「言い間違いが多い、聞き取りにくい…」子どものことばの発音が気になったら、それって構音障害かも?【専門家】
ことばは理解しているけれど、なかなか赤ちゃんことばが抜けない、言い間違いが多い、ことばが聞き取りにくい…子どもの発音が気になる場合、もしかしたら構音障害があるのかもしれません。子どもの発音が気になるときにどうすればいいのか、こうざと矯正歯科クリニックの「ことばのきょうしつ」で診療を行う言語聴覚士 山田有紀先生に聞きました。
唇や舌・あごが発達しないと、サ行、ラ行、ツ、ザ行の音は発音が難しい
――構音とはどんなものなのか、教えてください。
山田先生(以下敬称略) ことばを発するためには、脳から唇や舌・あごや声帯などの器官に指令が送られ、それらの器官が連携して運動して音を作ります。ことばを音として発するのに必要なすべての要素や過程を、医学的に「構音」といいます。子どもは当然構音が未熟な状態で、発達とともに徐々に正確になっていきます。
――月齢・年齢に応じて、どんなふうに構音が発達するのでしょうか?
山田 離乳食が始まる前の赤ちゃんは、「あー」「うー」といった発音をします。やがて唇を閉じて音を出せるようになると「ぶー」などの音が出始め、さらに離乳食が始まり舌の力がついてくると「タタタタ」「ナンナン」などの音が出始めます。その後は徐々に、いろんなことばの理解が増えてくるに従って、発音できる音もどんどん増えていき、4歳くらいまでにサ行・ラ行・ツ・ザ行以外の発音を獲得する子どもが多いです。サ行、ラ行、ツ、ザ行については就学前くらいにやっとできるようになります。
――サ行、ラ行、ツ、ザ行の音は発音が難しいんですか?
山田 サ行・ラ行・ツ・ザ行は舌の動きが複雑で難しいんです。タ行の“ツ”以外は早めの段階で獲得する子が多いですが、“ツ”はちょっと違います。タ・チ・テ・トを発音してみると、舌の先が上の前歯の後ろあたりにつくと思います。しかし“ツ”の音は、舌先が前歯の後ろにつきながらも、舌の形が筒状になって空気が通り抜ける道ができるんです。これを専門用語では摩擦と言います。サ行も同様に空気が通る音ですが、この舌の動きがなかなか難しいのです。
「きりん」が「ちりん」に…原因がはっきりしない、構音障害とは?
――では、子どもが言い間違いが多い、赤ちゃんことばが多いときには、口の発達に問題があるのでしょうか?
山田 3歳くらいの子どもには、構音の誤りはよくあることですが、4歳くらいになって“さかな”を“ちゃかな”と言ったり、赤ちゃんことばがあったりすると、かわいらしい感じではあるけれど構音が発達しきっていない可能性があります。
あとは、たくさんおしゃべりをしているんだけど、何をしゃべっているのかよくわからないなど、発音が不明瞭(めいりょう)なことがあります。これらのように発音がうまくいかない状態を構音障害と言います。
構音障害には、身体的な原因がはっきりしている「器質性構音障害」と、はっきりした原因がわからない「機能性構音障害」というものがあります。
「器質性構音障害」は、あご・唇・舌などの構音に携わる部分に、形態異常などの身体的要因があって発音がうまくいかないことを指します。この場合、歯科や耳鼻科で手術や治療を行ったのち、言語聴覚士の指導で発音練習を行います。
「機能性構音障害」は、身体的な原因や聴覚障害などの原因がないにもかかわらず、発音が誤っていたり不明瞭だったりする状態のことです。発音のしかたを間違って身につけてしまい、誤った発音をしてしまう状態です。
――機能性構音障害は、どんなふうに発音を間違えてしまうのでしょうか?
山田 大まかに、置換と省略と添加というパターンがあります。
置換は、「“さかな”が“たかな”」のように別の音に発音されたり、「ち(き)りん」のように「き」なのか「ち」なのかがはっきりしない音に発音されることです。また、省略は「“いくら”が“いくあ”」のように子音が省略されること。添加は、“つみき”が“つみきり”のように、ほかの音がついてしまうことです。添加はことばを覚え、学んでいくうちに自然に治りますが、置換や省略の場合は専門家の指導による練習の必要があります。
――親がずっと子どもに対して赤ちゃんことばを使わないほうがいいでしょうか?やめる時期の目安はありますか?
