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「みんなと同じになれた!」子どもの生きづらさを救う医師に、小耳症治療の今後について聞く【専門医】

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5000〜6000人に1人に発症するといわれる耳の形の先天性形成不全「小耳症」。耳の穴がふさがっていたり、耳の軟骨部分がなく耳たぶだけ見られるような、小さい耳が特徴で、発症の原因は不明とされています。小耳症治療のスペシャリストである札幌医科大学医学部 形成外科の四ッ柳高敏先生にどんな治療をするかについて話を聞きました。
(上の写真は右耳小耳症の手術後、補聴器やマスク、眼鏡がかけられるようになった11才の女の子の様子)

耳の形だけでなく、親子の心に寄り添う治療が大切

――四ッ柳先生が小耳症治療に取り組み始めたのはどんなことがきっかけだったのでしょうか?

四ッ柳先生(以下敬称略) 医学部5年生のときに、たまたま小耳症の外科手術を見学したのがきっかけです。初めて小耳症を知り、人が耳を作る技術があることに衝撃を受け、自分はこれをやりたいと思って形成外科を選択しました。そのときは単純に手術そのものに対する情熱でしたが、実際に手がけてみてその手術の難しさを知るとともに、単に耳を治すだけが治療ではないと気づきました。

小耳症を抱えてきた本人だけでなく家族の気持ちを受け止めることがとても重要です。小耳症を持って生まれた子どもを心配する親の気持ちのケア、手術に向かう子ども本人の不安へのケアも同時に行う必要があると考え、初診時に時間をかけて説明することや、入院している子どもとなるべく楽しく話す機会を持つこと、手術前や退院後もメールで直接私に相談できるようにしたり、情報発信のためHPを立ち上げるなど、メンタル面のケアを、かなり力を入れて行うようになりました。

――小耳症を持つ人、小耳症の子を持つ親が、困っていること、生きづらさを感じていることはどのようなことでしょうか。

四ッ柳 小耳症の耳は外耳道の異常や中耳の機能低下により聴力の低下が見られるため聞こえに関しての不自由さ、また耳が小さいために眼鏡やマスクなどがつけられないという機能的な面での不便さはもちろんあります。さらに、見た目の重要性は周囲が思っている以上に本人に大きな影響(コンプレックス)を与えています。日本では、見た目より心が大事、という価値観もありますが、私は外見も大事だと思います。

小耳症の子どもたちは、日常の何気ない動作でも常に気を抜けないストレスを抱えています。たとえば髪の毛を伸ばしている女の子なら風で髪がふわっとなびくたびに「はっ」とするんだそうです。また、物心ついたときから自分の耳はほかの人と違う、とずっと意識しているのだと思います。手術をした子どもたちが共通して言うのは「やっとみんなと同じになれた!」という言葉です。この言葉がすべてかな、と思います。

小耳症治療は肋軟骨移植が基本

採取した肋軟骨で耳の形のフレームを作る

――日本では耳介形成手術では肋軟骨移植の方法が主流なのでしょうか。

四ッ柳 世界的に見ても、耳介形成は肋軟骨移植の方法が基本になっています。肋軟骨移植は、小耳症患者の肋軟骨(ろくなんこつ:肋骨と胸骨をつなぐ軟骨)を採取して、その軟骨で耳の形のフレームを作り、耳を作る位置の皮膚を切開して、フレームを埋め込む手術です。半年後以降に耳を持ち上げる手術をします。この2回の手術によって、パッと見て一般的な耳とほとんど同じような形の耳を作ることができます。中高生の時期に手術するのが望ましいですが、学校などの関係もあり、当院では10才以降に手術を行っています。本人自身の組織で作った耳は、血が通っていて、知覚もあり、けがをしても治すことが可能です。

過去には人工物のシリコンを耳の形にして皮膚に埋め込む方法や、歯のインプラントのように頭の骨に器具を打ち込んで義耳を取り付ける方法、義耳をのりのようなもので皮膚に貼り付ける方法などもありましたが、埋め込んだシリコンが露出してしまったり、感染やかぶれなどのトラブルも起こりやすいのであまり現実的ではありません。

――今後、再生医療によって軟骨を採取しなくても耳が作れるような可能性はあるのでしょうか?

