木の実類のアレルギーが急増!1、2才の食物アレルギー新規発症原因食物の第2位に。いつからどうやって食べさせる? 【専門医】
木の実類にアレルギーを起こす子どもが増えていることが注目されています。でも、木の実類は栄養豊富な食材でもあります。子どもにどうやって食べさせるのがいいのでしょうか。国立病院機構相模原病院臨床研究センター 食物アレルギー研究室室長の佐藤さくら先生に聞きました。
木の実類が原因の食物アレルギーの新規発症が増えている
「木の実類」とは、種実類に分類される、かたい殻や皮に包まれた食用の果実や種子のこと。日本で一般的に食べられているものとしては、くるみ、カシューナッツ、マカダミアナッツ、アーモンド、ピスタチオ、ペカンナッツ、ヘーゼルナッツ、ココナッツ、カカオ、クリ、松の実があります。
ちなみに、落花生(ピーナツ)も同じように殻に覆われていますが、マメ科の植物で地中にマメができるのが特徴です。木の実類ではありません。
「即時型食物アレルギーによる健康被害に関する全国実態調査」は、相模原病院の海老澤元宏先生らが行っているもので、食物を摂取後60分以内になんらかの反応を認め、医療機関を受診した患者を対象として調査です。2020年の調査全体のランキングを見た場合、木の実類は鶏卵、牛乳に次いで多く、小麦を抜いて3位になりました。木の実類のアレルギーは増えているのでしょうか。
「この調査は3年に一度行われていて、前回(2017年)の木の実類の割合は8.2%で4位でしたが、今回は13.5%と割合が増え、小麦(8.8%)を抜いて3位になりました。
3大アレルゲンといわれる鶏卵、牛乳、小麦の割合は横ばいであるのに対し、木の実類は2014年以降に増加しています。中でもくるみでアレルギーを起こす人の増加が著しく、2014年は1.8%だったのに対し、今回は7.6%でした。次いでカシューナッツ(2.9%)、マカダミアナッツ(0.7%)、アーモンド(0.6%)と続きます。特定原材料に指定されている落花生(6.1%)より、くるみにアレルギーを起こす人のほうが多いのです」(佐藤先生)
やはり木の実類のアレルギーは増えているのですね。理由として考えられることはありますか。
「今のところ確かな理由はわかっていません。ただ、くるみの国内消費量が増えており、食べる機会が増えたことが要因の1つになっている可能性はあると思います。今後の研究課題となっています」(佐藤先生)
木の実類のアレルギーは重篤な症状を起こしやすいと聞きます。
「ショック症状を引き起こした原因食物の上位3位は、前回の調査までは鶏卵、牛乳、小麦でしたが、木の実類のアレルギーを発症する人が増えたことに伴い、2020年の調査では木の実類が3位になりました。木の実類の内訳ではくるみが最も多く、ショック症例全体に対して8.8%を占めています。次にカシューナッツが4.5%です。落花生は7.0%なので、くるみは落花生より重篤な症状を起こしていることになります」(佐藤先生)
固形の木の実類は5才までNG。粉末やペーストなどはもっと早くからOK
初めて食べてアレルギーを起こした食物を年代別で見た場合、木の実類は1、2才で2位、3~6才は1位となっています。この時期に初めて木の実類を食べる子どもが多いということですね。
「5才ごろまでは固形の木の実類はそしゃくできませんが、木の実類はペースト状、粉末状、液体、オイルなど、さまざまに加工されています。幼児食になって食べるものの幅が広がることで、木の実類を口にする機会が増えるのが、これらの年代なのです」(佐藤先生)
木の実類や落花生は誤えん性肺炎や窒息の恐れがあることから、消費者庁は「かむ力が整う5才までは控える」としています。アレルギー予防ということから考えた場合も、5才までは食べさせないほうがいいでしょうか。
「5才まで控えるというのは、5才ごろまでの子どもはかむ力が未熟で、固形の木の実類をしっかりとそしゃくできず、誤えんや窒息を起こす危険性があるから、木の実をそのままの形で食べさせないでください、という意味です。5才までまったく口にしてはいけない、という意味ではありません。
ペーストや粉末など誤えんの心配がない形状のものは、もっと早い時期から食べさせることができます。
ただし、すでになんらかの食物アレルギーがあったり、アトピー性皮膚炎を発症していたりする場合は、初めて食べさせるときには少ない量から食べさせるか、主治医に相談してから食べさせるといいでしょう。もし血液検査で木の実類のアレルギーの疑いがあることが判明した場合は、病院で食物経口負荷試験を行い、きちんと診断してもらうことをおすすめします。心配になりすぎて、むやみに木の実類を食べないようにする必要はありません」(佐藤先生)
木の実類はスキンケア用のオイルの原料にもなります。子どものスキンケアに使うのはどうなのでしょうか。
「木の実類のオイルを使った子どものアレルギー発症率を調べた研究報告は今のところないのですが、イギリスで、ピーナツオイルの使用とアレルギーの発症について調べた研究報告があります。
ピーナツオイルを原料に含むベビークリームを使っていた子どもは、使っていなかった子どもに比べて、ピーナツを口にしたときのアレルギー発症率が7倍高かったという結果が出ています。このことから考えると、木の実類を使ったオイルは、子どものスキンケアには使わないほうがいいかもしれません」(佐藤先生)
子どもが食べられる形状のものを少しずつ与えて様子を見る
木の実類は、不飽和脂肪酸、カルシウム、マグネシウム、食物繊維など栄養豊富な食物なので、食物アレルギーがない子どもの場合は、様子を見ながら食事に取り入れていく、という考え方でいいでしょうか。
「そのとおりです。木の実類の与え方についての指針はまだないので、ママ・パパが不安になるのはよくわかります。でも、『食べる時期を遅くすることが食物アレルギーの予防にはならない』ということだけははっきりしています。子どもがそしゃくできる形状のものであれば、食事の進み具合に合わせて食べさせていくといいでしょう。少量から与え始め、万が一、湿疹(しっしん)やかゆみなどのアレルギー症状が見られたらすぐ受診します。与え方はほかの食物と変わりません。アレルギーを起こしたら大変だからとむやみに怖がらず、子どもの体調がいいときに少しずつ食べさせてみるのがいいでしょう」(佐藤先生)
お話・監修/佐藤さくら先生 取材・文/東裕美、ひよこクラブ編集部
木の実類のアレルギーを起こす子どもが増えているのは事実ですが、食べるのを遅くしたからといってアレルギー予防にはならないことがわかっています。子どものかむ力に合わせた形状のものを少しずつ与え、様子を見るのが与え方の基本のようです。