニークな塾として人気です。どのような流れで今の方針になったのか教えてください。
宝槻さん(以下、敬称略) 2012年に、東京・三鷹の小さな駅横の雑居ビルの1室で、中高生に勉強を教える塾として始まりました。その中で「探究」という授業を設けて、科学史や数学史など受験にとらわれない探究心を育む内容を教えていたのですが、生徒さんから「もっと探究の授業をやりたい!」という声が上がったので、徐々に探究の授業の割合を増やしていきました。
その後、だんだん時代の流れが変わってくる中で、「受験や成績よりも大事なことがある」ということに共感してくれる保護者の方々が増えてきました。そこで全ての授業を「探究」に切り替えて、宇宙や生命進化、医療、歴史など、さまざまなテーマを取り上げる今のスタイルになったんです。
――文部科学省も、最近「探究」というキーワードを重視するようになりました。
宝槻 そうですね。古代ギリシアのソクラテスやプラトンの時代から、「対話を通して学ぶ」という、探究心を育む教育の流れがありました。でも、日本では戦後から高度経済成長期を経て「教え込まれたことを学び、言われたことを適切にこなす人材」が長らく求められていて、探究の要素を採り入れることが難しくなってしまいました。最近やっと「それでは日本の経済が成り立たない」と、探究的な学びが受け入れられるようになっていった経緯があります。
興味を持ちさえすれば、子どもはどんどん学んでいく
――探究学舎で目的にしていることは何でしょうか。
宝槻 ずっと一貫しているのは、子どもたちに知識を教え込むのではなくて、いろいろなテーマを通じて一緒に驚いたり、感動して好奇心の種をまくということです。そして、その裏には「憤りと葛藤」という裏テーマがあります。面白い、楽しいというだけでなく、時には環境問題や紛争問題など、世の中の不条理な出来事に憤りを感じたり、葛藤したり…。そういう心を動かすプロセスを通じて、この世界に興味関心を持って向き合ってほしいと思っています。
興味を持ったら子どもたちはどんどん学んでいきます。その手前の「世の中ってこんなに面白いんだ」ということを届ける学び舎でありたいと、創業当時から変わらずに思っています。
――2020年からはコロナ禍もあり、インターネット配信での授業にも力を入れるようになりましたね。
宝槻 2019年にオンライン配信を実験的に始めました。2020年にはコロナ禍になってしまったことから、オンラインがメインの内容に舵を切りました。海外に住む子どもたちに英語での授業を配信するほか、エジプトやアラブ諸国にアラビア語での授業を届けるチャレンジもしているところです。
「絶対に幸せになれる教育」はないけれど…
――今の時代、子どもにどういう教育をしていけばいいのか悩む大人も多いと思います。勉強や成績が全てではないと思いながらも、先が見えない時代だからこそ小さい頃からしっかり勉強させたほうがいいのか、プログラミングなどの新しい習い事もさせるべきか…。宝槻さんはどう思われますか。
宝槻 これから技術革新が進んで、機械的なことは全て機械に任せられる時代がすぐそこまで来ています。機械には絶対にできない、人間だけのものが「感性」だと私は思います。感性を大事にして深く追求することで、アートやビジネス、研究などいろいろな分野で唯一無二のオリジナルなものを作り上げることができて、そこに価値が生まれる世の中になっていくはずです。
ご家庭ごとにお子さんに願うことはそれぞれ違うと思うのですが、まずはお子さん自身が何を願っているのかに耳を傾け続けるのがいいのかなと思います。子どもって、親が思っている以上にいろいろなことを感じて、考えている存在です。大人ほどにはまだ思考回路ができあがっていないので伝わりにくいですし、言葉や表現がなかなか追い付いていないのですが、内側には豊かな世界があると私は思っていて。親の願いと、子ども自身が持っている願いをちょっとずつ調整しながら、一緒に歩いていくことが大事なのかなと思っています。
――その子のことをよく見てあげて、どんな感性を持っているのか、何を望んでいるのか、コミュニケーションを取りながら見つけていくということでしょうか。
宝槻 そうですね。その時に大事なのは、親のめがねで評価判断しないということです。たとえば、我が家の次女は暇さえあれば何かしら踊っているのですが(笑)、親のめがねで見ると、ただ単に「落ち着きがないからじっとしていなさいよ」と返して終わらせることもできます。でも、無意識でやっていることってその子の持って生まれた資質を表す行動でもあるので、「この子は体を動かすのが好きなんだな」「体で表現することを無意識にやっている子なんだな」というふうに受け取るきっかけにもなるんですよね。いったん親としての考えや判断を保留すると、今まで見えてこなかった子どもの個性がすごく立ち現れてくるんじゃないかと思います。
今の時代、「この教育をすれば子どもは絶対に幸せになれます」という方法はありません。でも、その子に合う教育は存在しています。「こんなやり方がこの子に合っているんじゃないかな」と1人1人の求めているものや感性を大事にする子育てや教育をしていくことが、幸せな大人になるために大事なことだと思いますし、探究学舎でもそこをサポートしていきたいですね。
宝槻圭美さん(プロフィール)
1981年東京生まれ。国際基督教大学、英国サセックス大学大学院(国際教育学)修了後、バングラデシュNGO、JICAエチオピア事務所、ユニセフブータン事務所、ユネスコアジア文化センターにて国際教育協力に従事。株式会社探究学舎取締役。NPO法人ミラツク執行役員。保育士の資格あり。二男三女の母。
(取材・文 武田純子)