赤ちゃんはどうして泣くの? 泣くことでママやパパに発している2つの信号とは?【専門家監修】
「赤ちゃんって、なんでこんなに泣くんだろう…」と思ったことはありませんか? 実はヒトの赤ちゃんは、ほかの霊長類と比べると、過剰に泣くことがわかっています。ヒトの赤ちゃんの泣きについて研究している、東京大学大学院教育学研究科特任助教授 新屋裕太先生に話を聞きました。新屋先生は、5歳、1歳10カ月、1カ月の3人の子のパパでもあります。
研究員や学生が右往左往する赤ちゃんの泣き。赤ちゃんのパワーのすごさを見て、研究テーマに
新屋先生が、赤ちゃんの泣きを研究テーマにするようになったのは大学3年生のころ。そのきっかけになったのはちょっとした出来事だったと言います。
――先生が赤ちゃんの泣きについて、研究を始めたきっかけを教えてください。
新屋先生(以下敬省略) 大学3年生のとき、赤ちゃんを呼んでデータをとる発達心理学の研究を見学しました。でも人見知りの時期もあって、大泣きして研究が進まず、研究員や学生たちが右往左往しながら、赤ちゃんを必死に泣きやませようとしていたんです。それは研究が進まないというだけではなく、どうにか泣きやませなくてはならないとみなが感じたからの行動でした。その光景を見たときに、赤ちゃんの泣きのパワーってすごいと思い、興味を持つようになりました。また、もともと早産で生まれた赤ちゃんの発達の問題にも関心があったので、翌年の卒業研究から、早産児の泣き声に焦点を当てた研究を進めることになりました。
――赤ちゃんの泣きをテーマにした研究は多いのでしょうか。
新屋 赤ちゃんの泣きの研究にとくに力を入れていたのが、小児医学の領域だと思います。赤ちゃんが泣く音響解析などを通して、痛みによるストレスや神経障害との関係などを調べる研究がされていました。
赤ちゃんは「正直な信号」と「セパレーションコール」の2つの信号をママやパパに発する
赤ちゃんの泣きには信号の意味があり、その信号がわかってくると、かかわり方のコツがわかり、ママやパパの気持ちがラクになることもあるようです。
――先生が研究された赤ちゃんの泣きに関することで、日々の育児に役立つことを教えてください。
新屋 赤ちゃんの泣きは、ママ・パパに送る信号としての機能があり、低月齢のうちから2つの信号を発しています。
1つは「正直な信号」といって、「おなかがすいた」「眠い」「暑い」など生理的欲求を伝える泣きです。
もう1つは、「セパレーションコール」といって、ママやパパから離れることによる泣きです。これはママやパパとコミュニケーションをとるための信号です。親子の絆(きずな)をつなげる愛着関係は、このセパレーションコールから形成されます。
――セパレーションコールは、ママやパパから離れることで泣くとのことですが、抱っこしても泣きやまないこともあると思うのですが…。
新屋 これがヒトの赤ちゃんの特徴です。ヒトに遺伝的に最も近いチンパンジーの赤ちゃん55頭の泣きを調べたデータもあるのですが、ヒトの赤ちゃん同様にチンパンジーの赤ちゃんも1~2カ月のころによく泣くことがわかっています。しかし親と物理的接触をすると即座に泣きやみます。本能的に外敵から身を守るためにすぐに泣きやむということもありますが、ヒトの赤ちゃんのように持続的に激しく泣くチンパンジーの赤ちゃんはいないようです。
――抱っこしたり、あやしたりしても泣きやまないときは、どのように考えるといいのでしょうか。
新屋 ヒトの赤ちゃんは「正直な信号」と「セパレーションコール」が混じり合うこともあり、ママやパパにとってはなぜ泣いているのかわからないこともあります。
ただ赤ちゃんは、3~4カ月ごろになると泣きが多様化します。泣き声の制御が可能になり、ママやパパのかかわりに応じて、リズムやメロディーを変えて泣くようになっていきます。これは赤ちゃんの学習能力によるものだといえるでしょう。