四ッ柳 肋軟骨を採取することによる、患者さんの体の負担を軽減するためにも、再生医療が現実化していけばいいなという思いはあります。2016年に「iPS細胞によって耳介軟骨を作ることに成功、5年後に小耳症に対しての臨床応用を目指す」というニュースが新聞に出ていましたが、現状は進んでいないようです。また以前から軟骨細胞を培養して大きく育てるという研究はされていますが、十分な大きさが得られない、移植後に吸収されてしまう、などの問題が山積していて、成果が上がっていないのが現状です。

一方、現在近畿大と共同研究していて、この1〜2年以内に臨床研究できそうなところまで進んでいるものがあります。これは耳型にした吸収性の医療材料に、少量採取し微細に切断した軟骨を噴霧、同時に軟骨の再生を促す薬剤も投与したものを、皮膚の下に移植するというものです。
すると噴霧した軟骨がその耳型の表面で再生し、いずれ人工物が吸収されても耳型の軟骨が残る、という方法です。ただ、長期経過でトラブルがないかも診ていく必要がありますし、試行錯誤は続くと思いますので、即次の医療として定着していくかは未知の部分が多いです。

小耳症を多く手がける医師の不足、後継者の課題

――小耳症治療についての今後の課題はありますか?

四ッ柳 まず1つめはより自然な耳にするため、クオリティーを上げることです。今私が作っている耳は、少なくともパッと見て気づかないくらいのものは作れるようになりました。ただ、肋軟骨を使用している限り、一生形を保つためには少し厚みを持たせる必要があり、耳の厚みやかたさを少しでも実物の耳に近づけるようにしていきたいと思っています。また、肋軟骨を取ったあとの術直後の胸の痛みなど患者さんの苦痛をどれだけ減らせるかという課題はあります。

もう1つは、形成外科の中でも小耳症は最も難しい手術の1つといわれていて、現時点で小耳症を専門的に手がけている医師がほかにおらず、当院で組める手術件数の限界を超えており、対応に苦慮しています。

――後継者の育成はしていますか?

四ッ柳 当院が主催する日本耳介再建学会では、耳の治療に興味を持つ医師たちが高い技術を獲得していくことを目的として、ライブサージャリーといって手術の過程を生中継で見学してもらうことや、難しい症例を相談しあう症例検討会、耳の軟骨フレームの立体感をにんじんを削って勉強してもらうハンズオンセミナーなどを行っています。

耳介形成の知識や技術を教えることはできるけれど、本人が実際に執刀して覚えるしかないところが、育成の非常に難しいところです。ただ、全国から少しずつ、見学や研修に来てくれる先生がいるので、今後頼もしい存在になってくれることを期待しています。

将来的には、耳鼻科医と連携した総合的な小耳症の治療法を提示すること、再生医療も含めた患者に負担の少ない治療方法の開発、後継者の育成などを可能にする、小耳症治療のセンター化を目標にしたいと考えています。

小耳症とわかったら、あわてず情報を集め、知識をつけてほしい

――これまでの患者さんで印象に残っているケースはありますか?

四ッ柳 私が耳を作ってあげた子で、形成外科医を目指して勉強中の子が何人かいます。今、初期研修中のAくんは、札幌医大に入学したときに「ぼくは形成外科医になるためにきました」とうれしいことを言ってくれました。
小耳症患者として手術を経験した彼らが、知識をつけて技術を身につけてくれたら、患者さんの気持ちもよくわかる医師になれるはずです。彼らが力をつけるまでは、私もなんとか頑張って続けたいと思っています。

――小耳症の子を持つママやパパにメッセージをお願いします。

四ッ柳 小耳症の赤ちゃんに対して、もちろん聴力などは検査する必要がありますが、耳の外見についてはすぐに何かすべき治療があるわけではありません。今は札幌医大のHPをはじめとして、インターネットでも情報を獲得できる場がありますから、まずは小耳症について勉強して、知識をつけてほしいと思います。

小耳症だからといって、ほかの子どもと大きく違うものではありません。耳がちょっと小さいだけ。言ってしまえば、それも個性です。「かわいい耳だね」と言って愛情をかけて育ててください。時期さえ待てば、すてきな耳を作ることができます。

取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部

お話・監修・画像提供/四ッ柳高敏先生

四ッ柳先生は1年におよそ200件もの小耳症手術を行いながらも、毎日病室の子どもたちのもとを訪れ、雑談をしながら術後の処置をしてあげるのだとか。笑顔でコミュニケーションを取りながらの処置の時間は、子どもにとっても楽しい時間となり、心のケアにつながっているのだそうです。

●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

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