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「どうして手がないの?」と聞かれ、上手く答えられなかったことも。義手を使い始めて少しずつ前をむけるようになった父母の想い【医師監修】

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翔太くんが1歳のころ、手先の丸い義手をつけて練習している様子。

東京都に住むアニメーターの向井貴之さん(仮名・44歳)と、会社員の美幸さん(仮名・48歳)の長男翔太くん(仮名・8歳)は、生まれたときに心臓疾患と先天性左上肢形成不全の症状がありました。貴之さんと美幸さんが翔太くんの手を心配に思っていたことや、義手と出会ってからのことについて話を聞きました。全3回のインタビューの第2回です。

「これからどうなるのか」「いじめられないか」と不安ばかりだった

2014年に生まれた翔太くんは、心臓に穴があいている病気で生死をさまよいました。さらに左腕が短く手首から先が欠損した先天性左上肢形成不全の症状もありました。生後4カ月のころに東大医学部附属病院(以下東大病院)で心臓の手術を受け成功しましたが、貴之さんと美幸さんは、次に手が短いことがとても心配になったそうです。

「小さく生まれて、さらに心臓に疾患があった息子ですが、心臓の手術が成功して退院し、順調に成長してくれました。ただ、私はずっと息子を公園に連れていくのが怖かったんです。公園で会った子どもなどに『おててどうしたの?』って聞かれたらなんて答えよう?とか、一緒に遊んでくれるのかなとか、いじめられちゃうんじゃないかと不安が先走って思い悩んでいました。

実際、外出したときほかのお子さんに『なんで手がないの?』と聞かれると、ただ不思議だから聞いているとわかるんですけど、初めのころは答えるのもしどろもどろでした。近所のおばあちゃんが声をかけてきて『かわいいわね〜、あら、でもおててがない・・・』と聞いてはいけないことを聞いてしまったと気をつかわれたり、『今はいろんな技術があるからきっと大丈夫よ』と励ましてくれる人がいたりしても、なんて答えていいかもわからなくて」(美幸さん)

そんな中で、美幸さん、貴之さんは、入院中に小児用義手の存在を教えてもらい、同じ病院のリハビリ科で翔太くんが義手をつける練習をすることを選びました。

1歳4カ月で義手を使い始めてから、少しずつ前を向けるように

保育園の運動会で、パパの貴之さんと一緒に競技に参加する翔太くん。

翔太くんの左腕は、ひじから先がV字のように曲がっていて、手首の先の手のひらや指がない状態です。ひじが深く曲がったまま伸びない症状もあって、これも問題でした。

「息子の練習は曲がった肘を伸ばすためのバネ付きの装具をつけることからスタートしました。それが2015年2月、息子が9カ月のころ。並行して、どういう義手を作るかを検討して義肢装具士さんに作ってもらい、2015年9月、息子が1歳4カ月から実際に義手を使い始めました。

いちばん初めに作ったのは手の部分が丸い形の装飾用義手でした。義手をつけて両手の長さをそろえることで、座っているときに左の義手でも体を支えられるようになり、立ち上がるときも両手がつけるのでスムーズになりました。上肢形成不全の子どもはみんなそれぞれ手の形が違うので、義手はすべてオーダーメイドになります。義肢装具士さんが新しい義手を作るときに手先の型を取って調整してくれたり、作業療法士さんが使うための練習をしてくれたりします」(美幸さん)

翔太くんの義手を作ったり練習をするために病院に通う中で、おててがないことのさまざまな心配を相談することもできたのだそうです。

「先生や作業療法士さんに悩みを話すと『おてての質問にこういうふうに答えている人もいますよ』『おててがなくてもこういう工夫をすることもできますよ』と元気づけてくれたり、さまざまなアドバイスをくれたり・・・。

悩みながらもいろんな人とやり取りをするうちに、『息子が少しでも生きやすくなるために、協力してくれる方々と一緒に義手を使って工夫していけば大丈夫』と思えるようになり、少しずつ自信が持てるようになりました」(美幸さん)

貴之さんも、左腕が短い、左手がない翔太くんの将来について不安がたくさんあったと言います。

「これからどうなるんだろう、と想像がつかず落ち込むこともありました。いろいろ調べたし、いろいろ考えました。前向きになれたのは、息子が1歳のころ、先生の紹介で参加したセミナーで先天性上腕形成不全の大人の人の話を聞いたことがきっかけです。子どものころどう思っていたか、どういう考えで生きてきたか、これまでどんなことがあったか、といった話をしてくれたんです。まだ息子の気持ちは聞けないけれど、先輩の経験談を聞けたことで、息子もきっと大丈夫、と感じられてとても励まされたし心強かったです」(貴之さん)

