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子どもを性被害から守る性教育とは?【専門家】

泣く子
写真はイメージです
fasphotographic/gettyimages

報道でもわかるように増えている性犯罪事件、さらに最近目立つ若年層の望まぬ妊娠、性的虐待のニュース。そしてインターネット上にあふれる性の情報。子どもたちを性被害から守るにはどうすればいいのか、また、私たち大人は性をどうとらえればいいのか、考える転機を迎えているのではないでしょうか。国内外の性教育に詳しい宇都宮大学准教授の艮 香織先生にこれから求められる性教育について聞きました。

まずは「自分のからだは大切なもの」と思える子どもに

内閣府の2017年の調査では、女性の13人に1人、男性の67人に1人が無理やり性交を受けた経験があるという結果でした。また、被害者のうち被害にあった時期は「小学生のとき」が12%、「小学校入学前」が3.0%でした。警察庁の犯罪統計でも、20年に認知された強制性交等事件は1332件、強制わいせつ事件は4154件あり、このうち12才以下の被害者が16%で、12才以下の被害者の15%は男子ということです。
そして前述の内閣府の調査では、相談できたという人は40%以下と低いことがわかっています。

「これまで日本では、知らない人には気をつけましょう、で終わりのパターンが多かったと思います。多くは知人が加害者ということが多い現実がありますから、これでは性暴力・性被害の実態に合っているとはいえません。性暴力・性被害の現状を知り、相談先を含めて学ぶことは大切です。

しかし、本来ならそれ以前に、自分のからだを大切なものとしてとらえられる感覚をどのようにはぐくむかが大切です。性教育の国際的な基準でも、まず自分のからだをポジティブに、大切なものとしてとらえることから教えていきます。それがないと、いやなことをされた(した)ときに気づきにくいし、相談へのハードルも高くなってしまいますよね。

性教育というとセックスを教える、というイメージを持たれがちなのですが、まったく違います。“性”は、その人がどう生きるかに深くかかわっています。性教育は、自分が自分らしく生きるための必要なことを学ぶ権利なのです。その内容はとても広いものです。からだと心のあり方、人とのかかわり方から社会における性のあり方まで含みます。

自分には自分らしく生きる権利がある、という意識がしっかりとつかめるような性教育がこの社会で保障されることが大切です。長い目で見れば、性犯罪やトラブルにあった時の適切な対処や、意図しない妊娠や中絶も防ぐことにもつながっていきます」(艮先生)

性教育の国際基準は5才から。0才から始める欧米国も

艮先生が訳を手がけたイギリスの性教育絵本『ようこそ!あかちゃん せかいじゅうの家族のはじまりのおはなし』が2021年1月に発売されました。本国での対象年齢は5~7才です。

「現在、性教育の国際的な到達点には大きく2つあります。まずひとつ目はユネスコの『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』。もうひとつは世界保健機関(WHO)欧米地域事務所とドイツ連邦健康啓発センターが発行した『ヨーロッパにおける性教育スタンダード』です。

『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』はアジアやアフリカも含めた世界を、そして『ヨーロッパにおける性教育スタンダード』は欧米国を主な対象としています。
2つに共通しているのは、性を人生に広く深く関わるものとし、性教育の内容をとても幅広くとらえている点です。一つひとつが別々の内容ではなく、つながりあっているというとらえ方も特徴といえるでしょう。ユネスコではそれを包括的セクシュアリティ教育と呼んでいます」 (艮先生)

艮先生も翻訳を担当された『国際セクシュアリティ教育ガイダンス【改訂版】』を見ていきましょう。8つの内容に分かれています。

●8つのキーコンセプト

いかがでしょうか。とても広い内容であることがおわかりいただけたのではないでしょうか。さらに、年齢によってレベルを1-4に分け、子どもの発育・発達に即した「学習者ができるようになること」が提示されています。たとえば以下は上の一覧の「6 人間のからだと発達」にある「生殖」のレベルごとの内容です。

