15年ぶりに「くるみ」が特定原材料表記に追加される方針に。家族がくるみを食べていると子どもがアレルギーになりやすいの?【専門家に聞く】
近年、くるみのアレルギーを発症する人が増えていることを受け、消費者庁はくるみを特定原材料の品目に加える方針を打ち出しました。特定原材料表記の意味することや、くるみを子どもに食べさせるときの注意点などについて、国立病院機構相模原病院臨床研究センター 食物アレルギー研究室室長の佐藤さくら先生に聞きました。
2008年のえび、かに以来、15年ぶりにくるみが特定原材料に格上げ?
「特定原材料」は食物アレルギー症状を引き起こすことが明らかになった食品のうち、とくに発症数、重篤度から考えて表示する必要性の高いものとして、表示が義務化されたもの。
「特定原材料に準じるもの」は食物アレルギー症状を引き起こすことが明らかになった食品のうち、症例数や重篤な症状を起こす人の数が継続して相当数みられるけれど、特定原材料に比べると少ないものとして、可能な限り表示することが推奨されたもの。
どちらもお菓子などの加工食品に表示されています。
2001年に特定原材料5品目、特定原材料に準するもの19品目が決まり、表示が開始されました。これまでの経緯は以下のとおりです。
●2001年
「特定原材料」5品目:乳、卵、小麦、そば、落花生(ピーナツ)
「特定原材料に準じるもの」19品目:えび、かに、あわび、いか、いくら、オレンジ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、さけ、さば、大豆、鶏肉、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン
●2004年
「特定原材料に準じるもの」にバナナを追加
●2008年
えび、かにを「特定原材料」に格上げ
●2013年
「特定原材料に準ずるもの」にごま、カシューナッツを追加
●2019年
「特定原材料に準ずるもの」にアーモンドを追加
<現時点での食品表示>
「特定原材料」7品目:乳、卵、小麦、そば、落花生、えび、かに
「特定原材料に準ずるもの」21品目:
あわび、いか、いくら、オレンジ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、さけ、さば、大豆、鶏肉、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン、バナナ、ごま、カシューナッツ、アーモンド
「消費者庁の委託を受け、国立病院機構相模原病院では『即時型食事アレルギーによる健康被害に関する全国実態調査』を3年に一度行っています。即時型食物アレルギーとは、食べて60分以内に何らかの症状が出るアレルギーのことです。
原因食物として、くるみを含む木の実類は、2017年の調査では4位でしたが、2020年の調査では小麦を抜いて3位になりました。中でもくるみのアレルギー発症件数は、2017年は251件だったのに対し2020年は463件と約2倍に。40件だった2011年と比べると約10倍にもなっています。
こうした状況を受け、消費者庁はくるみを特定原材料表示に格上げする方針を明らかにしており、早ければ今年中に制度を見直す手続きが始まります」(佐藤先生)
くるみの表示が義務化された場合、2008年にえび、かにが義務化されて以来のことになります。えび、かにが義務化されたときにはどのような背景があったのでしょうか。
「えび、かにでアレルギーを起こす人が増えていることがわかり、また、重篤な症状を起こすリスクも高いことがわかったことで、義務化することになりました。今回のくるみと同じです」(佐藤先生)
くるみのアレルギーが増えている理由は今のところ明らかではない
近年、急激にくるみのアレルギーが増えたのは、くるみは栄養価の高い「スーパーフード」として注目され、食べる人が増えたことが要因として考えられますか。
「『農林水産省 特用林産物生産統計調査』によると、くるみの年間消費量は2005年以降年々増えているので、食べる人が増えていることは確かです。でも、それだけが理由ではないかもしれません。原因は今のところわかっていないのです」(佐藤先生)
卵の場合、子どもが卵を食べていなくても、ママやパパが食べた卵のアレルゲン(抗原)がリビングなどの室内にあり、子どもの皮膚に湿疹(しっしん)があると皮膚から侵入し、免疫細胞と反応して感作を起こしてしまうことがあると言います。くるみの場合も家族が好んで食べていると、子どもがアレルギーを起こしやすくなるのではないか…と心配するママ・パパがいそうです。
「家族がくるみを食べている場合、家庭内の空気中にくるみのアレルゲンがどの程度あり、それが子どもにどう影響するのかは、日本だけでなく世界中で調査したことがないので、卵と同じことがいえるのか、そうでないのかは、今の段階では不明です。
子どもの肌にトラブルがあると、家族が食べたくるみの抗原が子どものくるみアレルギーの原因になる可能性はゼロではないかもしれません。でも、だからといって周囲の大人がくるみを食べるのをやめる必要はないと思います。まずは子どもの皮膚トラブルのケアをきちんと行い、皮膚の健康を保つように心がけることが大切です」(佐藤先生)
「くるみのアレルギーが怖いから子どもには食べさせない」は効果なし
2015年にアメリカのアレルギー学会が、離乳食でピーナツバターが使われるお菓子を食べるイスラエルの子どもと、幼児期までピーナツを含む食品を避ける傾向にあるイギリスの子どもを比較したところ、イギリスのほうがピーナツアレルギーを持つ子どもが10倍多かったと発表しました。このことから考えると、くるみを離乳食から少しずつ食べさせたほうが、アレルギーになりにくいと考えられますか。
「日本でくるみのアレルギーが注目され、研究されるようになったのはここ10年くらいのことなので、まだわからないことが多く、食べさせ方の指針も決まっていません。ただ一つ確かなことは、アレルギーが怖いからと食べさせる時期を遅くしても、アレルギーの予防にはならないということです。かたまりのままのくるみは5才ごろまでは誤えん・窒息のリスクがあるのでNGですが、くるみペーストや、粉末などでお菓子に使われているものなどであれば、幼児食から食べられます。最初は一口食べさせて様子を見て、問題なければ少しずつ食べる量を増やしてみるといいでしょう(佐藤先生)
すでにほかの食物アレルギーがあることがわかっている子どもへの食べさせ方は、どうすればいいですか。
「くるみを食べさせる前に主治医に相談し、IgE抗体検査を行ってから、どのように食べさせるのか相談することもできます。その結果、くるみのアレルギーを起こす可能性がある場合には、病院で食物経口負荷試験を行い、きちんと診断してもらいましょう。」(佐藤先生)
くるみが特定原材料への格上げになることを知り、「くるみはアレルギーを起こしやすい怖いもの」と考え、アレルギーがなくても子どもに食べさせるのを避けてしまう人が出てくるかもしれません。
「表示義務は、その食物にアレルギーのある人が口にしないためのもの。アレルギーを起こしていない人が、アレルギーを起こしやすい食材を避けるためのものではありません。『くるみが特定原材料に格上げされるから、子どもに食べさせてはいけない』と考え、アレルギーのない子どもに与えないようにするのはNG。くるみは栄養価の高い食物ですし、子どもの味覚を広げるためにも、子どもの食事にも上手に取り入れていってほしいと思います」(佐藤先生)
お話・監修/佐藤さくら先生 取材・文/東裕美、ひよこクラブ編集部
くるみが特定原材料に表示されることになっても、ほかの食品でアレルギーを起こしたことがなく、アトピー性皮膚炎もない子どもの場合は、くるみを避けるのではなく、安全な形状のものを、少しずつ食べさせていくのがいいようです。