小児救命救急センター24時【有熱性(ゆうねつせい)けいれん)】
体を突っ張ってビクンビクンとなり、唇は紫色で目がつり上がっていました
「10カ月の女の子がけいれんを3回起こしたと救急コールがありました。発熱は39度あり、熱性(ねつせい)けいれんのようです」と救急救命士から連絡があった。私は「熱性けいれんで3回はおかしいな......」と考えながら、救急室に急いだ。
母親に抱かれて降りてきた女の子は意外とケロッとした表情で顔色もよかった。しかし、診察で寝かせたり、起こしたりしていると不機嫌になった。手足をよく見てみると小さな発疹(水疱疹(すいほうしん))が2~3個ずつ点在していた。「保育園で手足口病(てあしくちびょう)ははやっていませんか」と母親に尋ねると、「数日前に保育士さんから"手足口病の子がいたので注意してください"と言われました」と教えてくれた。けいれん後の意識回復は良好であるが、高熱と複数回のけいれん、頭を動かすと嫌がることなどから、点滴と採血検査に加えて髄液検査を行う可能性があることを研修医に指示して処置をお願いした。
母親の話では3日前の昼から発熱があり、少し食欲が落ちていたが元気はあったという。「夕方、かかりつけ医を受診して"夏風邪(なつかぜ)かな"と言われ、内服薬を処方されました。おととい、昨日は熱は高くなるも解熱薬で下がり、せき込みなどはないので風邪だろうなと思っていたんです。でも、今朝体温を測ると39.5度あり、手足を震わせてちょっと顔色が悪い気がしました。すぐに治まったのでそのまま様子を見ていると、2時間後には体を突っ張り、ビクンビクンとなって目はつり上がり唇が紫色になって、近所のかかりつけ医に走ったんです!」
小児科を受診後、自宅で3回目のけいれんが!
「小児科に着いたときには体の突っ張りが取れて泣いている状態で、ちゃんと私のこともわかっていました。時間的には5分はなかったはずです。先生は“熱性けいれんかな。朝のけいれんは熱が急に高くなるときに見られる悪寒戦慄(おかんせんりつ)だったかもね”と言い、けいれん止めの坐薬(ざやく)を入れてもらって、8時間後に念のためにもう1回入れておくように言われて家に帰りました。帰宅後も熱が高く、なんとなく物音などにビクビクする感じで“いつもと違うな”と感じていました。次の坐薬の時間が近づいたので準備していたら、またけいれんが! かかりつけ医は閉まっている時間でしたので、あわてて119番に電話をしました」
と母親は話した。私は、
「発熱して36時間経てからけいれんが起こっていること、1日に3回も起こっていることから、通常の熱性けいれんではなく髄膜炎(ずいまくえん)など中枢神経感染症(ちゅうすうしんけいかんせんしょう)に伴う有熱性けいれんの可能性もあるので、髄液検査を行う必要があります」と説明し、検査を行った。
血液検査では大きな異常はなかったが、髄液検査では髄液白血球の細胞数の増加が確認できた。いわゆる手足口病による髄膜炎の状態であった。けいれんを繰り返していることから、脳炎(のうえん)ではないことを確認するためにも入院観察が必要であることを説明し、納得してもらった。そして入院中、母親にいわゆる熱性けいれんの特徴(※参照)を説明して、それとの違いをよく納得してもらった。
【有熱性(ゆうねつせいけいれん)とは?※】
発熱時のけいれんを「有熱性けいれん」と言い、中でも1~5才児に多いのが「熱性けいれん」です。多くが発熱24時間以内に左右対称で起こって5分以内には自然消失し、1日に何回も起こることはありません。なお、発熱3日目以降に起こる場合は、中枢神経感染症の合併症の可能性があります。
■監修:(故)市川光太郎先生
北九州市立八幡病院救命救急センター・小児救急センター院長。小児科専門医。日本小児救急医学会名誉理事長。長年、救急医療の現場に携わり、子どもたちの成長を見守っていらっしゃいます。
【市川先生から…】
発熱24時間以内に起こることが多い熱性けいれんは体質的な要素が強く、親やきょうだいに既往歴がある場合には発症の確率が高まります。発熱して数日後に起こるけいれんは、髄膜炎や脳炎などほかの病気に伴う症状と考え、早めに受診を。
イラスト/にしださとこ
【お知らせ】
市川先生が、赤ちゃんがかかりやすい病気や起きやすい事故、けがの予防法の提案と治療法の解説、現代の家族が抱える問題点についてアドバイスしてくださった「救命救急センター24時」は、雑誌『ひよこクラブ』で17年間212回続いた人気連載でした。2018年10月市川光太郎先生がご逝去され、連載は終了となりました。市川先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます(構成・ひよこクラブ編集部)。
※この記事は「たまひよコラム」で過去に公開されたものです。