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「男の子は〇〇したらダメ」は時代錯誤だったと反省。ジェンダー、性教育・・・今の子育てに思うこと【直木賞作家・窪美澄】

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『夜に星を放つ』(文藝春秋)で第167回直木賞を受賞した、作家の窪美澄さん(56)。2009年、40代で作家デビューした窪さんは、子育てをしながら「たまごクラブ」「ひよこクラブ」のライターとしても活躍していました。ライター時代に女性の妊娠や出産についての記事を多く手がけてきた窪さんに、ジェンダーや性教育、最近の子育て状況に感じることなどについて話を聞きました。

ジェンダーや性教育は親がまず考え、正しい情報を伝えるべき

――窪さんの作品には社会的性差(ジェンダー)についての視点がちりばめられていると感じますが、ジェンダーについての考えを教えてください。

窪さん(以下敬称略) 私の息子はもう社会人になっていますが、自分の子育てを振り返ると、彼が小さいころ「男の子だから○○したらダメだよ」って言ったこともあって、時代錯誤だったと反省しています。男性はこうすべきとか、女性はこうあるべきっていう固定観念はなるべく少ないほうが、自分も自分にかかわる人も生きやすい人生になるのではないかと思います。

最近のママやパパはそんなことないかもしれないけど、もし「男の子だから」「女の子だから」という言葉が出そうになったら、唇の内側でちょっと言葉をとめて、「男の子だから」「女の子だから」と言おうとしている、その正体を考えてみるアクションが親として必要なんじゃないかな、と思います。

「男の子だから泣いちゃダメ」って、一体なんでそう思っているんだろう、とか。親自身にも、自分の親に言われたとか、学校で言われたとか、何か刷り込みがあるはずです。その原因を突き止めて、考えてみてから子どもに接してみることも大事だと思います。

――性についてテーマにしている作品も多いですが、最近注目されている幼児期からの性教育についてどう思いますか?

窪 幼児期からの性教育のことは詳しくはわかりませんが、思春期前に自分の体を大事にすることを知識として教えるのはとても大切ですよね。性犯罪から子どもを守るために、プライベートゾーンの話をしておくことはとくに大事だと思います。そして、性の話をタブーにせず、思春期前に、家庭でそういう話ができる環境を作っておくこと。家の中では口に出しても大丈夫と、子どもが安心できる環境を作っておくと、思春期の心配事があったときも相談しやすくなるのかなと思います。

――息子さんへの性教育などは何かされていましたか?

窪 具体的に何か話した記憶はないですね。「たまごクラブ」「ひよこクラブ」のライターという仕事上、私の部屋には産婦人科に関する本や資料があったのですが、もしかしたら思春期に興味を持ったときに、そういった書籍を見たことはあったかもしれません。だから、女性の体のしくみなどに関して間違った情報に触れたことはあんまりなかったのでは。
今は子どももインターネットの情報にアクセスしやすい時代ですし、ネット上で誤った性情報やわいせつな動画などをいきなり目にするのは危険な側面が強いと思うので、子どもには正しい情報を教えてあげてほしいと思います。

産むこと、産まないこと、どちらの人生を選んでもいい

――高齢出産の増加や、出生率の低下、不妊治療助成などのニュースを多く目にする現在の妊娠・出産の状況についてどう感じていますか?

窪 子どもを産みたいと思っているのであれば、自分が納得するまで不妊治療などをやってみればいいと思います。そのためには公的なケアやサポートの整備はもっと必要だと思いますが、ただ妊娠・出産は、それだけじゃなく、経済的な面とか、年齢の問題とか、心身が健康であることとか、いろんな問題が絡まってくることです。すべての女性が女性だからといって子どもを持つべきだとも思っていません。

子どもが欲しいと思ってトライしてみたけどできなかった人に対しても、それはあなたにとって失点ではない、と伝えたいです。経済状況や年齢や心身の健康などを配慮して、産まない選択もあってしかるべきで、それは全然恥ずべきものではないです。

コロナ禍で子どもを育てるママやパパへのエール

――今回の作品では、コロナ禍のことについても書かれています。コロナ禍の妊婦やママたちの心、マスク生活を送る子どもたちの成長についてはどう考えますか?

窪 マスクをしている生活が当然になっていることが、ママやパパや子どもの生活、とくに体と心に影響を及ぼさないわけはないと思っています。ただ、どういう影響を及ぼすかというのは未知数なので、怖さを感じています。子どもたちは、周囲の人がみんなマスクをしている姿が当たり前に育っていくわけですよね。
口元が見えないこと、口の動きが少なくなること、意思表示のしかた、そういう面で子どもの成長に影響が出てしまうのではないかと、心配しています。

――今、子育て真っ最中のたまひよ読者に、メッセージをお願いします。

窪 今の子育ては情報が多過ぎて、いろいろ迷う人が多いと思います。しかもその情報が本当に正しいかどうか、精査をすることも難しいですよね。ただ、いくら有益な情報であっても、ママ自身を追いつめたり、子どもや家族を追いつめてしまう情報からはいったん身を引いたほうがいいと思います。

私もそうでしたが、子育て中はどうしても近視眼的になって、なんでミルクを飲まないんだろう、なんでおむつがはずれないんだろう、とか、ほかの子と比べて歩くのが遅いんだろうとか、思いつめてしまうことがありますよね。1つのできごとや情報にとらわれてしまうことがあると思います。

もちろん赤ちゃんが体調が悪いときは素早く対応することが必要ですけど、赤ちゃんがちょっと機嫌が悪いかな…というくらいなら、少しくらいは様子を見てもいいと思います。あまりこまかな情報に振り回されすぎず、少し長い目で見て、赤ちゃんの成長を見守ってほしいと思います。

お話/窪美澄さん、写真提供/文藝春秋 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部

自身の体験や、さまざまな妊産婦を取材してきた経験があるからこそ、妊娠・出産・子育てへのどんな選択肢も肯定的に受け止め、応援する窪さんのあたたかな思いが感じられます。

●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

窪美澄さん(くぼみすみ)

PROFILE
1965年東京都生まれ。フリーランスの編集ライターとして、女性の健康を主なテーマに書籍、雑誌等で活動。2009年『ミクマリ』で女による女のためのR-18文学賞大賞を受賞。受賞作を収録した『ふがいない僕は空を見た』で11年、山本周五郎賞受賞。12年『晴天の迷いクジラ』で山田風太郎賞、19年『トリニティ』で織田作之助賞を受賞。ほか、『水やりはいつも深夜だけど』『いる いない みらい』『朔が満ちる』など著書多数。

夜に星を放つ

かけがえのない人間関係を失い傷ついた者たちが、再び誰かと心を通わせることができるのかを問いかける短編集。第167回直木賞受賞作。窪美澄著/1540円(文藝春秋)

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