「自分らしく生きて欲しい」息子の発達障害について、SNSで配信しつづける理由とは?『虹色の朝陽』の著者・中尾きみかさんインタビュー
3人の男の子を育てながら、YouTubeチャンネルやVoicyを運営するなど、忙しい日々を送っている、中尾きみかさん。前編では、三男である朝陽くんが自閉症スペクトラムという発達障害と診断され、ママとして悩みを抱えながらの子育てについて、またこれまでどんな支援を受けてきたのかを中心にお話を伺いました。今回は療育のことや小学校に入学する準備やサポート、さらに兄弟との関わりについて中尾さんにお聞きしました。
息子らしく生きる手立てを、療育や家庭の中で模索
――小学校に上がるタイミングは大きな節目ですよね。当時不安に思っていたことや、どんな準備をしたのか教えてください。
中尾さん:朝陽は支援学級に通っているのですが、一番心配だったのは、授業が受けられるかどうかです。そこで療育では、座って話を聞く練習から取り組みました。最初は10分からスタートして少しずつ座れる時間をのばしていったり、座っていることに飽きてしまった時の対処法を模索したりしました。
できないことを責めるのではなく、どうしたらその子なりにできるようになるかの手立てを探るようにしましたね。たとえば、飽きてしまった時に気がまぎれるように、足元に刺激物を置いたり、どうしてもじっとしていられない時はリラックスルームに行くように環境を整えるようにしました。それを、学校と療育、家庭で連携しながら進めていったんです。
あとは、登下校も不安でした。ランドセルを背負って通学路を歩いていけるように練習したり、あとは学校見学にも行ってみました。住んでいる市ではサポートブックというものがあって、幼稚園・療育・家庭でそれぞれに朝陽の特徴を書き込んで、それを小学校に提出するんです。それをもとに、小学校もサポートをしてくれます。
我が家では、朝の準備や持ち物がひと目でわかるようなボードを使っています。これで、自分だけでも朝の準備ができるように練習したりと、いろいろと工夫していましたね。
――療育に通ったことで、朝陽くんはどう成長しましたか?
中尾さん:朝陽は療育に通って、一番の変化は言葉が増えたことです。ただ、療育は障害を治す場所と勘違いしている親御さんも多いのですが、それは違っていて、その子がいかに生きやすくなるかの手立てを考えられる場所だと思うんです。最近は「オーダーメイド療育」などと言ったりもしますが、その子に合ったプログラムを考えてくれるんです。朝陽の好きなことを取り入れながら言語訓練をしたり、好きな運動を取り入れながら数字を数えたりと、療育では朝陽らしく成長できたと思います。
幼稚園だけに通っていると、みんなと同じことをしなければいけないし、できないと指摘されてしまうし、自信をなくしてしまうお子さんもいるんです。でも、療育という場所をプラスしてあげると、そこでは一から丁寧に教えてくれるので、手順に沿って動くことができます。やり方を療育で学んで、それを幼稚園で実践できれば、その子にとっての自信にもつながるのではと思います。
――小学校に上がってからは、どんなサポートを受けているのでしょうか。
中尾さん:今は放課後等デイサービスに週3回通っています。ここでは、発達障害の特性がある子たちが将来自立できるように、ソーシャルスキルを身につけることができます。たとえば、人と人との関わり方や距離感、基本的なマナー、挨拶の仕方などのサポートを学んでいます。
――ご兄弟は、朝陽くんに対してどんな風に接しているんでしょうか。
中尾さん:長男と次男にとって、朝陽がいることは何も特別なことではなく、当たり前の日常なんです。朝陽の特性は自然に理解することができているし、朝陽に対してはこうすればいいんだと自然に身につけていったという感じですね。とくに、彼らにこうして欲しいと言った記憶はあまりないです。
長男には、朝陽が支援学級に入学することをどう思うか聞いたことがあるのですが、嫌な顔ひとつせず、すごくポジティブでした。実際に登下校でサポートしてくれたり、学校での様子を教えてくれたり、とても頼もしいですね。それから、長男と次男のお友達も、朝陽に興味をもってくれて、普通に接してくれるのはありがたかったです。
私を支えてくれる、コミュニティの声も詰まった一冊に