――泣きのリズムやメロディーが変わるとはどのようなことでしょうか。
新屋 赤ちゃんの泣き声を意識して聞いてみてください。赤ちゃんは成長するに従い、自身の状態やそのときの状況によって声の高さやリズムなどを柔軟に変えます。
赤ちゃんが成長してくると、赤ちゃんの泣き声を聞くことで「おなかがすいているんだな」「眠いんだな」「抱っこしてほしいんだな」とパパやママにもわかるようになる場合もあると思います。
コリック(夕暮れ泣き)が激しい子は、1日5時間以上泣くことも。しかし原因は不明
夕方になると泣き始めるコリック。悩んでいるママやパパも多いと思いますが、新屋先生によるとはっきりとした原因は、まだわからないと言います。
――コリック(夕暮れ泣き)の研究について教えてください。
新屋 コリックは、睡眠の問題と関係していることはわかっているのですが、はっきりとした原因は不明です。
ただ1~2カ月ごろは、1日の泣きの平均は2時間程度ですが、コリックで過剰に泣く子は、1日の泣きの平均時間は5時間以上になることもあり、ママやパパの育児ストレスにつながりやすいことがわかっています。また、必ずしもコリックを示す赤ちゃんに発達の問題があるわけではないようです。
――赤ちゃんの泣きで、ほかにわかっていることはありますか。
新屋 赤ちゃんの泣きと言語発達の関係性についても研究が進んでいます。ある研究では、ドイツ語とフランス語を母語とする両親から生まれ新生児を対象に、泣き声のメロディーの特性を調べたところ、ドイツ語圏の新生児では、フランス語圏の新生児よりも、泣き声のアクセントが前側にくる傾向があることが明らかになっています。また、中国語圏の新生児では、ドイツ語圏の新生児よりも泣き声の抑揚が大きいようです。そのため胎児期から、すでに母語のメロディーの特性を学習しており、新生児期から泣くことを介して言語(母語)の獲得が始まっている可能性も考えられています。
――赤ちゃんの泣きで困ったときは、どのように考えるといいのでしょうか。
新屋 私の第3子もちょうど1カ月なのでよく泣く時期なのですが、泣きで困ったときは、“今はよく泣く時期”だと割りきって、まずはしっかりとかかわるようにしています。
赤ちゃんはママやパパを苦しめようとして、泣いているわけではありません。とくに低月齢のうちはよく泣き、何をしても泣きやまないことが多々あります。しかし赤ちゃんは泣くことを通して、ママやパパに抱っこされたり、「〇〇ちゃん、どうしたの?」と優しく声をかけてもらうことの心地よさや、親とコミュニケーションをとる楽しさを学んでいるのです。
一方で、夜泣きなど、赤ちゃんが泣く原因がはっきりしない場合には、すぐにあやさずに、たとえば5分程度など、様子を見守ることも大切です。近年の研究から、親が適切な範囲で泣きをほうっておくことは、必ずしも後の愛着形成や問題行動と関係せず、むしろ赤ちゃんが泣く頻度の低下につながることもわかっています。もちろん過度な放置は厳禁ですが、赤ちゃんの様子を見守りながら、自身の力で泣きやむ余地を少しずつ与えていくことも、子どもの良好な発達を促すうえで大切な視点だと思います。
取材・文/麻生珠恵、ひよこクラブ編集部
疲れていたり、忙しかったりするとき赤ちゃんに泣かれるとイライラするというママやパパもいると思います。しかし赤ちゃんは、泣くことを通して、ママやパパとコミュニケーションをとろうとしています。新屋先生は「大切なのは泣きやませることでなく、赤ちゃんの気持ちに寄り添いながら、親も一緒に成長していくこと」と言います。
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