さまざまな価値観が大きく変わったコロナ禍。「1人で育児はできない」って言っていい。心が壊れる前に、育児の価値観もチェンジを
コロナ禍で、乳幼児を育児中のママを取り巻く環境は大きく変わりました。赤ちゃん・子どもと2人だけで家で過ごすことが多くなったりして、強い閉塞感や孤独感を抱くママもいると思います。産後の夫婦の協業などをテーマにワークショップなどを行う狩野さやかさんに、コロナ禍だからこそ見えてきた、育児において大切にしたいことやママ・パパの関係性について聞きました。
コロナ禍、育児の悩みを気軽に聞いてもらえない状況が、ママの心に追い打ちをかけている
新型コロナウイルス感染症の流行から、立ち会い出産ができなくなったり、気軽に実家に帰れなくなったり、ママ友だちと交流がしづらくなるなどして、閉塞感・孤独感を抱えるママもいると思います。
「とくに赤ちゃんが低月齢のうちは、家で過ごす時間が多くなるので、新型コロナの流行前から孤独を感じるママは多かったです。しかしコロナ禍になって、赤ちゃんの月齢にかかわらず、ママたちの孤独感や閉塞感が増しています。
また新型コロナの予防のために“手を洗って!”“手すりに触っちゃダメ!”“ちゃんとマスクして!”など、子どもに注意することが多くなり、それがストレスになっているというママもいます」(狩野さん)
狩野さんが運営するパパ・ママ向けの講座やワークショップ“patomato~ふたりは同時に親になる”(パトマト)では、コロナ禍の2020年11月 ウェブアンケートを実施(回答者77人)。「産後1年以内の育児生活で大変だと感じたこと」を聞いたところ、ママたちからは次のような声が寄せられました。
●丸1年間、5時間以上続けて眠れた日が1日もなかったことがいちばんつらかったです。
●乳腺炎に何度もかかり、高熱と強い痛みを抱えながら子どものお世話をするのが大変でした。
●夜泣きが半年ほど続き、重ねて離乳食を食べない! 日中は抱っこでしか寝なかったことで、トイレや食事をする時間すらなかったこと。
●母乳が出ず、過剰なストレスを抱えました。
「こうした声は新型コロナの流行に関係なく、以前から聞かれる育児の悩みでした。しかしコロナ禍になり、実家や地域の子育て支援のシステムなど、まわりの人に頼りづらくなったのがママの心に追い打ちをかけました」(狩野さん)
パパの育児は2極化! 育児中、睡眠不足の次に大変なのは、パパと意識がずれていること
狩野さんは、コロナ禍で実家や子育て支援などまわりの力には頼りづらくなったけれど、パパには頼れるようになった家庭が増えていると言います。
「コロナ禍で在宅ワークになったパパが増えました。それによってパパとママで育児、家事の分担が進んだ家庭もあります。また“スーパーに行ってくるから、30分だけ子どもを見ていて”とパパに気軽に頼めることで、子育てのつらさが軽減したというママもいます。
しかし一方では、パパの在宅ワークが増え、1日中家にいることで表情がくもってしまったママもいました。
先ほどのアンケートの“産後1年以内の育児生活でいちばん大変だ(だった)と感じることは?”の統計をとったところ、1位は睡眠不足41.6%(32人)でしたが、2位は家族(夫)との意識共有16.9%(13人)でした」(狩野さん)
パパとの意識共有に関しては、次のような声がママたちから寄せられています。
●パパがリモートワークで家にいるのに仕事が忙しく、ほとんどパパは家事ができない状態。そのため私がはってでもしなければならない状況になり、結局、私が無理をしてしまう。
●パパが産後1カ月料理担当だったけれど、パパはこまかい性格で冷蔵庫内の整理や買い出しのダメ出しをするのでしんどかった。授乳で寝不足の私に、それを言うか!という状況が、今でも続いています。