――最後に、『虹色の朝陽』出版に関しまして、お話を聞かせてください。出版に至った経緯や、どんな内容の本になっているのでしょうか。
中尾さん:「虹色の朝陽」はYouTubeからはじまったのですが、音声配信サービス「Voicy」やブログ、マガジン、Instagramなど、さまざまなSNSで配信しています。ただし最近は、情報が少し散らばってしまっていた印象がありました。それで、出版社の方にお声がけいただいたのをきっかけに、「虹色の朝陽」の8年間の記録を1冊の本という形にまとめることにしたんです。これから同じような道をたどる人に読んでもらえたらいいなと思います。
実は最初にお話をいただいたときは、一度お断りしました。というのも、私自身が朝陽を育てる中で、育児書通りにはならないと悩まされてきたので、こうしたら育児はうまくいく、という内容なんて自分には書けないな……と思っていました。
しばらく悩みましたが、自分の体験談が誰かのヒントになればいいかなとの思いで、お引き受けすることにしたんです。もちろん、朝陽本人にもきちんと話をして決めました。それから、「虹色の朝陽」は、さまざまなSNSを通じてコミュニティ化されていることに強みがあると、出版社の方におっしゃっていただいて、それで決心がつきましたね。私の験談だけでなく、いま「虹色の朝陽」に集まってくださっているみなさんの体験談が一冊になれば、障害の特性もさまざまであり、その対応の仕方にもいろいろなパターンがあることが伝わるのではないかと思いました。
朝陽を育てたことで、私自身が学んだことがこの一冊にはたくさん詰まっています。発達障害のある子どもの子育てには、もちろん知識を得ることは非常に大切ですが、それ以外にも、同じような悩みを抱える仲間、そして子どもの特性を受け止める時間が必要なんです。この3つがあれば、子育ては何とかやっていけるのでないかと私は思っていて、それが私の本でみなさんに伝わればいいなと思います。
そしていつか、朝陽が成長してこの本を手にした時に、「自分はこんなに愛情をもって育てられたんだ」と思ってもらえたらいいなと願って書きました。またこの本は、発達障害のお子さんをもつパパやママ、おじいちゃん、おばあちゃんはもちろんですが、保育園や幼稚園関係者の方にも読んでいただきたい一冊になっています。
――SNSを通じて、中尾さんが得られたものって何だと思われますか?
自分の悩みを打ち明けて聞いてもらえる場所ができたのは、私にとって大きな収穫でしたね。それが、SNSで築き上げてきたコミュニティだと思います。朝陽の子育てのことで悩んでいた当時の私が手に入れられなかったものは、同じ境遇の仲間だったんです。普通に子育てしていても孤独になりがちな時代ですが、私は自分の居場所を、8年かかってようやく見つけることができました。
――これからの、中尾さんの夢や目標はありますか?
中尾さん:今回出版した書籍は、朝陽が誕生してから小学校に入学するまでの生い立ちをまとめたものなのですが、小学校でのことや中学校のことも『続・虹色の朝陽』として書いてみたいなと思っています。というのも、実は次男にも発達障害があって、来年中学校の支援学級に上がるのですが、その時期やそれ以降の情報が本当になくて……。またまた壁にぶつかっているところです。私にはまだまだ、情報発信する必要があるなと感じています。
それから直近でやりたいことは、SNSを通じてつながったコミュニティのみなさんと、オフ会を開催して直接会うことですね!
今回、書籍を出版することで、多くの方に発達障害について知ってもらいたいという中尾さん。これまで築き上げたコミュニティのみなさんとのつながりも、出版を決意する後押しになっているようです。発達障害をもつお子さんのパパやママはもちろんですが、おじいちゃんおばあちゃん世代の方、保育園や幼稚園の先生など、ぜひ手にとってみてはいかがでしょうか。
(取材・文/内田あり)
<プロフィール>
中尾きみかさん
中学1年、小学6年、小学2年の3人のママであり、元保育士。三男である朝陽くんが、3歳の時に自閉症スペクトラムと診断される。現在はYouTubeチャンネル「虹色の朝陽」を運営するほか、音声配信サービス「Voicy」のパーソナリティとして活動中。2022年10月には、書籍『虹色の朝陽』を出版。
虹色の朝陽
書名:虹色の朝陽 発達障害を持つ息子との8年間
発売日:2022年10月31日