専門家も驚き!紙おむつで赤ちゃんの歩行に影響が。吸水後の紙おむつと歩き方の関係を検証
乳幼児の紙おむつは吸収力に優れ、おしっこをしてもサラサラ快適に使えるものが多いです。そのため替えどきに悩むママやパパもいるのはないでしょうか。しかし“吸水後の紙おむつは、子どもの歩行に影響を与える”という報告があります。
調査を行った、花王 サニタリー研究所 研究室長・奥田泰之さん、研究員・露木智咲さんに検証内容や結果について聞きました。今回の研究成果は、日本赤ちゃん学会第21回学術集会(2021年6月11~13日・オンライン開催)で発表されています。
3タイプのパンツ型紙おむつを着用し、 モーションキャプチャ技術で歩行を検証
花王サニタリー研究所では、2010年ごろから幼児のすこやかな心と体の発達をモニタリングするために歩行の研究を開始。最近の研究では、幼児の成長に伴う歩き方の変化を調査し、幼児の歩行発達メカニズムを明らかにしてきました。
歩行の研究は海外でも実施しており、2019年8~9月には、中国上海で「吸水後の紙おむつが幼児の歩き方に与える影響」について調査しています。調査に参加したのは、18~20カ月の上海在住の幼児26名。体重は9~14kgで、1人で歩ける子どもたちです。
「調査は、人や物の動きをデジタルデータで記録するモーションキャプチャ技術を用いて行いました。子どもには、反射マーカをつま先、かかと、太もも、ひざ、ひじ、手首、頭など全身に32点つけて、6歩以上歩いてもらい、その様子を“VICON”という赤外線カメラ16台で撮影。歩行中、両足がすれ違うときの股関節角度などを測定しました」(露木さん)
調査では、3タイプのパンツ型紙おむつを着用してもらっています。
「おむつAは、おしっこをしていないもの。
おむつA+は、おむつAにおしっこを想定した生理食塩水160gを吸水させたもの。
おむつB+は、おむつBにおしっこを想定した生理食塩水160gを吸水させたもの。すべてパンツ型のLサイズです。
生理食塩水160gとは、このくらいの月齢の子どものおしっこ3~4回分にあたります」(露木さん)
カギは内ももへの圧力。おしっこ3~4回分で、重心が左右に揺れて歩行が不安定に
調査の結果、わかったことはおしっこの吸収によって歩き方に違いが出るということでした。
「歩行時、股関節が外側に開く角度を測定したところ、おしっこをしていない紙おむつAは約8度でしたが、おしっこ3~4回分を吸収しているA+は約9.5度、B+は約11度でした。股関節が外側に開くことで、重心が左右に揺れやすくなり、歩行は不安定になります」(露木さん)
紙おむつ着用時の股関節の角度の違い(左右の足がすれ違うとき)

股関節が外側に開く要因は、おしっこで紙おむつがふくらむことによって生じる内ももを外に押し出そうとする圧力です。
「おしっこをたっぷり吸収すると、パンツ型紙おむつの股部分がふくらみますが、そのふくらみによって股関節が外側に開くこともわかりました。
可動式の実験用の人形に、前述の3タイプのパンツ型紙おむつを着用し、歩行時、左右の足がすれ違うときの内ももに加わる圧力を接触圧測定器で測定しました。
その結果、おしっこをしていない紙おむつAと比較すると、A+は約4倍、B+は約8倍もの外に押し出そうとする圧力が内ももにかかっていました。
A+とB+はどちらも市販の紙おむつですが、吸水材などの構造に違いがあります。紙おむつによって2倍もの差があるので、ママやパパにはおむつ選びの大切さを、改めて認識してもらえるとうれしく思います。また、たっぷりおしっこをして、おむつの股の部分が膨らんでいるときは、赤ちゃんは歩きにくくなっているかもしれません。動きにくくないか、家庭でも気にしていただきたいです」(露木さん)
今回は、パンツ型紙おむつによる調査ですが、テープ型でも同じことが言えるのでしょうか。
「テープ型は、テープの締めつけ具合などによって結果に誤差が生じやすいので、今回の調査には用いませんでしたが、テープ型でもおしっこをたっぷりすると紙おむつがふくらみ、内ももに圧力が加わるので同じことが言えると思います」(露木さん)
1~2歳の子が1日で歩く歩数は、大人と同程度かそれ以上! 歩きやすさを重視して
最近の紙おむつは、品質がよく、吸収力に優れていて、長時間替えなくても、よほどのことがないともれたりはしないでしょう。しかし、たっぷりおしっこを吸収したおむつを着用したままの赤ちゃんは、自然な歩きを妨げられていることが今回の調査でわかりました。
「おむつ替えは、快適性や肌トラブルを防ぐために行いますが、乳幼児の成長・発達の面からも歩きやすい・動きやすいかどうかという視点も持ってほしいと思います。
花王サニタリー研究所が行った2010年ごろの調査では、1~2歳の子が1日で歩く歩数は、大人と同程度かそれ以上ということがわかっています。なかには2倍近く歩くケースもありました。
子どもは歩き始めると、ますます好奇心旺盛になります。心も体もぐんぐん成長する時期に、おむつ交換のタイミングを見直して、快適に歩けるようにしてあげてほしいと思います」(奥田さん)
お話・監修・写真・図版提供/花王 取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部
今回の調査は、小児科医などの専門家からも指導・協力を得ていますが、先生方からは「紙おむつだけで、ここまで歩行に影響が出るとは思わなかった」という意見があったそうです。また、歩行の発達がまだ未熟なときに、歩き方が変わり重心が不安定になると転倒につながる可能性もあるので、そうしたリスクを減らすためにも、自然な歩き方ができるようにしてあげることがいいのではないかと考えられます。
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