正しい情報にアップデートしよう! 専門医が妊婦、小児の新型コロナの最新エビデンスを解説【国立成育医療研究センター】
新型コロナウイルス感染症に関する情報はとても多いのですが、なかには誤った情報も。またママやパパのなかで情報のアップデートがされていないこともあるのではないでしょうか。そこで国立成育医療研究センターでは、2022年10月13日「子どもと妊婦さんのための新型コロナウイルス感染症市民公開講座」をオンラインで開催。1時間半にわたり、最新のエビデンスに基づき、予防や注意点などをわかりやすく解説しました。講演内容の一部をリポートします。
オミクロン株では発熱、嘔吐、熱性けいれんを伴う子が増加
総合診療部統括部長 窪田満先生は「子どもの新型コロナウイルス感染症」について解説しました。
窪田先生は「以前は、新型コロナウイルス感染症(以下・新型コロナ)は、小児が感染しても無症状もしくは軽い風邪程度といわれていましたが、オミクロン株の流行からは、小児でも軽症とはいえない」と言います。
国立成育医療研究センターは、東京都の要請に応じて、小児の新型コロナ診療の中核を担っており、重症の子だけではなく、軽症、中等症の子も診療しています。
「2021年8月ごろからデルタ株が流行しましたが、現在、流行しているオミクロン株とは小児の症状にだいぶ違いがあります。
基礎疾患がない小児の患者さんを比較すると、デルタ株はせき、鼻水、味覚障害を伴う子が多かったのですが、オミクロン株は発熱、嘔吐、熱性けいれんを伴う子が多いです。国立成育医療研究センターの調べでは、オミクロン株で味覚障害を伴う子はゼロでした」(窪田先生)
新型コロナで重症化した2人の子の症例
オミクロン株の特徴は、小児でも重症化することです。とくに基礎疾患がある子は注意が必要です。窪田先生は、染色体異常をもち、新型コロナに感染し、国立成育医療研究センターに入院した子の症例を紹介しました。この子は、残念ながら亡くなっています。
【症例1 染色体異常の基礎疾患あり】
家族が新型コロナに感染。
どろ状の便、10回以上の嘔吐のあと、全身性のけいれんが続き、救急車で国立成育医療研究センターを受診しました。受診時の検査で新型コロナに感染していることが判明しました。そしてあれよあれよという間に意識レベルが低下し、呼吸状態が悪化しました。ICU(集中治療室)でステロイド投与や脳のむくみの治療などを行いましたが、数日後に亡くなりました。
また、もう1人の症例は基礎疾患がない子です。この子は、川崎病に似た症状の小児COVID-19関連多系統炎症性症候群(以下MIS-C/ミスシー)と診断されました。
【症例2 基礎疾患なし MIS-C】
数週間前に新型コロナに感染。入院5日前から発熱し、左頸部のリンパ節の腫れ、腹痛、異常言動があり、国立成育医療研究センターに入院しました。両目の充血、頬の紅斑、唇のはれ、いちご状舌のほか、興奮状態で異常言動がありました。心臓超音波検査では、心臓に血液を送る血管の左冠動脈に小さな動脈瘤が確認されました。川崎病の治療に準じて免疫グロブリン療法などを行いましたが熱は下がりませんでした。その後、頭部MRI検査で、脳梁膨大部の病変を認め、脳炎・脳症と診断し、ステロイドによる治療を行ったところ解熱し、2週間後に症状が改善して、退院しました。
「この子は、最終診断はMIS-Cです。MIS-Cは、小児にまれに診られる疾患で、新型コロナ感染後2~6週で発症するので注意が必要です。
紹介した症例のようにオミクロン株に置き換わってから、重症化する小児が増えています。基礎疾患がない子でも、新型コロナワクチンの接種をして、重症化予防をすることが必要です。
また新型コロナで入院すると、子どもでも隔離入院が必要で、親のつき添いはできません。医療スタッフは防護服を着ているため、怖がって泣いたり、退院後、夜泣きがひどくなった子もいます。入院している子どものことが心配で不眠症になったママもいて、親子のメンタルヘルスケアの問題も課題になっています。
“新型コロナに感染しても、基礎疾患がない子は軽症だから大丈夫”とは考えないでほしいです」(窪田先生)
妊婦さんの新型コロナ中等症Ⅱ以上は、すべてワクチン未接種という調査結果も
妊婦さんの新型コロナ情報は、「妊婦さんの新型コロナウイルス感染症」と題して周産期・母性診療センター 母性内科 診療部長 金子佳代子先生が解説しました。オミクロン株の流行以降、国立成育医療研究センターでも妊婦さんの新型コロナ感染による入院、受診の割合が増えています。
「妊娠中は、新型コロナに感染しても持病がない場合は、経過は同年代の妊娠していない女性と変わらないとされています。
ただし妊娠後期の感染には注意が必要です。早産の割合が増えたり、重症化の報告もあります。とくに高年齢での妊娠、肥満、高血圧、糖尿病などがある妊婦さんは、新型コロナの重症化と関連する報告があるので注意してください。
マスクの着用、手洗い、手指消毒など一般的な感染対策をしたうえで、新型コロナワクチンを接種しましょう。
日本産科婦人科学会の調査では、2022年5月までに登録された新型コロナ陽性の妊婦さんにおいて、中等症Ⅱ以上の方は、すべてワクチン未接種でした。
また接種後、出血、胎動減少、血圧上昇、破水のような重大な症状があったのは1%以下です」(金子先生)
また新型コロナに感染したとき心配なのは、おなかの赤ちゃんへの影響です。
「新型コロナに感染したとき、胎盤を介した赤ちゃんへの感染はまれと考えられています。妊娠初期、中期に新型コロナに感染しても、ウイルスが原因で赤ちゃんに先天異常が引き起こされる可能性も低いです」(金子先生)
当日は、参加者からの質問に先生方が答える時間も設けられましたが、妊婦さんからは「もうすぐ出産ですが、今から注意することを教えてください」という質問がありました。
「出産は、急なアクシデントがつきものです。もし新型コロナに感染した場合は、すみやかにかかりつけの産科に伝えてください。
また感染していなくても、万一の場合に備えて、担当医に感染したときの医療体制について確認しておくと安心です」(金子先生)
また小児では「新型コロナに感染した場合、小児の後遺症外来はありますか?」という質問が。
窪田先生は「新型コロナの後遺症は、味覚障害のように今までなかった症状が急に現れることが特徴です。ただし子どもの新型コロナの後遺症は診断が難しいため、まずはかかりつけの小児科で相談してください」と答えていました。
お話・監修/窪田満先生、金子佳代子先生 協力/国立成育医療研究センター 取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部
国立成育医療研究センターでは、ママ・パパ向けに、専門医が正しい情報や最新のエビデンスをわかりやすく解説するオンライン講座を今後も行っていく予定です。オンライン講座の開催は、公式HP「お知らせ」で告知されるので、興味のあるママ・パパはチェックしてください。今回の市民公開講座は、アーカイブ配信でご覧いただけます。
●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
窪田 満先生(くぼたみつる)
PROFILE
国立成育医療研究センター 総合診療部統括部長。医学博士。北海道大学医学部医学科卒。専門は、小児科、小児総合診療(成人移行支援、小児在宅医療など)、先天性代謝異常症・マススクリーニング、小児消化器疾患。
金子佳代子先生(かねこかよこ)
PROFILE
国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター 母性内科診療部長。医学博士。信州大学医学部卒。専門は、膠原病・リウマチ内科学(主に膠原病・リウマチ性疾患合併妊娠)、母性内科学。