治療法がない難病・色素性乾皮症と診断された2歳の息子。防護服を着ての生活では、まわりの視線が痛いことも。それでも、未来を信じて今を生きる【体験談】
生後6ヶ月のとき、2万2000人に1人の難病“色素性乾皮症”(※1)と診断された新貝海陽くん(2歳1ヶ月)。
日光に当たると、激しい日焼けとなって皮膚がんにつながるため、全身を防護する必要があります。
「海陽は重い症状なので、成長するにつれて転びやすいなどの神経症状も出てくるんです。初めに表れるのは聴力の低下なので、“うみひー”と声をかけて反応があると “今日も聞こえているな”ってすごくうれしくなるんです」そう話すのはパパの篤司さん。
治療法がなく、寿命が約20年~30年と言われる病気とともに生きる海陽くんとご家族。普段の暮らしぶりや、診断から約1年半を経過した最近の心境などを、ママの真夕さんとパパの篤司さんにお聞きしました。
特集「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。
日光に当たらないように注意する毎日
海陽くんの万全な紫外線対策は、室内外を問わず必要です。紫外線測定器で紫外線量の確認をしたり、屋外では帽子や防護服、手袋などが必須アイテム。
海陽くんの顔をすっぽり覆う、紫外線をカットする透明フィルムつきの帽子は市販品がなく、真夕さんの手作りです。
でも、透明フィルムは曇りやすく、海陽くんの視界を遮ってしまうのが悩みどころのようです。
「紫外線カット素材でできた帽子に、透明フィルムを縫いつけています。海陽が自分で帽子を外して肌が露出しないように、フィルムの裾にゴムを通して体にフィットさせています」(真夕さん)
夏の紫外線対策はとくに大変で、「とにかく熱中症が怖いです」と話す真夕さんと篤司さん。どうやって対策しようかと毎年悩むと言います。
「太陽に1㎜でも当たると日焼けして肌が真っ赤になるので、真夏でも帽子の上にフードをかぶり、靴下を手袋代わりに使います。フードをかぶらないと、首のすき間から紫外線が入ってきてしまうんです」(篤司さん)
室内に差し込む紫外線もシャットアウト
紫外線対策は、海陽くんが過ごす自宅や旅行先の宿泊施設などでも欠かせません。
「自宅の窓や屋根、車の窓にも紫外線をカットするフィルムをつけています。
旅行先での紫外線対策はなかなか大変で…。見晴らしのいいホテルに泊まっても、直射日光が部屋に入らないようにカーテンで締め切り、窓も開けません」(篤司さん)
これから迎える、海陽くんの幼稚園の入園にも大きな課題があります。
「上の子が通園中の幼稚園に、来年度から通えるようにお願いしているんですが、幼稚園の窓にも紫外線をカットするフィルムを貼っていただかないといけなくて…。
貼るタイミングや費用の工面などをどうするか調整しています。入園前にやらないといけない課題は山積みです」(真夕さん)
「海陽にとっては、僕たちから離れて過ごす初めての場所になるので、どうやって紫外線対策をしていくのがいいかと…。幼稚園では外での活動も多いと思うので、シミやそばかすができやすくなるかなと心配しています」(篤司さん)
防護服なしで遊べる時間を作るために
海陽くんの紫外線対策は、日の出時刻と日の入り時刻の確認もあると篤司さん。どうしてなのでしょう?
