1歳頃から息子に違和感。3歳で自閉症スペクトラムと診断され…。『虹色の朝陽』の著者・中尾きみかさんインタビュー
3人の男の子を育てながら、YouTubeチャンネルやVoicyを運営するなど、忙しい日々を送っている、中尾きみかさん。三男である朝陽くんは3歳の頃、自閉症スペクトラムという発達障害と診断されました。中尾さんはSNSを通じ、朝陽くんの成長の様子や当時の気持ちを発信する中で、同じ悩みを抱えるママたちとのコミュニティを築き上げてきました。今回は、朝陽くんの発達障害と向き合ってきた日々や、これまでについて伺いました。
集団生活で目の当たりにした、息子の特性
――1歳を過ぎた頃から、朝陽くんの様子に違和感を感じていたとSNSで発信されていますが、具体的にどんな違和感があったのでしょうか。また、その頃の中尾さんのお気持ちを教えてください。
中尾さん:朝陽には、言葉の遅れ、指さしをしない、偏食、感覚過敏、勝ち負けや色へのこだわり、多動、癇癪などがありました。言葉に関しては、上の2人を育てる中で、上の子は言葉が早かったけれど、下の子はゆっくりだったこともあり、子どもによってそれぞれのペースがあるし……と思っていたんです。まわりからも「男の子は言葉が出るのは遅いものよ」と聞いていたので、そんなものかなと様子を見ていましたね。
指さしは、言葉が出る前の特徴的な行動と私自身も知っていたので、なかなかできないのは心配でした。「指さしをしない」と検索すると、「発達障害」というワードが出てくるので、もしそうだったらどうしよう……という気持ちがどこかにありました。ただ、3歳に言葉が出てきた朝陽は、2歳ごろから指さしができるようになってきて、当時は「発達障害じゃないかもしれない」と少しホッとしたのを覚えています。
困ったのは、感覚過敏があることで、靴と靴下を履いてくれないことでしたね。真冬の公園で裸足で遊んでいると、まわりの目はとても気になりました。「なんでこんなに寒いのに、靴下も履かないの?」とか「ちゃんと靴を履かせなきゃダメじゃないの」などの言葉をかけられると、“ちゃんと子育てしていない母親”に見られているんじゃないかと思って、公園に行くのも億劫になってしまう時期もありました。夕方の、人が少ない時間帯にわざと行って、息子たちを遊ばせたりもしました。
多動もひどく、それには一番悩まされましたね。家から脱走してしまうことも頻繁にあり、焦って夫婦で探したら、公園で遊んでいたり、駄菓子屋にいたり……。「やんちゃな子だね」とか「3人目だからたくましく育つよね」なんて言われたりもしましたけど、さすがに家から脱走する子は三番目で初めてでしたね(笑)。
――ひとつひとつの特性を聞くと、その子の個性として捉えられそうなことだったり、発達のペースによって個人差があることなのかなとも感じました。中尾さんは、どんなきっかけで専門機関に相談しようという気持ちになったのでしょうか。
中尾さん:うちの場合は、幼稚園の先生からの指摘がきっかけです。一度、朝陽くんの様子を見にきませんか?という声をかけてもらいました。運動会の練習をしていると、みんなと一緒のことができないという場面がたびたびあったようでした。実際に、朝陽の園での様子を目の当たりにした時、これはどこか専門機関に相談したほうがいいなと私自身も感じたんです。
これは発達障害のママたちの声でもよく聞かれるんですが、一対一の時は、少し大変だなと思う程度。でも、集団生活の中で過ごしている姿を見ると、やっぱり他の子とは少し違うな……と気づくというのはよくあるようです。
それがきっかけになって、私の場合は地域の子育て支援センターに行きました。ご家庭によっては、地域の保健所や児童発達支援事業所など、相談する場所はさまざまのようですし、また住んでいる地域によって相談先は変わってくるかも知れないのですが。私は子育て支援センターに相談できてよかったなと、いまでも思っています。
不安な気持ちを救ってくれた、専門員さんの存在
――子育て支援センターでは、どんな支援を受けられたのですか?