●子どもの生活リズムは、紙に書き出してパパとは共有しているのに、パパは「少しくらいずれても大丈夫」という考え。そのため生活リズムがずれる→子どもの機嫌が悪くなる→普段すんなりできることが難しくなる→その対応は私にお任せというループに、イライラしました! 私だけで育児をしたほうが作業量は増えるけど、気持ちとしてはラクでした。
「コロナ禍になって、2人とも家にいる時間が増えた分、パパとママの子育てに対する意識の違いがより鮮明になってきました。また、ここ1~2年で意識が高くなっているパパが増えている一方で、相変わらずママにお任せというパパもいて、2極化が進んでいます」(狩野さん)
意識が高いのは、いわゆる“イクメン”といわれるパパたちなのでしょうか。
「もう“イクメン”という言葉を使う時代ではないでしょう。イクメンは、2010年の新語・通行語大賞のトップ10にも入りましたが、コンセプトは“子育てを楽しみ、自分自身も成長する男のこと”。育児参加をすることで、パパたちが明るくイキイキと成長できるというイメージです。しかし日々、疲れやイライラ、孤独を感じているママが求めるパパの育児は、そうしたことではありません。また2人の子どもを、2人で育児するのは当たり前のことなのに、わざわざ“イクメン”と呼ぶのも気になります。こうしたずれが、パパとの意識共有に問題が生じる一因です。むしろ意識の高いパパたちは自分がイクメンと呼ばれること自体に抵抗を感じ始めています」(狩野さん)
コロナ禍は、夫婦のずれを修正するチャンス! お互いに心の並走感を意識して
コロナ禍になり、狩野さんはママとパパがチームになって乗りきっていくことが、ますます必要になっていると言います。
「先ほど、コロナ禍でママたちの孤独感や閉塞感が増し、ストレスがたまりやすい状況になっていると話しましたが、ママだけでなく、メンタルヘルスの不調を抱えるパパも増えています。育児と仕事の両立や、コロナ禍で仕事がうまくいかないなど、悩みを抱えているパパも多いでしょう。
こういうときだからこそ、ママもパパも、お互いに心の並走感を持って、子育てをしてほしいと思います。お互いが“話を聞いてもらえている”という実感があるだけでも、大きな心のサポートになるはずです。心が壊れてしまってからでは遅いのです。
またコロナ禍で、働き方が柔軟になるなど、いろいろな価値観が変わりました。育児の価値観も変えられるチャンスです! 子育ては、この先何年も続きます。コロナ禍の今は、夫婦のずれを修正できるいい機会と考えてほしいと思います」(狩野さん)
お話・監修/狩野さやかさん 取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部
狩野さんが運営するパパ・ママ向けの講座やワークショップ“patomato~ふたりは同時に親になる”(パトマト)は、夫婦で参加する人が多いとのことですが、大半のパパはママに誘われて参加しています。しかし、講師や参加者などの話を聞くことでだんだん意識が変わっていくそうです。ママ・パパでチーム育児がうまくいかないときは、夫婦で子育て支援講座などに参加してはいかがでしょうか。狩野さんも自治体で、子育て支援講座などを行っています。
●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
狩野さやかさん(かのうさやか)
PROFILE
株式会社Studio947のデザイナーとしてwebやアプリの制作に携わる一方、2015年から「patomato~ふたりは同時に親になる」を運営。産後の夫婦の協業をテーマにしたワークショップや講演会を行う。また教育のICT活用や子ども向けプログラミングに関する記事も執筆。書著に『ふたりは同時に親になる 産後の「ずれ」の処方箋』(猿江商會)ほか。
『ふたりは同時に親になる 産後の「ずれ」の処方箋』
「笑っていっしょに楽しく育児をしたい」――ママ・パパともそう思っていたはずなのに、2人はなぜ出産を機に、ずれ始めてしまうのか!? 2人で同時に親になるために必要なことがわかる本。狩野さやか著/1650円(猿江商會)