9才で世界最年少プロ棋士になった藤田怜央、父に聞く子どもの才能の育て方。サポートに難しさを感じることも
2022年9月に9才4カ月で世界最年少プロ棋士になった、大阪市に住む小学3年生、藤田怜央くん。4才で囲碁に出会ってから練習に熱中し、今は「世界一」を目指しています。パパの藤田陽彦さんに、怜央くんが囲碁と出合ったきっかけや、どんなふうに育ったのか、子育てで心がけていることなどについて話を聞きました。
4才で囲碁に夢中に。10時間続けて練習するほどの集中力
――怜央くんが囲碁を始めたきっかけは?
藤田さん(以下敬称略) 囲碁の前に、オセロにハマっていたんです。テレビ番組でオセロの天才少年が紹介されているのを見て、やりたいと言い始めました。休みの日は朝起きてから昼過ぎまでずっとオセロをやっていました。それで、オセロの教室を探してみたものの見つからず、同じ白黒の石を使う囲碁はどうかと、スマホの囲碁アプリを使ってルールを教えてみると、すぐに興味を持って近所の囲碁サロンに通うようになりました。
子どもは通常9路盤という、大人が試合をするより小さな盤面から始めるんですが、怜央は4才で通い始めて2カ月後の3月には大人と同じ19路盤で打てるようになり、試合で小学校2年生に勝つほどにめきめきと上達していきました。さらに囲碁を始めて10カ月で、アマチュア初段になりました。
――短期間でそこまで実力を上げるには、たくさん練習したんでしょうか?
藤田 初めて2〜3カ月ぐらいのころは、1日6時間くらい打っていたと思います。休みの日には10時間も打っていたこともありました。4才で、そこまで長時間熱中して取り組めていることにとても驚きました。
怜央は言葉を話し始めるのも早く、記憶力もよかったんです。1才半のころには2語文を話すようになっていて、大阪メトロの路線と駅名を覚えていました。4才には都道府県の名前をすべて暗記して面積を大きい順から言ったりしていました。そのときは3才上のお兄ちゃんに負けないように覚えてるのかな、くらいに感じていましたが、そういう個性も囲碁の上達に役立っていたかもしれません。
――プロを意識し始めたのはいつごろですか?
藤田 年中のときには幼稚園の全国大会(渡辺和代キッズカップ)で準優勝し、年長のときにはくらしき吉備真備杯・大阪府予選低学年の部で優勝しました。それらの大会で活躍した子どもは、将来的にプロを目指す子が多いと聞いていました。そこから、私も怜央もプロを意識するようになったと思います。私の仕事場の鍼灸院で毎日練習をし、囲碁道場に通ったり、師匠に指導してもらったりして練習を重ねました。
――怜央くんは2020年に日本棋院関西総本部のプロ候補生の院生に認められ、2022年7月に関西棋院が設けた「英才特別採用規定」の採用試験に合格。9月1日付でプロ棋士として認定されました。これからどんな棋士になってほしいですか?
藤田 プロになったからには、まずは日本国内のタイトルを取りたいし、その先に世界一を目指しています。
そして、やるなら「柔道の父」と呼ばれた嘉納 治五郎のような人を目指してほしいと思っています。嘉納 治五郎は柔道を作り、世界に広めた人です。そんなふうに怜央が大好きな囲碁の楽しさを、たくさんの人に知ってもらえるような活躍をしてもらえたら、と思っています。
――もし、将来怜央くんが囲碁をやめたいといったら?