「日の出時刻と日没時刻の30分前から1時間くらいなら、防護服なしで外で思いきり遊べるんです。だから、毎日必ず調べます。
たとえば、日没時刻30分前だとまだ明るいんですが、紫外線を気にしなくても大丈夫で。ただ、紫外線測定器で紫外線量を確認するのは欠かせません。
静岡県は、年末だと16時ごろには外に出られるんですが、夏は雨でも18時半まで外出できなくて…。夏はいちばん嫌いな季節かもしれません」(篤司さん)
「何??」っていう視線はいちばんつらい…
海陽くんが防護服を着て出かけると、すれ違う人からの視線や掛けられる言葉にしんどさを感じることがあると話します。
「“何アレ?”“そこまでコロナ対策しなくてもいいんじゃない?”“暑いのになんでそんな恰好をさせてるの?”などと言われることも多いんです。
妻は気にせずに対応していますが、僕はうまく立ち振る舞えなくて…。周りの方からの“何??”っていう視線はいちばんつらく感じます」(篤司さん)
「ワッペンは写真L版サイズで、“この子は太陽に当たれない病気だから特別な帽子をかぶっています。ご質問があったら聞いてくださいね”みたいな内容を書いているんです」(真夕さん)
“これから起こる現実をきょうだいにどう説明するか”が悩み
海陽くんには7歳のおねえちゃんと5歳のおにいちゃんがいます。
「上の子2人は年子で親友みたいな間柄で。自分たちよりも小さな弟は“守って大切にしなきゃ”という意識を持っているみたいです。弟が日光に当たれないことをわかっていて、サポートしてくれる頼もしい存在でもあります」と真夕さん。
その一方で、真夕さんは大きな悩みを抱えています。
「今は日光に当たれないけど、そのうち治る病気だと上の子2人は思っているようで…。
耳が聞こえなくなったり、体を動かせなくなってしまうことを理解できていないんです。
長女はもうすぐ小学生なので、だんだん理解していかないといけないかなと思っていて。どのタイミングでどうやって話そうかと悩んでいます」(真夕さん)
常に矛盾の中で生きている今
色素性乾皮症の診断から下りてから約1年半が経過。
真夕さんと篤司さんに今の心境を尋ねると、“常に矛盾の中で生きている感じ”と教えてくれました。
「心では“海陽の病気は治る”と信じて生きていますが、行動は“治らない前提”でなんです。
たとえば入園・入学の手続きは、2~3年前から準備を進めていく必要があるので、明るい未来を見て生きているつもりだけど、現実的には長く生きられないと言われているので、“治らない前提”で動かなくちゃいけなくて…。
“治る”希望と“治らない”現実。常に二面性を持って生活しているので、矛盾の中で生きている感覚です」(真夕さん)
現実的な問題として、海陽くんは3歳ごろから始まると言われている聴力の低下に備え、定期的に聴力検査も受けています。
「聴力検査は全身麻酔をして、脳波を見ながら行うんですが、現実を見据えて考えると“この検査になんの意味があるの?”と思えてしまうんです。“聴力が衰えてきたとわかっても、治療法はないのに…”って」(篤司さん)
“治療法が見つからない”理由
診断を受けた病院で、真夕さんは医師に質問を投げかけたと言います。
「不躾で恥ずかしいんですが、“なんで治らないんですか”“なんで病気がわかっているのに治療が進まないんですか”と質問したんです。先生は“研究に時間がとれない”“薬を1つ申請するのに何年もかかる”と。
素人考えなんですが、“時間の問題が解決できれば、先生方は治療の研究に打ち込めたり、薬ができるの?”って思ってしまうんです」と真夕さん。
この厳しい状況は、診断から約1年半たった今も変わりません。
「専門の先生がいないか、とことん調べましたが、国内にこの病気に詳しい医師は少ないと思います。少なくても、静岡県内では僕たちがいちばんこの病気について知っていると思います」(篤司さん)
海陽くんの病気の進行が始まるのは6歳ごろと言われています。
「海陽は今2歳なので、あと4年でなんとか治せるところまで行き着かなくてはいけないんです。どうにかして治したい!」(真夕さん)
海陽くんは、小児慢性特定疾病(※2)の認定を取得していますが、紫外線対策にかかる費用はすべて自費。自治体などからのサポートはありません。
今を精いっぱい生きて未来につなげる!
真夕さんに子育てで大事にしていることを尋ねると、
「海陽は病気があっても、きょうだい3人平等にかかわります。特別扱いはしません。
成長するにつれて衰退していく病気なので、今まさに海陽は伸び盛り。長くても30年しかない人生を見たとき、今がいちばんいろいろなことを吸収したり遊べる時期なんです。
だから、今を楽しく過ごし、いろいろな刺激を与えてさまざまな力を伸ばしていけたらと。
きょうだいと仲良く遊んだり、遊びを充実させて、1つでも多くのことを身に着けてほしいなと思っています。
この先、衰退していくことになっても、それまでに経験したことがあればあるほど、海陽の中に残るものも多いと思うので、今を精いっぱい生きることで未来に活かしたいと考えています」(真夕さん)
「病気を治したいという思いもあるんですが、病気のことを知ってもらいたいという思いも強いです」と篤司さん。
海陽くんやご家族に向けて、まず私たちができることは、正しく理解することではないでしょうか。理解者が増えるほど、難病が難病でなくなる日が近づくかもしれません。
取材・文/茶畑美治子
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
※1遺伝病で、A~G群という8つの型がある。多くは紫外線に当たると肌がやけどのように赤く腫れ、しみができて皮膚がんになりやすい。A群では、成長とともに聴力や身体機能の低下などの神経症状を発症する。
(難病情報センターのHPを参照してまとめたもの)
※2 長期にわたって命の危険を脅かし、症状や治療期間も長く、生活の質を低下させる慢性的な疾患であること。高額な医療費の負担も長期間続く疾患であること。
(小児慢性特定疾病情報センターのHPを参照してまとめたもの)