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「ずっと独身がいい」と思っていた僕が、父になり1年の育休を取って感じていること【作家 岡田悠】

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生後2カ月。授乳のときに自分の顔を引っかいてしまうので、ミトンを着けていたそう。(『1歳の君とバナナへ』より イラスト/岡田アミさん)

会社員として働きながら、旅行記を中心に作家としても活躍し、先日初の育児エッセイ『1歳の君とバナナへ』が発売となった岡田悠さん。「20代のころは全然結婚するつもりはなかった」という岡田さんが、妻・アミさんと出会い、赤ちゃんを授かり、約1年の育休を取得して感じたことや、男性の育休取得について考えることなどについて話を聞きました。

「自分の時間は、全部自分のことに使いたい」そんな僕が・・・

――子どもができる前はどんな人生プランを考えていましたか?

岡田さん(以下敬称略) 僕は20代のころはずっと1人でいることが好きで、1人旅が好きで、10年以上1人暮らしをしていて、ずっと独身がいいと思っていました。だれかと一緒に住むのも、旅行に行くのも、自分には無理だと思っていました。自分の時間は全部自分のことに使いたいし、だれかに自分の人生が影響されるのも嫌だな、って。だけど、30才になる少し前に妻とつき合い始めて、だれかと過ごしてみるのも面白いかもな・・・と思うようになったんです。

妻はずっと大学院で川やダムや土木系の研究をしていて、川に関する知識がすごいんです。一緒に自然の中に出かけて川があると「あの川の花こう岩はこれこれで・・・」と話し始める人で、彼女のそういう視点はそれまでの僕にはないものでした。だれかと一緒に過ごすと自分の枠を超えて面白いものが見つかることがある、という考えに変わってきて、それでちょっと結婚してみようかな、と思いました。

――結婚後にアミさんと、いつごろに子どもを持ちたいというような話はしていましたか?

岡田 僕たちは、年に2〜3回「経営会議」と称して、会議室を借りてホワイトボードにまとめながら会議をしていたんです。その会議で家庭のライフプランを考える中で、33〜34才くらいに子どもが欲しいね、それなら育休も取ろう、と話していました。そこから逆算して、どのくらいの時期に仕事に区切りをつけたほうがいいね、ということも話していました。

上司に「取りたいだけ取ったほうがいい」と言われ1年間の育休を取得

岡田家「経営会議」の際のホワイトボードのメモ。決まった内容はGoogle Docsにまとめて夫婦で共有するのだとか。

――その後、妊娠がわかったのはいつでしょうか?どんな気持ちでしたか?

岡田 2020年4月に結婚式を予定していたんですが、コロナ禍で中止することになってしまったので、友人たちがZoom結婚式を開いてくれました。そのZoom結婚式が終わった夜、おふろ上がりに妻から妊娠していると言われました。予定では子どもはもう少しあと、と思っていたのと、その時期は完全に結婚式のことで頭がいっぱいだったので、予想外の報告にパニックでした。

映画なんかでは妊娠がわかったら喜んで妻を抱きしめたりするけど、そんなふうにしたほうがいいのかな、なんて考えながら、それもしないままにそわそわしてなかなかち着かなくて・・・。しばらくして落ち着いても、「親になる」という実感はなかなかわきませんでした。

――アミさんの妊娠がわかったあと、会社に育休を申請したのはいつごろですか?

岡田 妊娠がわかったのが4月で5月ごろから上司に相談をし、取得するのが決まったのは6月ごろだったと思います。出産予定日が12月だったから、取得の約半年前に決まりました。

育休の期間について、上司には始め「最低3カ月は取りたい」と話しました。本当は1年取りたかったけれど、当時は会社で育休を取る男性は1カ月くらいのことが多かったのもあって少し心配だったからです。それで上司と相談する中で、当時僕は新商品を出すプロジェクトリーダーをやっていたため、もし3カ月以上育休を取るなら引き継ぎが必要だという話になりました。上司が「どうせ仕事を引き継ぐなら取りたいだけ取ったほうがいい」と言ってくれ、何度かの話し合いで約1年の育休を取ることに決まりました。

――その上司は育休取得経験があったんでしょうか?

岡田 上司は育休を取らなかったことを後悔していたそうなんです。「自分は育休を取らなくて、子どもがどんどん成長していく様子を見られなかったから、取りたいなら取ったほうがいいよ」と言ってくれたのも、僕が育休を1年取得する後押しになりました。

子育てにオーナーシップを持てるように

――実際に育休を取得し、アミさんとお子さんと過ごしてよかったことはどんなことですか?

