〈注意〉コロナ禍で子どものアルコール中毒事故が急増。アルコール消毒剤、小さじ1杯で命の危険性も【小科医】



消費者庁 子どもを事故から守る!プロジェクトでは「vol.583消毒剤・除菌剤の取扱いに留意しましょう。誤飲や眼に入る事故の発生が続いています!」というリリースを出して注意を呼びかけています。2022年3月には、保育園でアルコール消毒剤を複数回なめた子が、急性アルコール中毒になり救急搬送された事故も起きています。小児救急が専門の富山大学附属病院小児科 種市尋宙先生に、アルコール消毒剤による事故の原因や対策について聞きました。
フランスでは消毒剤が目に入り、全身麻酔で手術をした子も
消費者庁のリリースによると、「店舗のスタンド型のアルコール消毒剤で保護者が消毒した際、近くにいた子どもが突然“目が痛い”と言った。その場でタオルでふいたが、その後再び目を痛がったため受診した。とくに異常はなかった」(2歳・2021年4月発生)などの報告が上がっています。
――手指消毒剤が目に入る事故は増えているのでしょうか。
種市先生(以下敬称略) 日本中毒情報センター調べによると「除菌剤・消毒剤が眼に入ったことに関する中毒110番への相談件数」(2020年は速報値)では、新型コロナウイルス感染症(以下 新型コロナ)の流行前(2016~2018年)は年間41~44件でしたが、コロナ禍の2020年には265件の相談が寄せられています。
除菌剤・消毒剤が眼に入ったことに関する中毒110番への相談件数
また2021年のフランスの報告では、手指消毒剤が幼児の目に入った事故は、2019年は33件でしたが、2020年は232件と7倍に増加しています。
――目に消毒剤が入ると、どのような症状が現れるのでしょうか。
種市 痛みやうずき感、充血などの症状が見られます。なかには重症化することもあるので注意が必要です。フランスでは、手指消毒剤が目に入った事故で入院した子どものうち8人は角膜や結膜に潰瘍(ただれ)が見られ、そのうちの6人は角膜表面の50%以上を潰瘍が占めていました。また重度の視力障害を防ぐために全身麻酔をして羊膜移植手術をした子が2人いました。
――万一、目に手指消毒剤が入った場合はどうしたらいいのでしょうか。
種市 目をこすらないようにして、すぐに流水で洗い流しましょう。目を洗ったあとも痛がっていたり、充血がある場合、目を洗うのが難しいときは、すぐに眼科を受診してください。
アルコール消毒剤は、テキーラ以上の強さ。わずかな誤飲でも急性アルコール中毒に
2022年3月、島根県の保育園で5歳の女の子がアルコール消毒剤を複数回なめて、意識不明になり救急搬送されました。病院で血液検査をしたところ血中アルコール濃度が120mg/dlあり、「急性アルコール中毒」と診断されました。
――アルコール消毒剤を誤飲すると、急性アルコール中毒になるのでしょうか。
種市 新型コロナ対策として、アルコール消毒剤を常備している家庭も多いと思いますが、新型コロナ予防ではアルコール濃度は少なくとも60%以上のものが推奨されています。ビールのアルコール度数は平均5%程度、テキーラのアルコール度数は35~55%なので、いかにアルコール濃度が高いかがわかります。誤飲すれば急性アルコール中毒になります。
――子どもでは、アルコール消毒剤をどのぐらい誤飲すると急性アルコール中毒になってしまうのでしょうか。
種市 アルコール濃度100%の場合、乳幼児はわずか6~7mlの誤飲で命の危険があります。6~7mlといえば小さじ1より少し多い程度です。
また米国FDA(食品医薬品局)では、アルコールベースの手指消毒剤による重篤な有害事象50例を特定しています。有害事象のすべての症例は2020年3月以降に見られており、5歳から16歳の子どもたちにも4例確認されています。またアルコールベースの手指消毒剤から気化したアルコールを鼻から吸ってしまって副作用を引き起こす可能性があると警告をしています。
こうしたことによってめまいや頭痛、吐きけなどが現れるとされており、閉鎖空間や換気の悪いところで手指消毒剤を使用する場合は注意が必要です。
――アルコール消毒剤を誤飲したときの家庭での対処法を教えてください。
種市 誤飲したことが明確なときは、子どもの口に指を入れてすぐに吐かせてください。アルコールの血中濃度のピークは1時間程度です。処置のタイミングも1時間以内が推奨されており、子どもの様子をよく見てアルコール臭がしたり、顔が赤くなっていたり、嘔吐(おうと)、めまい、動悸(どうき)などの様子がある場合は、至急、救急外来を受診してください。
アルコール消毒剤の使用は、手洗いができないときの代用と考えて
アルコール消毒剤の事故を防ぐには、取り扱いに注意することが第一です。また種市先生は、手指消毒よりもハンドソープを使って手を洗うことが感染症予防の基本だと言います。
――アルコール消毒剤の事故を防ぐには、どのような対策をとるといいでしょうか。
種市 家庭では、子どもの手の届くところにアルコール消毒剤を置かないことです。
また店舗などでは噴射式のアルコール消毒剤が置かれていますが、噴射式は目に入る危険性が高いので、子どもには使わせないことが基本です。大人が使っているときは、子どもは近づかないように教えましょう。もし高い位置の噴射式アルコール消毒剤を使う場合は、顔を背けて使うか、目よりも高い位置で使えるように、抱っこなどで補助してあげてください。最近は、子ども用の低いスタンドタイプも出ていますが、基本的に子どもが1人でアルコール消毒をするのは危険を伴うと思ってください。
――噴射式でなければ目に入る危険性はないのでしょうか。
種市 ジェルタイプのアルコール消毒剤のほうが飛び散りは少ないと考えられますが、目に入った場合は、流水で落としにくいです。噴射式でなければ大丈夫とは考えないでください。
――アルコール消毒剤の危険性はわかりましたが、新型コロナを予防するにはアルコール消毒は必要ですよね?
種市 アルコールによる手指消毒は、接触感染を防ぐためのものですが、以前から新型コロナは接触感染を含めた環境からの感染率は低く、感染者の10%程度といわれていました。
2022年1月には、米国の大学病院に入院中の新型コロナに感染した20人の病室から生きた新型コロナウイルスがどの程度検出されるのか調べた論文(※)が発表されました。陽性判定後24時間以内、3日目、6日目、10日目、14日目にドアノブ、シンク、ベッドの手すりなど6カ所から綿棒で新型コロナウイルスを採取してPCR検査をしたところ、生きた新型コロナウイルスが検出されたのは347点の検体中わずか1検体のみでした。この1検体が鼻や口、目から入って感染を引き起こす可能性はかなり低いと思われます。
新型コロナの対策にかかわらず、感染症対策はハンドソープを使ってしっかり手を洗うことが基本です。アルコール消毒は、手を洗えないときの代用と考えてください。
協力/公益財団法人 日本中毒情報センター 取材・文/麻生珠恵、ひよこクラブ編集部
アルコール消毒は習慣化していますが、子どもの目に入ったら危ないことや誤飲の危険性があることをしっかり認識しておきましょう。種市先生は、手指消毒剤は可燃性なので、携帯用を車の中に置き忘れたりすると、発火の危険性があることも指摘しています。夏はとくに注意しましょう。
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