鼻水、下痢…初めは風邪だと思っていたのに希少疾患だったなんて。判明まで10か月もかかったランゲルハンス細胞組織球症【体験談】
小野優子さん(52才・仮名)が、はずきちゃん(15才・仮名)の体調が気になりだしたのは生後2カ月ごろのことでした。上の子の幼稚園の運動会に連れていった翌日から鼻水が出て「風邪かな?」と考えたからだと言います。その後さまざまな症状が現れ、いくつかの病院を受診しながら、「小児慢性特定疾病」である「ランゲルハンス細胞組織球症(LCH)」と診断されたのは1才2カ月のときでした。LCHと診断がつくまでの約10カ月の間の経緯を、当時の優子さんの気持ちも含めて聞きました。
ただの風邪だと思っていたのに、鼻水、耳だれ、下痢がいつまでもよくならない
2006年8月に体重2775g・身長49㎝で誕生した小野はずきちゃんは、優子さんにとって3人目の子どもでした。「上2人に比べてやや小さめ」(優子さん)だったそうですが、妊娠・出産ともにトラブルはなく、元気に生まれてきました。
優子さんがはずきちゃんを病院に連れていったきっかけは、2カ月ごろから出始めた鼻水が、いつまでも止まらなかったからでした。
「1人目の幼稚園の運動会に連れていったあと鼻水が出るようになり、風邪をひかせちゃったかなと思ったのですが、熱はないし機嫌も悪くなかったので、家で様子を見ていました。でも、いつまでも鼻水が収まらず、4カ月ごろから耳だれも出るようになったので、耳鼻科を受診。吸入や耳の中の洗浄などを行っても症状は改善しませんでした。
どうしてよくならないんだろうと思っているうちに、9カ月ごろには下痢が始まり、小児科を受診。整腸剤を処方され、しばらく通院しましたが、一向によくなりません。自分なりにいろいろ調べてみて『乳糖不耐症(にゅうとうふたいしょう)』を疑い、別の小児科で相談してみました。でも、乳糖不耐症ではなさそうとのことで、違う整腸剤を処方されました。でも、やはり状態は変わりませんでした。
耳だれはその間も続いていたので、耳鼻科もずっと通っていました。小児科と耳鼻科と両方に通っている状態です。あまりに耳だれが改善しないので、大学病院を紹介され、平日は毎日治療に通うことになりました」(優子さん)
大学病院の耳鼻科に3週間通って治療を続けたけれど、耳だれがよくなるきざしは見えなかったとのこと。そんな中、はずきちゃんの体にまた違う症状が現れます。
「1才のお誕生日のころから、急に水分をたくさん欲しがるようになりました。のどがかわいてしょうがないのか、ものすごい量の麦茶や水を飲むんです。そしておしっこもたくさん。何度も何度もおむつ替えが必要でした。さすがにおかしいと思い、通っていた大学病院の耳鼻科で相談すると、耳だれもよくならないし、下痢もおしっこも止まらないということで、全身を調べる必要があると判断され、その大学病院の小児科に入院することになりました」(優子さん)
後にそれは、LCHの腫瘤(しゅりゅう)が視床下部(ししょうかぶ)下垂体付近にできて、抗利尿ホルモンの分泌がさまたげられることで起こる「中枢性尿崩症」だと診断されます。
「今思えば、はずきの体に次々と現れた症状は、すべてLCHの典型的な症状だったんです」(優子さん)
大学病院の小児科に入院したものの、原因不明のまま症状がどんどん悪化
入院中のMRIの検査で、耳の鼓膜(こまく)が見えにくくなっていて骨が溶けていることが判明。その影響で耳だれが続いていることがわかりました。でも、ほかの症状との関連は明らかにならず、その間にはずきちゃんの症状はどんどん悪くなっていったそうです。
「貧血があることもわかりました。また、頭に脂漏性湿疹(しろうせいしっしん)のような発疹ができていて、はずきがかくと血が止まらなくなってしまいます。そして口の中にも膿(うみ)がたまったようなぶよぶよができて・・・。しかも、表情がどんどんなくなっていき、症状が悪化しているのは素人目にもわかりました。どうして原因がわからないんだろうと、あせりと不安が日ごとに大きくなっていきました。
