「人と違う個性こそ大事にしたい」発達障害を抱える児童精神科医役に挑戦【山崎育三郎インタビュー】
自らも発達障害を抱える児童精神科医と研修医のコンビが、さまざまな生きづらさのある子どもとその家族に向き合い、寄り添っていく姿を描くドラマ『リエゾン-こどものこころ診療所-』。主人公の児童精神科医 佐山卓を演じるのは、ミュージカル界のプリンスと呼ばれる山崎育三郎さんです。山崎さんに、発達障害を抱える医師の役作りや人と違う個性について考えることなど、話を聞きました。
いちばんやわらかい声で話すことを意識した
――ドラマの主人公 佐山先生と山崎さん自身が何か共通するな、と思うところはありますか?
山崎さん(以下敬称略) 音に敏感なところでしょうか。佐山はチェロを弾くのが趣味で、チェロのやわらかな音を奏でながら、自分の心を穏やかに安定させているように思います。僕も音フェチといいますか、音楽をやっているので、きれいな音ややわらかい優しい音が好きです。
自身も凸凹(でこぼこ)(=発達障害)を抱えている佐山は、子どもたちと話すときにも優しい声を意識していると思ったので、僕も子どもが聞いて安心できるような、自分の中にあるいちばんやわらかな声で話すことを意識しました。
――そのほかに役作りで工夫したことはありますか?
山崎 脚本家の吉田さんから、佐山が幼少期からどんな特徴があるかなどこまかなプロフィールが書いてある分厚い資料をもらったので、それを基に演じています。
撮影ではASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠如・多動症)当事者の方が動きや目線などの指導をしてくれています。撮影の合間にその方に話を聞きながら、身体的な動作の特徴などについても教えてもらいました。たとえば佐山は、診察のときには子どもやそのママとちゃんと話せるけれど、プライベートでは初対面などの慣れない女性と話すときは目線を合わせて話すことが苦手、といったこまかい部分まで教えてもらいながら、役作りに取り入れています。
体のかたさや動きのぎこちなさを体操で表現
――佐山先生は“さやま体操”というオリジナルの体操をルーティンにしているそうですね。
山崎 毎日のルーティンをしないと落ち着かないのは凸凹の特性の一つなのだそうです。佐山の診療所は山奥にある設定なので、ロケ現場も自然豊かで空気が本当にきれいなところです。そういう環境で決まった時間にこの体操をすることで、佐山は自分自身の呼吸や心を整えているんだと思います。
でも彼は体がかたくて、“さやま体操”もちょっと独特な動きです。体や関節がかたく、自分が思ったように体を動かせないのも、佐山の凸凹の特性なので、それが“さやま体操”の動きに表れています。体の使い方のぎこちなさや腕の動かし方も当事者の方に教えていただきました。ただ僕は2022年11月までミュージカル『エリザベート』があって、ついキレのある動きになってしまうことがあり、監督からは「カッコよくならないように」と指導されました(笑)
常に人と違う何かを探してきた
――凸凹を抱える人たちは、言葉や物事の見え方やとらえ方が一般的な人と違うこともあるようです。山崎さんは佐山先生を演じて、そういった個性に対して考え方が変わったことはありますか?
山崎 うーん、変わったということはあまりないかな・・・。むしろ自分自身はエンターテインメントの世界で生きてきて、人と違う個性や考え方こそ大事したいと常日ごろから思っています。
ミュージカルの舞台に立ったり、コンサートで全国ツアーをやったりといろんな活動をしている中で、どうしたらファンの方やお客さんに楽しんでもらえるか、と日々考えています。その打ち合わせで「次はこんなことをやってみませんか?」といった提案に、スタッフみんながそろって「いいですね」というものはおもしろくない気がしてしまうこともあります。「何それ?」とか「それは難しいんじゃないですか」と違う意見が出ることにこそチャンスや成功があるんじゃないかと。
――みんなと同じ予定調和よりも、違うことにこそおもしろさがあると?
山崎 エンターテインメントは、ハングリー精神や反発心、あるいはネガティブな感情などから生まれるものだと思っています。だから凸凹が大きいほど、可能性が広がる仕事なんじゃないかな。自分自身も常に人と違う何かを探してきたと思っています。
子どもの姿は、大切なものを気づかせてくれる
――撮影現場で子役たちとかかわる中で、どんな刺激を受けますか?
山崎 お芝居をする上で、何も作らずにただそこに存在するって、いちばん難しいことだと思います。でも子どもたちはまっすぐにうそのない言葉で演じていて、その姿に心が動かされます。子どもたちのお芝居を見ていると、「自分もこういう風にできたらな」と勉強になる瞬間がたくさんあります。
僕ももともと子役でしたが、子どものときに歌ったり、お芝居したりすることを純粋に楽しんでいた感覚や、その瞬間の表現は宝物だと改めて感じます。子どものときは見るものすべてが新しくてワクワクしていたのに、大人になるにつれて年齢や経験を重ねると、心が動きにくくなったり感動することも減ってしまっているんじゃないかなって。子どもたちのお芝居は、いちばん大切なものは何かを気づかせてくれる気がします。
お話/山崎育三郎さん 撮影/アベユキヘ 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部
取材時に「たまごクラブひよこクラブ〜♪」とたまひよのCMメロディを美しい声で口ずさんでくれた山崎さん。「ぜひたまひよ世代のママやパパに見てほしい作品。ママやパパの心に寄り添うドラマにしたい」と話してくれました。
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山崎育三郎(やまざきいくさぶろう)
PROFILE
1986年、東京都出身。2007年ミュージカル『レ・ミゼラブル』のマリウス役に抜擢。以降『エリザベート』『モーツァルト! 』など数多くの舞台に出演。ドラマ代表作に『下町ロケット』(2015年・TBS系)、連続テレビ小説『エール』(2020 年・NHK)、大河ドラマ『青天を衝け』(2021年・NHK)などがある。実写映画『美女と野獣』では、野獣の日本語吹き替え版を担当。日本テレビ系『おしゃれクリップ』ではMCを担当。
金曜ナイトドラマ『リエゾン-こどものこころ診療所-』
1月20日(金)より、全国テレビ朝日系にて毎週金曜 夜11:15〜0:15放送。(※一部地域で放送時間が異なります)累計120万部を突破し、「モーニング」(講談社)で現在も連載中の大人気同名漫画が原作。自らも発達障害=凸凹(でこぼこ)を抱える児童精神科医と研修医が、生きづらさを持つ子どもと親に正面からまっすぐ向き合う、感涙必至の医療ヒューマンドラマ。