第2子妊娠中に夫との間にトラブルが。「命に代えても2人の子どもを守る!」と「家族」についてとことん考えた先に僧侶の道が【シングルマザー体験談】
石川県小松市にある圓満山(えんまんざん)本光寺の僧侶・八幡真衣さん(32歳)は、2020年、地域子ども食堂「テンプル食堂えんまん」、子どもたちや地域の人たちに食事を支援する「テンプル食堂よしざき」などを開設しました。こうした活動を行っているのは、八幡さん自身の離婚やシングルマザーとしての経験があるからだと言います。全2回のインタビューの前編です。
19歳で結婚、2人の子どもを出産後、25歳で離婚
――八幡さんは離婚後、シングルマザーとして2人の子どもを育ててきたとのことですが、最初の結婚はいつでしたか?
八幡さん(以下敬称略) かなり早く、19歳のときでした。小さいころから「自分は早く結婚して家を出ないといけない」と考えていて・・・。
というのも私は2人姉妹の二女で実家がお寺です。3歳年上の姉が後継ぎとして育てられ、いずれは姉がお婿さんをとる予定でした。周囲から何か言われたわけではないものの、もし私が独身のまま家にいたら、姉のお婿さんとなる人が気をつかうだろう、早く結婚しなくては、と思っていたんです。
高校卒業後、子どもにスイミングを教える仕事に就きました。当時は夕方から子どもの指導をして、時間のあいている午前中は別のアルバイトをしていたんです。夫とはそこで出会いました。22歳で1人目の子どもを出産、24歳で2人目を出産しました。
2人目を妊娠中、離婚を決意することになったんです。離婚が成立したのは25歳のときでした。
――離婚した理由を教えてください。
八幡 最初の子を妊娠していたとき、切迫早産で長期間入院していました。だから、2人目を妊娠したときも安静にする必要があり、妊娠4カ月くらいから実家に帰っていました。
ところが離れて暮らしている間に元夫がほかの女性と親密な関係になっていて・・・。私もまだ若かったこともあり、どうしても許せなかったんです。「この人と一緒に子どもを育てていく未来が想像できなくなったし、この人と一緒にいても子どものためにならない」と強く思いました。子どもたちは私1人で育てると決意したんです。
妊娠中はおなかの赤ちゃんを最優先にしていたので、2017年4月、無事に出産してから離婚を切り出しました。
離婚が成立したのは2018年11月でした。時間がかかりましたが、私はそのことで思い悩む余裕がありませんでした。
第2子出産後、僧侶になろうと決めていたからです。
「両親が家族と同じくらい大切にしているお寺について知りたい」と考え、僧侶の道に
――なぜ僧侶になろうと思ったのでしょうか?
八幡 ずっと姉が実家のお寺を継ぐと思っていたので、実家のお寺について私が考えることは少なかったのですが、姉はお寺の跡取りの道ではない幸せを選びました。私の結婚が先だったので、私には第1子が生まれたあとのことでした。
その後、私は第2子を授かってから、家族というものや、命のつながりということ、実家のお寺について深く考えるようになりました。もちろん元夫とのトラブルも家族というものを考えるきっかけにもありました。
――どんなことを考えたのでしょうか?
八幡 両親や祖父母は家族をとても大切にしていて、私たち子どものことをとてもかわいがってくれました。一方で、お寺のことも家族と同じくらい大事にしていました。
私は2人の子どもたちを出産したときに「この子たちのことは命に代えてでも守る」と誓いました。
だからこそ「両親や祖父母が、家族や自分の子どもと同じくらい大切にしているお寺って、どんなものだろう?もっと知りたい」と思ったんです。そこで第2子を出産後、僧侶になることを決めました。
――僧侶になるのには、どのような道があるのでしょうか?
八幡 一般的なイメージとして、「僧侶になる」というと出家するイメージがあるかもしれません。でも、私の実家のお寺の宗派は浄土真宗で「世俗世界の中で仏教を実践していく」という考え方です。僧侶になることを「出家」とはいわず「得度(とくど)」といいます。得度講習会というものに参加し、仏様の教えを学んで僧侶になるんです。 私は第2子出産半年後には得度を受けました。
――八幡さんが「僧侶になる」と言ったとき、ご両親はどんな反応でしたか?
八幡 父には始め「本気か?」と笑われました。でも、私の本気度が伝わると、心配はあったと思いますが、得度を受ける手続きなどは全部父がしてくれました。お寺のことを知りたい」と言ったのもうれしかったのかもしれません。私自身も親になったからこそ、自分の親の気持ちがわかるようになった気がします。
得度を受けるのは、まずは各地域で2日間行われる「得度考査」というものを受けます。その後、京都に行って2週間にわたり、お坊さんとして生きるための基本を学ぶ「得度習礼(とくどしゅらい)」を受けます。この期間は、外部との接触はいっさい断たれます。携帯電話も持ち込めず、親族が亡くなったとしても途中で出ることができません。
子どもたちを置いて家を離れるのは身を切られるような思いでした。下の子はまだおっぱいを飲んでいた時期で・・・。でも両親がお世話をしてくれました。本当にありがたかったです。
僧侶になってからもさまざまな資格があります。私はもっと勉強をしたかったので、浄土真宗のお寺の住職になるための「教師教修」、仏様の教えを伝える「布教使」という資格も取得しました。「布教使」の勉強をしていたときは、半年間京都の寮に入り、朝の5時から夜の9時までひたすら勉強の日々でした。
――仏教を学び、どんなことを感じましたか?