岡田 妻は妊娠中に自分のおなかにいる赤ちゃんの存在を感じられていたと思うけれど、そうでない僕は親になる実感がわくまでに時間がかかりました。だから僕にとって、子どもが生まれてからの1カ月はすごく大きかったです。

妻は里帰り出産をして、産後1カ月は僕も一緒に妻の実家で過ごしましたが、その時間があったことで子どもに対してものすごく愛着がわきました。赤ちゃんとのスキンシップで愛情ホルモンのオキシトシンが出るとも聞きますが、子育てについてオーナーシップ(当事者意識)を持てるようになるし、自分ごとにできる時期になると思います。
新生児の赤ちゃんと過ごすのは、シンプルにすごく神秘的で刺激的で楽しい体験でした。毎日成長して新しい発見がある。生物ってすげえ、という感じです。

――もうすぐお子さんは2才だそうです。これまで育児をしてきた中で、とくに印象的だったことは?

岡田 いちばん感動したのは、子どもが寝返りができた瞬間を目にしたことです。寝返りができたことは、それまで自分で移動できなかった子どもが、人生で初めて自分の意思で移動ができたということ。
僕はこれまでずっと旅行記を書いてきて、人が移動することについてよく考えていました。なぜ人は移動するのか、違う場所や新しい環境や変化を求めることは人間としての本能なのか、とか・・・。そんな移動の第1歩である「寝返り」を、子どもの意思で初めてできたのは大きな転換点だ、とすごく感動しました。

「育休取得」の事例を作れば雰囲気はきっと変わる

――世のパパになる男性たちにも育休取得をおすすめしたいですか?

岡田 はい。とくに最初の1カ月はみんな絶対取ったほうがいいです。
ただ、僕の会社は育休を取りやすい環境で、育休取得によってキャリアに影響もなく、評価が悪くなるようなことは絶対ないからそう言えるのかもしれません。会社によってはそうじゃない人もいるだろうから、あまり無責任なことは言えないですけど・・・。

ただ、「いい会社だから育休が取れる」わけではなくて、男性も1年間の育休を取る権利があることは法律で決まっているし、給与は会社じゃなくて雇用保険から支払われます。大前提であるこの2つのことが知られてないですよね。僕は給与計算ソフトの開発をしているので、たまたま社会保険について知っていたんですけど・・・。このことが知られていないから、会社の規定で育休が取れないと誤解している人が少なくないです。僕の身近な同年代の友人たちにも、知らなかったり、勘違いしている人が多いです。

――まだまだ男性が育休を取得したいと言いにくい職場もあるようですね。

岡田 そうですね。法律で決められた権利だとしても、雰囲気的に取りづらいというのも事実としてあると思います。だけど実際、休んでみると意外と休めるもんですよ。「自分はリーダーだから休めなくて」と言ってる人に限って、休んだらその人がいなくても回る、という場面を何回も見ています。もしかすると自分がいなくても仕事が回ってしまうことがショックかもしれないけれど、結構休んでも大丈夫なものです。

僕自身も、育休取得より前に、プロジェクトリーダーだったときにも、めちゃくちゃ有休をしっかり取っていました。ほぼ全消化していましたが、仕事はちゃんと回っていました。
だから育休取得を言いにくい雰囲気については、「育休を取る」という事例を作れば変わってくると思います。

育休だけじゃなくてけがや病気で急にメンバーが抜けることもあるし、メンバーの1人が一定期間抜けたとしても業務が回るようにするのは経営として当然のことだと思います。

一方で、社員数名の会社は1人抜ける負担が大きい、というのはたしかにそうだと思いますし、個人事業主はそもそも育休の対象外なので、そういう人たちは社会保障の面を整備するべきなのではないかと思います。


お話・写真提供/岡田悠さん 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部

会計ソフト開発のfreee株式会社で働いているという岡田さん。「会社員が育休を取る権利は法律で決まっていることや、育休中は社会保険で給付金が支払われることがもっと広く知られてほしい」と言います。これから取得を考えている人はぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか。


●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

岡田 悠さん(おかだゆう)

PROFILE
1988年、兵庫県生まれ。会社員兼作家。旅行記を中心にさまざまな Webメディアで執筆。 著書に『0メートルの旅』(ダイヤモンド社)、『10年間飲みかけの午後の紅茶に別れを告げたい』(河出書房新社)。一児の父。好きな育児グッズは電動鼻吸い器。

『1歳の君とバナナへ』

会社員兼作家・岡田悠による育児エッセイ。1年弱の育休を取り、仕事復帰後も家庭中心の日々を送る、2020年代の父親像。わが子へ語りかける手紙の形式で紡ぐ、ユーモアと愛情に包まれた新時代のニューノーマル・育児エッセイ。岡田悠著/1694円(小学館)

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