「性教育・・・、子どもにどう伝えればいいかわからない」そんなとき、まず家庭で実践してほしいこと【専門家対談】
子どもの心や体を守るためにも大切な幼児期からの「性教育」。でも子どもに何からどうやって教えればいいのかな、と悩むママ・パパもいるのではないでしょうか。泌尿器科医で「たまひよONLINE」でも連載を持つママ泌尿器科医 岡田百合香先生と、性教育に関する教材を作り性教育講座も行う一般社団法人ソウレッジ代表の鶴田七瀬さんに、家庭で始める性教育について話を聞きました。
まずはプライベートゾーンを教え、同意を得るくせづけを
――子どもへの性教育として、家庭ではどんなことから始めるといいと思いますか?
岡田先生(以下敬称略) 性教育は、体のしくみや妊娠・出産のことだけでなく、扱うテーマは多岐にわたります。幼児期に教えることとして優先順位をつけるとしたら、まずはプライベートゾーンの話がおすすめです。
年齢やその子の興味に応じて何から伝えていくかは変わってくるとは思いますが、まずはおふろで体を清潔にするときに、プライベートゾーンと呼ばれる自分だけの大切な場所があることを伝え始めましょう。だれかのプライベートゾーンを触るときには同意を得なければいけないという話をしつつ、保護者が実践することが重要です。たとえば「今からおちんちんを洗うよ、いいかな?」と、声かけすることならすぐ始められますよね。
鶴田さん(以下敬称略) 子どもが言葉がわかる前から「おむつを替えるね」という声かけをすることも大事ですよね。子どものプライベートゾーンに触れるたびに声かけをしていれば、返事ができる月齢になったら返事してくれるようになると思います。子どものプライベートゾーンに触れるときに同意を得るということを、親がくせづけしていくのはとても重要なことだと思います。
子どもが「NO」を言えるように気持ちを尊重したい
岡田 あとは、子どもが「NO」と言える環境を作ることも大切だと考えています。性被害にあいそうなとき「いや!」と言って逃げるためには、日ごろから自分が望まないことに対して「NO」を言う習慣が必要です。しかし、実際には子どもの「NO」が尊重されていない場面は、性に限らず日常生活でも多々あります。
たとえば幼児同士のおもちゃの取り合い。お友だちに「貸して」と言われて、自分の子が「いやだ」と言ったとき、親が「『いやだ』じゃないでしょ!『いいよ』だよね」と「NO」を否定して「YES」を押しつけてしまうことがあります。子どもの「NO」に大人が向き合えているか、見つめ直さないといけません。
ただ、子育てをしていると「保育園に行きたくない」「おふろに入りたくない」「歯磨きがいや」など、「NO!」だらけ。それらの「NO」をすべて受け入れることは難しく、悩みどころです。
鶴田 おふろとか歯磨きといった、子どもの健康にかかわることは、ママやパパがどこまで子どもの「NO」を尊重するかの葛藤を抱えるのもすごくわかるし、つらいところですよね。
言葉がわかる年齢の子どもなら、「おふろがいやなら、2日に1回は入ろうか」と親子で話し合ってボーダーを決めるというのも、1つの方法かなと思います。子どもの同意を得て、紙に書いて貼っておくのもいいかもしれません。
子どもの「NO」を受けとめてあげる関係性なら、子どもが「いや」と思ったときに言いやすい環境を作れるかなと思います。それが、いずれ成長して、人生の選択をするときに子どもの意見を尊重できることにつながるんじゃないかな、と。
岡田 そうですね。生活の中では子どもの「NO」をかなえてあげられないこともあります。そういうときは、子どもを大人と同じ1人の人格と考えて、まずは気持ちを受けとめることを心がけています。「保育園に行きたくない」と言われたら、「いやだよね、行きたくないよね。ママもお仕事行きたくないことあるよ~」と共感してみたり「いやなんだね。どんなとこがいや?」と聞いてみたり。「ママがお仕事いかないと困っちゃう人がいるんだ」と具体的に仕事に行く理由を説明することも。
「NO」と言ったのに「いやじゃないでしょ!」と否定されると、「言ってもムダだ」と段々自分の「NO」のパワーを信じられなくなります。「NO」を尊重し、話し合い、折り合いをつけようとすることは、子どもに対しても必要な姿勢だと思っています。
プライベートゾーンの考え方を伝えるのは、遊びながらでOK
――鶴田さんはプライベートゾーンを学ぶためのカードゲーム「プラベ」を開発されたそうです。開発経緯を教えてください。
鶴田 「プラベ」の前に2019年に性教育トイレットペーパーを作りました。文字が読める子を対象にした、トイレで性教育を学べる教材です。でも、プライベートゾーンのことはもっと早くから教える必要があるなとずっと感じていました。とくに、幼児期は性被害にあったとしても認識できないし、親に伝えることができません。それで2021年に「プラベ」を作りました。
プライベートゾーンのことを教えるときって、恥ずかしいとか、汚いとか、ネガティブな言葉を使いがちだとも思っていたので、そうではなくて楽しくプライベートゾーンを学べる教材を作ろうと思いました。
――「プラベ」のルールは、めくった札に出た動物のプライベートゾーンを、自分の手札で「プラベ!」と叫んで隠してあげる、というもの。発想がとてもユニークです。ルールはどのようにして考えましたか?