八幡 仏教は学べば学ぶほど、ありがたい気持ちでいっぱいになります。阿弥陀仏如来さまは、私たちのことを自分たち以上に大切に思ってくださっているんです。そして、どんな人でも取り残すことなく救済してくださいます。こうした教えに触れ、ものすごい衝撃を受けました。どんなに罪深い人でも決して見捨てず「あなたのことが大事だよ」と思ってくれる存在って、なんて偉大なんだろうと感じました。私の人生に大きな影響をもたらしてくれたんです。
私も「少しでも自分にできることをしたい、周囲の人をサポートしたい」と考えるようになりました。
得度を得たときは、まだ離婚が成立していなくて、元夫とは別居している状態でした。その後、離婚成立となったのですが、実は、しばらくは離婚したことを周囲に言えず、隠していました。
周囲の目を気にして離婚したことを言えなかった・・・
――なぜ離婚について周囲に話せなかったのでしょうか?
八幡 「お寺の娘が離婚するなんて・・・、シングルマザーだと子どもがかわいそう」など、周囲から言われるかもしれないと引け目を感じていました。だからずっと「夫は単身赴任しています」と言っていました。
――離婚していると周囲に伝えたきっかけはありますか?
八幡 2020年、だれもが利用できる地域子ども食堂として、本光寺で「テンプル食堂えんまん」、本願寺吉崎別院で「テンプル食堂よしざき」を開設しました。さまざまな方が利用してくれて、シングル家庭の人たちや、いろんな事情を抱えた人たちも来てくれたんです。
そのときに「私が自分の経験を隠したままだと、みんなと打ち解けるのは難しいかもしれない」と思ったんです。
それで「私は離婚しているんだ。まさか自分がシングルマザーになるなんて想像もしていなかった」と話したら、一緒に話していた人たちは「わかる、まさか自分が・・・って思うよね」と共感してくれたんです。私が自分の話をしたことで、「子どもを産んだことを自分の親に伝えていない」などと、さらに深い話をしてくれる人もいました。
以前は自分は絶対に再婚することはないし、一生シングルだと思っていたのですが、実は2025年1月に再婚をしました。9月には子どもが生まれる予定です。
「子どもの言葉を信じよう」と決意し、新たな家庭を築くことに
――再婚することになった経緯を教えてください。
八幡 私は2024年に起きた能登半島地震のボランティアも参加しています。夫とはボランティアを通じて知り合いました。
もともと私は再婚するつもりはまったくなかったんです。でも彼と親しくなるうちにだんだんひかれて・・・。少しずつ「この人と人生を歩んでいきたい」と思うようになりました。
でも、いざ再婚となるとためらいました。子どもたちを振り回してしまうのではないか、万が一離婚となり、またつらい思いをしたらどうしようと考えてしまって。
でも、ふと「絶対再婚しない」と思っている自分ってなんだろう?と思ったんです。これまで僧侶として多くの方に「人生にはいろんな選択肢があります」と伝えてきました。それなのに自分自身のこととなると、離婚した過去を許せず、みずからに選択肢を与えようとしていません。
だんだん「再婚はしない」と最初から拒絶するのは、彼にとっても自分にとっても失礼じゃないかと気持ちが変化していきました。
現在は新しい家族でとても楽しく、仲よく過ごしています。でもステップファミリーに対する偏見の強さも感じます。
私は離婚、シングルマザー、再婚といろんな経験をしたことで「人にはいろんな事情がある」と学びました。だから物事をさまざまな側面から見ることを意識するようになりました。
いろんなご縁をいただき、多くの経験させていただいたことは、本当にありがたいです。仏教を学んでから、自分の身に起こる出来事はすべて学びだと感じます。感情に振り回されることなく、ひとつひとつに向き合っていくことが大切だと思うんです。
きっとこれからも、たくさんのことを経験するはずです。どの出来事からも逃げることなく、きちんと学びを得ていきたいと思っています。
お話・写真提供/八幡真衣さん 取材・文/齋田多恵、たまひよONLINE編集部
子ども食堂の運営や能登半島震災のボランティアなど、さまざまな活動に取り組む八幡さん。「まさか自分が離婚、シングルマザー、再婚といろんな経験をするとは思わなかった」と言いますが、こうした経験が、視野を広げるきっかけとなったとも言います。家族はもちろん、周囲の人たちにも深い愛情を注ぐ八幡さんのお話は、とても心を打つものでした。
八幡真衣さん(やはたまい)
PROFILE
浄土真宗本願寺派僧侶。圓満山(えんまんざん)本光寺副住職。一般社団法人「えんまん」代表理事。2020年5月、本光寺で「テンプル食堂えんまん」、6月に本願寺吉崎別院で「テンプル食堂よしざき」を開設。2児の母。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2025年6月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。