【女優・加藤貴子】子どもを感情的にしかると、子どものトラウマになる!?
子育てで多くの親が悩むのが、子どものしかり方・ほめ方ではないでしょうか。8才と5才の子どものママである女優の加藤貴子さんも「しかりすぎたのでは」「子どもを傷つけたのでは」と反省することがあるのだとか。加藤さんが育児にかかわる悩みや気になることについて専門家に聞く連載第12回は、恵泉女学園大学学長の大日向雅美先生に、子どものしかり方やアドバイスのしかたなどについて聞きました。
子どもをしかるときには感情がこもって当たり前
加藤さん(以下敬称略) 子どもたちがいけないことをしたり、日常生活のルールを守れなかったりしてしかったとき、「あれ?感情で怒ってない?」「こんな怒り方してトラウマ(心的外傷)になったりしない?」などなど、自分も不安になります。しかったあとに反省することが多く、母親としてダメだな、と思ってしまうことがあります。
大日向先生(以下敬称略) 子どもに、「これは悪いことよ」「してはいけないことよ」と伝えるには、感情を込めて真剣にしかることが必要だと思います。逆に感情を込めずに怒るなんて、不自然な怖さがあります。人間は感情の生き物ですから、子どもがすることだとしても、許せないことには声も大きくなるでしょうし、表情だって怖くなって当たり前です。そういう経験も、子どもが育つ上で大事だと思います。「こんなことは絶対にしてほしくない」と、ママやパパが声を震わせながら怒っている、その様子を目にするだけでも子どもは「自分が何か悪いことをしたんだ」とわかるでしょう。
ただ、ここで気をつけたいのは「感情をこめて」しかることと「感情的に」しかることの違いです。感情的になって「この前もそうだったでしょ」「ろくな人間にならないわよ」「お友だちはもっと立派なのに」などと人格を否定するようなことは言わないことです。子どもを人としてリスペクトすることは忘れずにいたいですね。どんなに小さくても、子どもは人間として自尊心を持って生きています。
加藤 感情を込めてしかるのは当たり前と聞いて、ほっとしました。でも子どもにこれだけは理解してほしい、社会的なルールを教えたいとき、ポイントはどんなことですか?
大日向 こんな格言がありますよね。「子どもしかるな 来た道だ、年寄り笑うな 行く道だ」。これに尽きると思います。子育ては初めてでも、親に育てられた経験はだれでも積み重ねてきています。自分が親にされてうれしかったことやつらかったことを思い出すことが1つのポイントです。
親にしかられて悔しかったとか、理不尽だと思ったけど言い返せなかったとか、しかられたおかげで理解できたとか・・・。自分の子ども時代のいろんな思い出を引っ張り出してみると、親としてあるべき姿は見いだせるのではないかと思います。
子どもも親も個性はいろいろです。豪放磊落(ごうほうらいらく)なママであれば大きな声でわっとしかるほうがその人らしく自然なこともあるでしょうし、逆にあまり大きい声を出せないママもいるかもしれません。しかり方の答えは1つではありません。自分らしく、子どもと自分にいちばん合ったコミュニケーションスタイルを見つけられるといいですね。
加藤 私のこれまでの子育てでは、感情に任せてしかってしまうことが多かったと思います。しかも、「この間も同じことやったでしょう!」と言っちゃうことも・・・。
大日向 それでも、子どもは親を点ではなく面で見てくれています。普段のママは自分を愛してくれているとわかっていれば、何回か理不尽なしかり方をされたくらいで、子どもの心は折れないと思います。親子の関係はそんなやわなものではありませんし、もっと子どもを信じてあげていいと思いますよ。
わがまま?自己主張?子どもの言うことをどこまで聞く?
加藤 ありがとうございます。ところで、子どもが「こうしたい!」と言ってきたとき、わがままなのか、主張として聞いてあげたほうがいいのか、迷うときはどうすればいいでしょうか?