そんなとき、1人の先生から『ランゲルハンス細胞組織球症(LCH)かもしれないから生検をしてみましょう』という提案がありました。そんな病名は聞いたこともなかったけれど、原因を知りたい一心で検査をお願いしました」(優子さん)
生検の結果が出るまで1週間かかるとのことで、その間に優子さんはLCHについてネットなどで調べたそうです。
「LCHは希少疾患なので、今でも情報が多いとは言えませんが、15年前は今よりずっと少なくて、情報集めにすごく苦労しました。ネットであちこち調べているうちにLCHの患者会に行き当たり、そこで解説されていたLCHの症状が、全部はずきに当てはまっていたんです。血液の病気だとは思ってもいなかったのでショックでしたが、LCHに違いないと思いました」(優子さん)
また、患者会の情報で、国立成育医療研究センター(以下成育医療センター)の治療実績がいちばん多いことも知ったと言います。
そして1週間がたち、やっと原因が判明する、適切な治療を受けられると期待した優子さんですが、医師からは再検査を告げられました。
「そのころには多くの実績を持つ成育医療センターにお願いしたい、という気持ちが強くなっていて、夫と相談のうえ、成育医療センターに転院させてほしいと大学病院にお願いしました」(優子さん)
成育に転院した4日後に重症のLCHと診断され、抗がん剤による治療を開始
成育医療センターに転院初日、耳、皮膚、直腸、骨のMRI、CT、生検を実施。翌日「おそらくLCHに間違いない」との見立てにより、抗がん剤を投与するカテーテルを埋め込む手術を行いました。そして4日後に、多臓器型の重症なLCHと診断されました。
「事前に調べていたこともあり、LCHなんだろうと覚悟はしていましたが、抗がん剤を使うことに衝撃を受けました。当時、LCHはがんには分類されてはいなかったので、がんでもないのに抗がん剤を使うんだ…と驚がくしました。でもその反面、『やっと適切な治療を受けさせることができる』とホッとしたのも、昨日のことのように覚えています。
主治医の塩田先生から、『おなかの中にいたときすでに発症していたかもしれない』という説明を受けたのも忘れられません。
最初の抗がん剤治療で骨や皮膚、直腸の病変には大きな効果が得られ、長い間悩まされていた耳だれ、発疹、下痢はみるみるよくなっていきました。抗がん剤がこんなにも効くんだ、治るための確かな治療を受けているんだと感じました。
どんな病気もそうですが、正しい診断と治療を受けることが非常に大切で、そのためには親が自ら行動することも欠かせないと、身をもって理解しました」(優子さん)
【塩田先生より】症状が多彩なLCHは診断がつくまでに長い時間がかかることも
LCHは症状がとても多彩で、はずきちゃんのように、さまざまな診療科を受診され、語りきれない長い大変な経緯を経て、正しい診断と治療にたどり着くことがあります。
先日、「骨に炎症が起きて、よくならないうちに、次は尿崩症になった」というお子さんを持つママが、ご自分で調べ、入院中の担当医に「これはLCHという病気に違いない」とお話しされ、診断に至ったというケースがありました。多くのご家族からの「こんな体験をもう誰にもしてほしくないから、うちの子の話を広めてほしい」という提案を受け、医者や看護師さん向けのレクチャーや医学書などで、なるべく印象に残るよう紹介させていただいています。
お話・写真提供/小野優子さん 取材協力/LCH患者会代表・依田直子さん 取材・文/東裕美、ひよこクラブ編集部
10カ月間原因不明のまま、さまざまな症状に悩まされたはずきちゃん。15年前は大学病院でもLCHがなかなか認知されていなかったこともわかります。「早く適切な治療を受けさせたい」という思いから、小野さん夫婦は転院という大きな決断をしました。
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