藤田 やるだけやりきってからやめるのはいいと思います。または、体調を崩すなどのことがあったらやめるのもしかたありません。ほかにもっともっと好きなことができてやめたい、というのもあるかもしれません。
でも、一時的に勝てないからやめたい、人間関係で悩んでやめたい、と相談されたとしたら、状況にもよりますが、できるだけ続けられるように環境を工夫したりしながら頑張らせてあげたいな、と思います。自分でやりきったと納得できるまでは続けてほしいな、と。もし囲碁ができなくなってほかの道に進むとしても、その自信や経験はきっと役立つと思います。
脳のはたらきには運動も大切。囲碁以外に大事にしていること
――家ではどんなふうにサポートしているんでしょうか。
藤田 僕は囲碁は本当に簡単なルールしか知らなくて教えられないので、それ以外のサポートをするようにしています。理学療法士という仕事柄、運動が脳のはたらきにとても大切ということを知っていますし、睡眠や食事やメンタルは家族でサポートできることですから。睡眠については毎日10時間くらいは取ってほしいと思っています。
――運動はどんなことをしていますか?
藤田 一緒に散歩や卓球をしたり、囲碁の道場にはキックボードで通ったりしています。囲碁ばかりだと座っている時間も長いし、頭を使う時間も長いので、とくに意識して体を動かす時間を作るようにしています。適度な運動によって、脳が発達し記憶力や判断力も確実に上がると思っています。
――子どもの習いごとに、つい親が熱くなってしまうこともありますが、陽彦さんは試合の感想を伝えることもありますか?
藤田 自宅には試合の話などは持ち込まないようにしています。試合に負けてしまったとき、負けていちばん悔しいのは本人だと思うし、子どもの試合の勝ち負けを親が気にしてしまうと、お互いにつらいですよね。
それでもたまに、ついアドバイスしてしまうこともあります。積極的な失敗ならいいですが、勝つために守りに入ってしまったときには少し注意することも。怜央もわかっているから、何も言わずに涙をポロポロ流しています。ただ、指摘されたほうがその後の試合に気合が入って勝ちにつながることもあるので、そのサポートの具合は難しいところです。
普段は動物が大好きで好奇心旺盛な男の子
――怜央くんは普段はどんな子ですか?
藤田 メディアに取材されるときは無口ですが、普段はとってもおしゃべりな男の子です。動物が大好きで、家にある図鑑をよく読んでいます。一緒に川辺を散歩しているときにバードウォッチングもします。図鑑に載っていた鷺、ゆりかもめ、鴨などを見つけると、夢中になって観察して帰ろうとしないので困っていますが(笑)。実際に鳥を見ても図鑑だけではわからないときは、YouTubeで野鳥の解説をしている動画を調べてみます。
怜央はとくにハシビロコウが大好き。動物園に見に行ったおみやげにハシビロコウのぬいぐるみを買ったんですが、毎晩一緒に寝るほどお気に入りです。
――図鑑や動画で一緒に調べてあげるんですね。
藤田 怜央は質問がめちゃくちゃ多いんです。気になったことはすぐ「調べてくれ」と来るので、できるだけ一緒に調べたり、答えてあげるようにしています。先日のサッカーワールドカップでも世界ランキングを知りたいと言われて一緒に調べました。
――怜央くんの子育てで藤田さん自身も世界が広がりましたか?
藤田 そうですね。鳥なんて僕はまるっきり興味がなかったけれど、怜央と一緒に調べて、川辺の鳥を見るようになってから、いつもの散歩でも見える景色が変わりました。動物園も、一緒に図鑑を見て知識を入れてから行くと面白いですよね。子どもから教えてもらうことはすごく多いなと感じます。
お話・写真提供/藤田陽彦さん 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部
パパとして子どもの好きなことにとことんつき合ってあげながら、プロ棋士のサポーターとして、食事や運動などの生活面でも怜央くんを支える藤田さん。今後の怜央くんの棋士としての活躍も、とても楽しみです。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
藤田陽彦さん
PROFILE
理学療法士、鍼灸師。大阪市中央区でふじた鍼灸接骨院の院長をつとめる。2015年には放課後等デイサービス・児童発達支援の「からだ-のう-こころ研究所 kids support」を開設。困りごとを抱える子どもたちをサポートする活動を行っている。