山田 「わんわん」「ブーブー」などは、2歳くらいまでの子どもとのおしゃべりで使うのは構わないと思います。ただ、3〜4歳になっても親のほうがずっと赤ちゃんことばで話しかけていると、子どもが正しいことばを聞く機会がなくなってしまうことはあると思います。
3〜4歳ころになったら、「くっくはこうね」というよりは「靴をはこうね」と正しいことばで話してあげ、だんだんと大人が使うことばに移行していいと思います。「くっく、靴ね」「にゃーにゃー、猫がいたね」というように正しいことばを併用してあげるのもいいでしょう。
――子どもの発音の誤りに気づいたら、何歳ころまで様子を見ていいでしょうか。
山田 3歳児健診では、子どもに絵を見せて名前を言ってもらう、という検査項目が必ず入っていて、担当の保健師や言語聴覚士が、サポートが必要かのチェックをしているはずです。健診以外では、4歳を過ぎても「かたつむり」が「たたつむり」になっているという場合には、子ども専門の言語聴覚士がいる病院を探して受診してみるといいと思います。
ただ、子ども専門の言語聴覚士の数が少ないという問題もあり、受診が必要とわかっても、予約をしてから診察までに数カ月がかかることも。もし3歳児健診で発音の練習が必要だとわかった場合、そこから病院を探したり、予約をしたり、というふうに進めると、4歳を過ぎるころに訓練が開始できるでしょう。
――家庭で子どもの発音のためにできることはあるでしょうか。
山田 構音障害がある場合には、専門家による訓練が必要です。子どもの構音障害に気づいたら、家庭では「違うよ」「言い直してごらん」などと否定はせずに、親が返事をするときに正しい発音を聞かせてあげるようにしましょう。たとえば「さかな」を「ちゃかな」と言ってる場合、本人は「さかな」と言ってるつもりで、正しい発音のしかたがわからないんです。そこで親が「おさかなでしょう」「言ってごらん」と無理に言わせようとするのは逆効果。「そうだね、さかなだね」と正しい発音で返事をしてあげてください。
カ行をタ行に間違える発音が2カ月で改善した男の子
――先生の「ことばのきょうしつ」を構音障害で受診した子どもで、練習によって症状が改善した例を教えてください。
山田 年長さんで「かきくけこ」が言えず、「たちつてと」になってしまう男の子がいました。その子の名前にもカ行が入っていたので、本人も発音ができないことを自覚し始めているようでした。
「かきくけこ」は、舌の奥のほうを使う発音です。でも「たちつてと」になっているということは、舌の前のほうを使ってしまっているいということ。そのため、男の子に口を開けてもらい、舌先を器具で軽く押さえて、「これで“か”って言ってみよう」というふうに舌の奥のほうを使う練習を行いました。「かきくけこ」の音の出し方を教えたら、男の子は1回〜2回ですぐ覚えられていました。自宅でも練習をしてもらい、週1回の通院で合計8回ほど、2カ月くらいでカ行が発音できるようになりました。
年長さんくらいになると、自分が発音ができないことがわかり始める子が多いです。でもなんで発音ができないのか、発音のしかたがわからない。そこで、その音自体を言おうとしなかったり、コミュニケーションの機会を自分で減らしてしまうこともあります。お友だちから悪気なく指摘されて傷ついてしまうことも。まだまだことばの発達は続いている時期なので、できるだけ専門家による訓練を受け、周囲の人とのコミュニケーションを楽しめるようにサポートしてあげてほしいと思います。
お話・監修/山田有紀先生 監修/上里聡先生 取材・文/早川奈緒子、ひよこクラブ編集部
子どものつたない話し方はかわいらしいですが、大人は子どもの発達に合わせて正しいことばの発音を聞かせてあげることも大切です。子どもの言い間違いや赤ちゃんことばが気になったら、まずはかかりつけの小児科や耳鼻科、あるいは住んでいる地域の保健師に相談し、サポート先を聞いてみる方法もあるそうです。
●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
※当記事では“ことば”とひらがな表記にしています