鶴田 未就学児が楽しく遊べる簡単なルールにしようと考え、「プライベートゾーンを隠そう、守ろう」と、その1メッセージだけを伝えられるようにしました。あとは子どもが「いや!」というときに声を出す練習が必要だと思って、反射神経を鍛えられるように「プラベ!」と声を出すアクションを入れたいなと思いました。「プラべ!」と大きな声を出しながら遊んでほしいと思っています。
――岡田先生も息子さんと遊んだことがあるということですが・・・。
岡田 はい。昨日も夫と息子と遊びました(笑)。プライベートゾーンを隠せたら、一気にたくさんのカードがもらえる、というところがすごく気に入っているようです。あとは「プライベートゾーン」って長いけど「プラベ」だと呼びやすくて語感もいいですよね。
ゲームをすること自体を楽しんで、気づいたらプライベートゾーンや性教育のことも身に着くのがゲームのいいところ。
性教育にかかわらず、どんな学びでも「楽しい」と感じられることはすごく大事ですよね。プライベートゾーンに対してポジティブなイメージも持てると思います。
鶴田 そうですね。教材開発には楽しさや「なんだこれ?」という驚きを重要視しています。
「プラベ」では「自分が触られたくないところ」をプライベートゾーンとして、「さるのおしり」「ワニの口」「ゴリラのむね」のカードが出たら、「パンツをはいたさる」「口をおさえるワニ」「Tシャツを着たゴリラ」のカードで隠してあげるんですが、この遊びを通して、小さい子どもたちにも、自分が触られたくないところは大切にすることを知ってほしいと思います。
――遅れているといわれる日本の「性教育」。いずれは欧米に追いつけるでしょうか?
岡田 たとえば、私が生まれた30年ぐらい前と比べるとかなり変わってきているとは思いますが、まだまだです。
性教育に関心を持つ方、必要性を理解している方はどんどん増えているので、今後の課題は政治じゃないかなと感じています。性教育には関心があるけど、政治には関心がないという方も少なくありません。
投票率の低さや政治家のジェンダーアンバランス、政治の話がしづらい日本社会は性教育の遅れとも密接に関連しています。この辺りをどう修正しているかにかかっていると思います。
鶴田 性教育は、学ぶべき内容が時代によって変わる側面もあって、たとえば昔はなかったスマートフォンの普及によって、リベンジポルノなどの問題も新たな課題になっています。時代によって知識を更新しながら考えていくことも必要だと思います。
お話・監修/岡田百合香先生、鶴田七瀬さん 画像提供/一般社団法人ソウレッジ 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部
自分の体やお友だちの体を大切にするための性教育の第1歩として、子どもに伝えたいプライベートゾーンのこと。ゲームのほかにも絵本などを使って、楽しみながら伝えることから始めてみてはいかがでしょうか。
●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
岡田百合香先生(おかだゆりか)
PROFILE
泌尿器科医。愛知県在住。総合病院の泌尿器科に勤務する傍ら、乳幼児の保護者を対象にした「おちんちん講座」や、思春期の学生向けの性に関する授業などを行っている。現在4才男児、1才女児の子育て中。
鶴田七瀬さん(つるたななせ)
PROFILE
一般社団法人ソウレッジ(Sowledge)代表。大学では経営学を専攻し、在学中に海外留学を経験。2019年に一般社団法人ソウレッジを起業。2019年にクラウドファンディングを介して資金を調達し、性教育トイレットペーパーの販売をスタート。性教育教材の販売・寄付、性教育に関する講演などを行う。