中尾さん:お住まいの地域によって相談先が異なる場合があるかもしれませんが、私の場合は子育て支援センターから相談支援事業所の一覧表をいただき、相談支援専門員さんとつながることができました。専門員さんが療育探しのアドバイスをしてくれたり、手続き関係のことを教えてくれます。また、療育の計画案を立ててくれますし、ネットでは得られない療育センターの細かな情報などをもらうこともできました。そういう存在の方がいてくれたことが、私には大きかったですね。
「この先、どうしたらいいんだろう……」という漠然とした不安を抱えていた頃でしたから、専門員さんがうまくガイドをしてくれたことで救われました。また、当時は療育のサポートを実際に受けている当事者の方とつながることができなかったので、専門員さんを通して児童発達支援へ療育を受けに行くことで、生の声を聞けたのもよかったです。
たとえば療育先が合わない時などに相談にのってもらえたり、間に入って療育先を変えることもできるんです。また、療育と専門員さん、そして私と3人で話ができる場を設けてくださることもあります。
専門員さんとは、今では年に一回会うペースですが、これからもずっとつながっていくと思います。これから成長していって、就職先などの相談にものってもらえるようです。
――YouTubeを拝見すると、ご夫婦ふたりで一緒に朝陽くんの子育てに向き合っていることが伺えます。それぞれ役割みたいなものはあるのでしょうか。
中尾さん:とくに、きっちり分担を決めているわけではないですが、夫婦でも得意不得意があると思うので、お互いにできることをしている感じです。私は情報収集をしたり、まわりのママとのつながりをもったり、SNSでの発信などが得意ですが、夫はそういうことは全くしません。ただ、私の悩みの聞き役になってくれたり、SNSで発信する動画などを視聴者目線で意見をくれたり、冷静にジャッジをしてくれますね。
夫を見ていてすごいなと思うのが、じっくり根気よく、朝陽の遊び相手になってくれるところ。私には到底できないな〜と感心しています。朝陽が自閉症と診断を受けたあとも、変わらずに愛情をもって育ててくれることも感謝しています。
――いつでも気持ちを共有しあえるご主人がそばにいることは大きいですよね。おじいちゃん・おばあちゃんの理解はどうでしたか?
中尾さん:心配をかけてしまうので、当初はなかなか相談できなかったですね。「もう治ったの?」とか「いつか治るんでしょ?」など、発達障害を理解してもらうのも大変でした。実は、私のSNSの視聴者の中には、50〜60代の方もけっこういらっしゃって、お孫さんのことが心配で視聴されている方もいるようです。今回出版する本も、そんな方にも届けばいいなと思っています。
親との関わり方、周囲の人との関係性の中で一番大切なのは、発達障害について知ってもらうこと、理解してもらうことだと思います。「こういうこだわりがあるのね」とか、「育て方が悪いわけではないんだ」「言葉も少しずつ増えていくのね」など、私のSNSや書籍を通して、少しでも気づいてもらえたらうれしいです。また、おじいちゃんおばあちゃん世代にはなかった、支援学級に対する理解も進むといいなと思います。
発達障害をもつ朝陽くんの育児を通じて、相談支援専門員さんや療育先の先生たち、一番身近にいるご主人の存在が大きかったと語る中尾さん。今ではSNSを通じて知り合った多くの視聴者さんが、心強い相談相手になったと言いますが、自閉症と診断されるまでは孤独を感じたり、さまざまな葛藤や悩みがあったようです。後編では、朝陽くんが小学校に上がってからの様子をお伺いします。
(取材・文/内田あり)
<プロフィール>
中尾きみかさん
中学1年、小学6年、小学2年の3人のママであり、元保育士。三男である朝陽くんが、3歳の時に自閉症スペクトラムと診断される。現在はYouTubeチャンネル「虹色の朝陽」を運営するほか、音声配信サービス「Voicy」のパーソナリティとして活動中。2022年10月には、書籍『虹色の朝陽』を出版。
虹色の朝陽
書名:虹色の朝陽 発達障害を持つ息子との8年間
発売日:2022年10月31日