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10才で再発した神経芽腫。8時間にも及ぶ手術と治療を乗り越えた娘は21才に。「やれることではなく、やりたいことができる道を探したい」【体験談】

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上の写真は、再発が判明して入院したときのもの。治療法は手術しかないと告げられました。

10才のとき、小児がんの神経芽腫が再発した浦尻一乃さん(21才)。治療法は手術による摘出しかない、と主治医に告げられました。理解力がある年齢なだけに手術への恐怖心も大きい一乃さんに、どのように寄り添ったのか、母親のみゆきさん(52才)に聞きました。

一刻も早く手術を受けさせたいのに、娘は「手術はイヤ!!」と拒否

再発の治療をしながら小学校の運動会に参加したときの写真。

神経芽腫は小児がんのひとつ。治療には抗がん剤治療(化学療法)、放射線治療、造血幹細胞移植などの方法がありますが、一乃さんの再発時の治療にはどれも適さず、腫瘍を取り除く手術しか治療法がない、というのが主治医の見解でした。

「かなり大きなリスクを伴う手術だと感じたので、2つの病院でセカンドオピニオンを受けました。どちらの病院も、一乃の症状では手術が第一選択肢になること、腫瘍は手術で取れる場所にあること、子ども病院は手術室のベッドの大きさから器具まですべて子どもの手術に適したサイズになっていること、子ども病院はこの手術の実績が十分にあることなどを話してくれました。その説明を聞いて、私と夫は現在入院している子ども病院で手術を受けさせようと決断したんです」(みゆきさん)

ところが、手術を受ける当事者の一乃さんが「手術はイヤ!」と拒否したのだそうです。

「私と夫は、一刻も早く手術をして腫瘍を取り除きたい気持ちになっていたので、希望の光が見えたのになぜ嫌がるのか、そのときは娘の気持ちが理解できませんでした。
でも今ならわかります。すでに手術後の苦痛を知っているのですから、10才の子にとって、手術はとてつもなく大きな恐怖だったはず。それなのに、私も夫も医療従事者と同じ態度で、『早く手術の準備をしよう』と娘を急き立ててしまいました。そのため、娘が心を閉ざしてしまったのです。

そのころ看護師さんから、『お母さんが帰った後、いっちゃんが窓に向かって泣いていました』と教えてくれました。その言葉を聞いて、一乃の気持ちを置き去りにしていた、酷なことをしてしまったと気づきました」(みゆきさん)

“一乃ファースト”で手術を実施。「腫瘍は全部取り除けた」と医師が笑顔に

再発の治療が終わり、退院して5カ月たったころ。

「一乃も手術をしなければいけないことは理解していて、お医者さんは自分のことを考えて手術をすすめくれているんだ、ということもわかっていたはず」とみゆきさんは言います。そこで、どうすれば一乃さんが少しでも恐怖心を抱かずに手術に挑めるか、一乃さん、先生・看護師さんとともに考えたのだそうです。

「一乃は『私が嫌だって言っても手術はしなきゃいけないんでしょ?ママとパパはもう手術するって決めてるんでしょ?』と投げやりな態度は変わりませんでしたが、『私を差し置いて話を進めないで』と、手術や麻酔科の説明も同席し、『麻酔科の先生は○○先生がいい』と指名しました。また、術後の痛みへの不安があることから、痛み止めを使える回数や間隔を質問。さらに、吸入麻酔の臭さをやわらげるための甘いにおいをかぐと頭痛がするから、麻酔は点滴でしてほしい、という希望も出しました。
病院はこれらの要望をすべて聞き入れてくれ、“一乃ファースト”で手術をすることになりました」(みゆきさん)

そして、2012年2月27日に手術の日を迎えます。8時間に及ぶ大手術でした。

「手術前の検査では転移を疑うものはなかったけれど、実際の転移の状況は手術中に直接見ないとわからないと説明されていたので、予想外の転移があったらどうしよう・・・と不安でたまりませんでした。
でも手術後、主治医と目が合った瞬間ニコッと笑ってくれ「腫瘍は全部取り除けました」と。腫瘍が摘出できたのなら再度寛解する可能性はある!と、安堵と喜びで心がいっぱいになりました」(みゆきさん)

手術後に抗がん剤治療を4クールと放射線治療を実施。あとは経過を見て退院の日を待つことになりました。

「毎日の血液検査の数値、腫瘍マーカー、画像検査などさまざまな検査で経過が安定していることが確認され、主治医の『画像に疑わしいものが写っていないことを評価します』 との見解により、2012年7月10日に退院することができました」(みゆきさん)

未承認薬の服用や保険適用外の治療も受け、12才のときに寛解

金沢大学附属病院が唯一行っている小児MIBG内照射療法を受けたときの様子。

再発がわかったとき、みゆきさん夫婦は決めていたことがあります。それは、神経芽腫の再発予防薬として欧米では使われているけれど、日本では未承認の「レチノイン酸」を使うことです。