大日向 私の経験をお話ししますね。昔、長女が保育園に通っていたころのことです。お迎えに行った帰りにお菓子屋さんの前を通るのですが、毎日買い与えるのはよくないと思っていました。買い物依存症になったら困る(笑)とか、親としてもだらしないんじゃないかしら、と心配な気持ちもありました。それで娘に「毎日は買わないのよ」と言うと、こくんとうなずいて「わかった」と言うのですが、お菓子屋さんの前にさしかかると、私の手をぎゅっと握りしめて、下から私の顔をじっと見つめるんです。そのまなざしのかわいいこと。私はつい「今日だけよ」と、毎日お菓子を買ってしまっていました。
結果、大人になって彼女が我慢のできない人になったかというと、それはありませんでした。非常にきちんと生きてくれています。これは私の恥ずかしい一例ですが、こうして時には決めたことを守らなかったことがあったとしても、それで子どもの人格形成に影響するものではないと思いますし、子どもとの楽しい思い出になっています。子どもの主張が納得できたら聞き入れたらいいと思いますし、親を説得できれば子どもにも自信になりますよね。子育てはルールだけではできないものですね。
加藤 どこかで、子どもを甘やかしてわがままにしてはいけないとか、親は正しく導いてあげなければ、とか思ってしまうんですよね。
大日向 正しいことは学校で教わりますでしょ。家庭では、正しいことばっかりが人生じゃないのよね、というくらいでもいいと思いますよ。
加藤 そういえば同居していて今年亡くなった実母は、私がいないところで子どもたちを呼んで、「悪いことしよう」と隠れてお菓子を食べさせたりしていました(笑)。息子たちも「おばあちゃんの部屋には悪い引き出しがある」とわかっていて、こっそり遊びに行くんです。私に見つかると、「歯磨きしたでしょ!」とか「何時だと思ってるの!」とか怒られたりするんですけど(笑)。でもそういった逃げ道も必要なんですね。
大日向 内緒のお菓子というのは狭い意味ではよくないことのように聞こえるかもしれませんが、お母さまは人としてのよい幅の持ち方をお伝えになったのですね。すてきなお母さまですね。
正しいアドバイスより、不安に寄り添ってあげたい
加藤 子どもから「お友だちとけんかした」などと相談されてアドバイスを求められたときも、アドバイスはするものの、頭の中では「正解?大丈夫?」と葛藤があります。子どもの不安を取り除いてあげたいな、と思うんですが・・・
大日向 子どもはママにいつも正しい答えや解決策を求めているとはかぎりません。それよりも、「残念だったわね」「悲しかったでしょ」と、自分の気持ちを受け止めてほしいんだと思います。
「これが正しいからこうしなさい」と言われてしまうと子どもは反論できませんし、逆に「お母さんはちっともわかってない」と思うこともあるでしょう。アドバイスはしなくても「つらかったわね」と言ってあげるといいと思います。「ママもそういうことあったのよ」と言えるのも、年長者ならではですものね。
悲しみや不安を自分ではうまく言葉にできないけれど、あるがままの気持ちを親が受け止めてくれれば、子どもはそこに力を得て自分で解決策を見つけるのではないでしょうか。親ができることがあるとしたら、その力を与えてあげることだと思います。ときには「もし何かあったらママやパパがあなたを守ってあげる。一緒に闘ってあげるからね」と伝えてあげたいですね。子どもが親は自分の絶対的な味方でいてくれると思えることが大事だと思います。
加藤 そうですね。私だって悩み事があったときにはまずだれかに聞いてもらって、話しているうちに解決策が頭に浮かんできます。子どものことになると肩に力が入って、「何かしてあげなくては」と思ってしまっていましたが、まず寄り添って話を聞いてあげたいと思います。
お話/加藤貴子さん、大日向雅美先生 撮影/アベユキヘ 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部
親として、危険なときなどどうしても子どもをしかるシーンもありますが、子どもの人格を尊重しながら、気持ちを伝えることが大切とのことです。普段のかかわりでたっぷりの愛情を伝えておくことも、親子関係の基礎になるのではないでしょうか。
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加藤貴子さん(かとうたかこ)
PROFILE
1970年生まれ。1990年に芸能界デビューして以降、数々の作品に出演。代表作として『温泉へ行こう』シリーズ(TBS系)、『新・科捜研の女』シリーズ(テレビ朝日系)、『花より男子』(TBS系)などがある。
もう悩まない! 自己肯定の幸せ子育て
幸せな子育てのためには、まず親が自分を認めること。多くの親が抱える育児悩みの原因と解決策を探り、親自身の自己肯定感について考える。子育てのモヤモヤがすっと楽になる一冊。大日向雅美著/1540円(河出書房新社)