「義手は翔太くんのおてて」と大切にしてくれたお友だち

遠足で手をつなぐときには年上のお友だちが手のつなぎ方を工夫してくれました。

職場復帰をする美幸さんの仕事のこともあり、翔太くんは2015年の4月、11カ月のときに保育園に入園しました。
保育園探しは、看護師さんが常駐である園や医療的ケアが必要な子どもの受け入れ実績がある園を20園ほどまわり、なんとか見つかったと言います。

「息子が入園したのは11カ月のときです。義手が完成して家でしばらく練習してみて安全面の確認をしてから、保育園の先生に協力をお願いして保育園でもつけさせてもらうようにしました」(貴之さん)

装飾用義手は2カ所の面ファスナーで固定するだけの簡単なしくみです。

「義手はつけている時間が長いほうが早くなじむので、家でも寝るとき以外はつけていました。保育園でも、先生方がすぐつけ方を覚えてくれて、登園時につけていくと、昼寝のときにはずし、起きたらまたつける、など昼寝のとき以外はほとんどつけてくれていました」(貴之さん)

「保育園の先生方の協力は本当にありがたかったです。保育園で過ごす日中の長い時間にずっと義手を使って過ごしていたから、つけることが当たり前になったんだと思います。3歳ころには息子も自分でささっとつけられるようになっていました。息子は年長のときに眼鏡もかけることになったんですが、義手より眼鏡のほうが抵抗して嫌がったくらいです」(美幸さん)

保育園で0歳のときから一緒に過ごしていたクラスメイトたちは、翔太くんの手のことや義手のことも、当り前のように受け入れてくれたと言います。

「保育園の先生が『義手は翔太くんの大事なおててなんだよ』と話してくれていましたし、息子が自分で義手をつけはずししている様子を見て、お友だちは『翔太くんは大事なおててをつけているところだね』と自然にわかってくれていたと思います。

水遊びのときに息子が義手をはずして置いておくと、お友だちが『翔太くんのおててがぬれちゃうからお水がかからないようにしよう』などとみんなで注意してくれ、大事な体の一部として扱ってくれました。
またお散歩などで手をつなぐときには、翔太の左義手の手首を持つとお互い歩きやすいことを発見したり、右手側に回ってつないでくれたり、子どもたちなりにどうすればできるかと、自然に方法を探してくれていたこともとってもうれしかったです」(美幸さん)

【藤原清香先生より】義手を使うのは、視力が悪い人が眼鏡を使うのと同じ

自宅で過ごすときは義手を外していることが多いそう。翔太くん8歳のころ、愛猫とゴロゴロしている様子。

腕の形がほかの子と違うという特徴があることと、その上で義手も使う翔太くんに対して、保育園で先生もお友だちも普通に翔太くんへ対応してくれています。
見慣れない特徴や障害に対して、初めて見る人はどきっとするかもしれませんが、視力が悪い人が眼鏡をするのと同じで、翔太くんが義手を使っていることをあたりまえに受け入れてもらえているのだと思います。
子どもの成長と共に、社会の中での活動範囲も広がり、まわりの人との交流が増えていきます。腕の形がほかの子とは違う翔太くんですが、腕の形のことも、義手を使っていることも含めてその子なりのスタイルを周囲にも理解してもらうことはとても大切です。また、子どもにとって日々の成長の過程でさまざまな事を経験することが大切なので、「腕の形がちがうから」、「きっとできないだろうから」、「できないことに傷つくかもしれないから」、だから「やらなくていいよ」という配慮ではなく、なんらかの危険が伴うわけではないのであれば、本人がやってみたいという気持ちやチャレンジする機会を大切にし、見守ってあげる、あるいは背中を押してあげることが大事だと思います。

写真提供/向井貴之さん・美幸さん 監修/藤原清香先生 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部

翔太くんが使っている能動義手は、まだ日本では数名しか使用していないそう。周囲のお友だちがけがをしにくいような形状で、物をつかむための開き具合などを調整して作った特別仕様のもの。指先は肌色の樹脂製で軽量のため幼児でも操作しやすく、シールを挟んだりこまかい動きができるのだそうです。

●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

藤原清香先生(ふじわらさやか)

PROFILE
東京大学医学部附属病院リハビリテーション部 准教授。リハビリテーション科・整形外科・義肢装具専門医。一般社団法人ハビリスジャパン理事。北京パラリンピック日本選手団帯同医、東京パラリンピック選手村総合診療所サブチーフマネージャーも務める。2012年にカナダへ留学し、子ども用の義手について学び、帰国後現職。小児の義手とリハビリテーション診療を専門としている。

『いろんなおててとぼく』

生まれつき左手に障害がある男の子「さつきくん」が、義手という大切な相棒とともに成長する物語。「さつきくん」が義手を使っていろんなことに挑戦する姿が描かれています。売り上げの一部は一般社団法人ハビリスジャパンの活動を通じて手足に障がいのある子どものために使われます。藤原清香・いつきみどり著/1500 円(一般社団法人ハビリスジャパン)

『いろんなおててとぼく』(絵本はここから購入できます)

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