レチノイン酸はもともとニキビの飲み薬として開発された薬(カプセル)ですが、欧米では神経芽腫の再発を防ぐ効果があることが大規模な臨床試験で証明されており、再発予防の標準薬として使われています。
神経芽腫の患者さんが内服する場合は、必要量を1日2回服用します。カプセルが飲めない場合は、カプセルに穴をあけて中身の液体成分をスプーンに絞り出して飲ませたり、食べ物に混ぜて飲ませたりします。これを「14日連続+その後14日休薬」の1回28日サイクルを6回繰り返す(約6カ月)のが標準的な方法です。

「レチノイン酸のことは初発治療後に、同じ病棟にいたお母さんから教えてもらいました。でも、日本で未承認の薬を使うのは怖かったので、初発の治療後には使いませんでした。そのせいで再発したわけではないかもしれないけれど、使わなかったことをものすごく後悔しました。だから再発したとき、再発の治療後はレチノイン酸を使おうと夫婦で話し合って決めていたんです」(みゆきさん)

日本では承認されていない薬のため、レチノイン酸を服用するには個人輸入で取り寄せるしか方法がありません。初発治療後に情報をくれたお母さんや、神経芽腫のシンポジウムに参加した際に知り合った人などから情報を集め、さらに主治医にも相談し、レチノイン酸を個人輸入して使い始めたそうです。

「服用をやめたら再発してしまうのではないかという恐怖心もあり、1年半服用し、薬代に40万円弱を費やしました。一乃はレチノイン酸の副作用で、口のまわりがただれてしまい、毎日マスクをして学校に通っていました。また、一乃の身長が140㎝から伸びなかったのは、レチノイン酸の影響もあったのかもしれません。でも、レチノイン酸のおかげで再々発していないのかもしれません。私はレチノイン酸を使ってよかったと考えています」(みゆきさん)

一乃さんによい未来がひらける可能性がある治療はすべて試す、と決意していたみゆきさん・浩一さん夫婦。日本では金沢大学附属病院が唯一行っている小児MIBG内照射療法という方法があることを知り、金沢大学附属病院へ。説明を聞いたあと、治療を受けると決めました。

「MIBGという物質が神経芽腫のがん細胞に取り込まれる性質を利用して、放射線ヨウ素を標識したMIBGを点滴で投与して、全身のがん細胞に集中的に放射線を当てて、再々発を防ぐ方法で、保険適用外治療です。2013年7月22日に検査入院し、8月8日から治療(投与)を開始し、8月12日に退院しました。入院中の22日間は私たちもずっと金沢でホテル住まいをしていたので、宿泊費と入院・治療費で90万円程度かかりました」(みゆきさん)


みゆきさん・浩一さん夫婦の切なる願いがかない、一乃さんは12才のときに小児がんの症状がみられない寛解と診断されました。

「一乃は治療の影響で、腎臓や腸などに障害が残り、排泄のコントロールが難しくなりました。退院した年に学校の宿泊行事があり、参加はできたものの、往復の移動時のトイレの問題があったので、行きと帰りは私が車で送迎しました。
通常の学校生活でもトイレに頻繁に立つため、授業中でもトイレに行きやすい席に座らせてもらえるよう学校にお願いしました。さらに、年齢が上がると授業中に「トイレに行きたい」と先生に言うのが恥ずかしくて苦痛になりますから、席の位置に加えて、先生に声をかけなくても自由にトイレに行けるようしてくださいとお願いしました。

現在、一乃は大学生になりました。骨への晩期合併症を抱えていて、生活に支障をきたすほど激しくひざが痛み、手術を受けたこともあります。持病があるというとアルバイトも採用されにくく、アルバイトもままなりません。でも、臨床検査技師になるという夢があり、頑張って勉強しています。
そして、小児がんサバイバーである前に、浦尻一乃として自分の人生を生き、できること(やれること)を探すのではなく、やりたいことをできる方法を探しながら大人への道を歩き出しました。
そんなふうに一乃が考えられるのは、これまで困ったときに手を差し伸べてくれた人がいて、支えてくれた人がたくさんいたからです。感謝の気持ちでいっぱいです。私たち夫婦は、一乃の意思を尊重し、自立して生きていけるように見守っていきたいと考えています」(みゆきさん)

【富澤先生より】レチノイン酸は今でも未承認。治療法の進歩が期待されます

神経芽腫は、半数近くの患者さんが転移のある進行神経芽腫として発症します。1990年代後半に大量化学療法と自家造血細胞移植、さらに後療法としてレチノイン酸を投与する治療法が標準治療として確立したものの、レチノイン酸は今でも国内では未承認のままです。2010年に米国から、自家造血細胞移植後に抗GD2抗体を用いた免疫治療を併用することで生存率が改善することが報告され、こちらは関係者の努力によってようやく、2021年に国内で薬事承認が得られました。進行神経芽腫の治療成績はまだまだ十分とは言えず、今後さらなる治療法の進歩が期待されています。


お話・写真提供/浦尻みゆきさん 監修/富澤大輔先生 取材・文/東裕美、たまひよONLINE編集部

監修/富澤大輔先生 (国立成育医療研究センター 小児がんセンター 血液腫瘍科診療部長)

再発した腫瘍を取り除く大手術のあと、再々発を防ぐためにできる限りの治療を受け、寛解した一乃さん。晩期合併症を抱えながらも、自分が目指す道に向かって歩き出しています。

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

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