●「生殖」についてのキーアイデア

ここではキーアイデアのみ紹介しましたが、それぞれに「学習者ができるようになること」が知識、態度、スキルに分けてまとめられています。

「性は性交渉や生殖のことだけではないし、からだだけのことでもなく、生きることに広く深くかかわっている、という考え方が国際的基準になっています。世界の中でも北欧やオランダ、オーストラリアなどは、先進的な取り組みをしていることで知られています」(艮先生)

「性教育をしたら性行動が活発になる」は間違い

それでは、日本の性教育の現状はどうなっているのでしょうか。学習指導要領では、小学4年生の保健体育の授業で受精や月経、射精などの性教育が行われていますが、性交については除かれるなど、海外に比べて日本は遅れているように見えます。

「『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』(2009年初版、2018年改訂版)が、日本の学習指導要領に反映されているか、というと“されていない”、というのが現状だと思います。

ただ、すべて遅れているというわけではなく、たとえば小学校低学年の生活科や高学年の家庭科で多様性を意識した人間関係や家族について扱うことができます。また、2020年からは「子供を性暴力の当事者にしないための生命(いのち)の安全教育の推進」に向けて内閣府と文部科学省がのりだそうとしています」(艮先生)

ではなぜ、日本は性教育の中でもとくに性交渉や生殖の教育について、国際基準とは違った立場をとっているのでしょうか。

「性のことを教えたらしちゃうのでは、とか、そこまで子どもに教えることはない、という考えが日本には根強く残っているからではないでしょうか。性教育をしたら子どもの性行動が活発になったというようなデータはなく、むしろ性教育をしっかり行ったほうが性行動に慎重になるという調査結果があるくらいです。

また、大人もしっかりと包括的な性教育を受ける権利を奪われてきたわけです。それに加え、性=エロ、タブーというとらわれから抜けられないのも理由でしょう。アダルトビデオやまんがなどで性の情報を得て、不安なまま性的体験をしてきた今の大人は、性教育=恥ずかしいもの、ととらえてしまいます。そのため子どもから質問されてもごまかしたり、しかったりしてしまいがちなのです。

さらに、国際基準では人権を大切にすることを教えていますが、日本では権利を主張することは好ましくない、という風潮がまだ残っていることも影響していると思います。周囲への思いやり、やさしさ、といった情緒的で具体性のない考えが尊重されてきたことも、日本で性教育が根づかない理由ではないでしょうか」(艮先生)

お話・監修/艮 香織先生 取材・文/岩崎緑、ひよこクラブ編集部

子どもへの性教育を考えるとき、まずは大人の認識から見直すことが大切なようです。国際基準の性教育とはどんなものなのか、知ってみることから始めてみませんか。

艮 香織先生(うしとらかおり)

Profile
宇都宮大学共同教育学部准教授。一般社団法人“人間と性”教育研究協議会幹事。保健学博士。
専門は人権教育、性教育。共訳に『ようこそ!あかちゃん せかいじゅうの家族のはじまりのおはなし』(大月書店)、監訳『4歳からの性教育の絵本  コウノトリがはこんだんじゃないよ!』(子ども未来社)、監修『親子で話そう!性教育』(朝日新聞出版)、共編著『乳幼児期の性教育ハンドブック』(かもがわ出版、2021年4月刊行)などがある。


『ようこそ!あかちゃん
せかいじゅうの家族のはじまりのおはなし』(大月書店)

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性別によるからだの違いと共通点から始まり、性交・受精・妊娠のプロセスから出産、家族との出会いまで、科学的な知識やあらゆる多様性が意識された内容。カラフルなイラストも楽しい1冊。

※ユネスコの国際セクシュアリティ教育ガイダンスは明石書店から出版されていますが、ユネスコのホームページから日本語版を無料でダウンロードすることができます。

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