【3歳児健診とは?】今までの乳児健診との違いは? 医師は何を見ている? 指しゃぶりや滑舌について相談する人も
定期健診では1歳6カ月健診以来になる3歳児健診。すでに保育園に通い慣れた子がいる一方で、これから幼稚園に通い始めるという子もいるでしょう。お友だちや先生など家族以外の人と接する機会が増え、言葉でコミュニケーションが上手になる時期です。3歳児健診では医師はどんなところをチェックしているのでしょうか。これまでの乳児健診とはどう違うのでしょうか。子どもの発達に詳しい、小児科医の綾部敦子先生に聞きました。
主に「集団生活に入る準備ができているか」をチェック
1歳6カ月までの乳児健診は、身体の発育や運動の発達の確認や、先天的な疾患のスクリーニングが主な目的です。一方、3歳児健診で重視するのは、集団生活に入る準備ができているかどうかを診ることです。
「3歳児健診では、家族以外の知らない人とコミュニケーションがとれるかどうかを重視して確認します。今は保育園に0歳から入る子も多いですが、3歳になってから幼稚園に入る子も一定数います。初めての集団生活に入る前に、単に言葉が出ているかだけでなく、よく知らない人である医師からの質問や指示を理解し、答えられるかどうかを診るいい機会なんです。健康面や食事や排せつなど生活面の自立なども診て、集団生活に入る準備ができているかを確認するのが、3歳児健診の主な目的です」(綾部先生)
ただ、家族以外の大人とあまり接する機会のなかった子や人見知りの強い子もいるでしょう。初対面の医師から質問や指示をされたときにすんなり応じることができない子もいるかもしれません。
「たしかに内向的で人見知りのある子もいます。それも個性ですよね。まだ集団生活を経験したことのない子で、付き添いの親が『うちの子、緊張しているようです』などと言うこともあります。その場合は、質問に言葉で答えられなくても、うなずきで返すか、視線がしっかりこちらに来るか、おびえ方の強さなども含めて診ています。健診は試験ではないので、答えられないからダメということはありません。3歳児健診のときに言葉でうまく受け答えができない子も、その後の集団生活に問題なくなじむことも多いです。ただ、様子が気になる場合には『後日、集団に入って何か心配事があれば相談してね』と伝えることもあります」(綾部先生)
これまでの乳児健診とは異なり、尿検査、視聴覚検査が加わる
3歳児健診の実施内容は、自治体や担当する医師によって若干の違いがあり、個別か集団かによっても異なりますが、問診、身体計測、内科診察が行われるのが基本です。歯科検診は歯科で受けることができます。
「尿検査と視聴覚検査が加わるのも、3歳児健診の大きな特徴です。検査項目が身体の発育、目や耳などの疾患や異常の有無、心や言葉の発達の状態など多岐にわたるため、受診時に慌てることがないよう、家庭での準備が必要です。一般的に、事前に問診票の記入や視力や聴力の検査をしておくこと、当日朝の採尿が求められます」(綾部先生)
問診票の内容を診ながら、医師が問診を行います
問診票の質問は、自治体によって異なりますが、主に家族構成や既往疾患、予防接種歴、生活や食事の習慣、運動発達、心や言葉の発達、排せつの問題、視聴覚についてなどです。それを見ながら、医師が診察します。
「問診の内容は、担当する医師によって異なりますが、発達に関する質問が多くなります。『会話でやりとりできますか?』『落ち着きがないと感じますか?』など、知的発達症や自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症(ADHD)の可能性を念頭に置いた質問項目があります。当院では診察時に名前や年齢を聞くほか、色や物の大小を判別できるか、〇×を書けるか、イラストの表情を見分けられるか、聴診器を体に当てるとき服を上げるよう指示すると、まくってくれるかなどを診ます」(綾部先生)
尿検査では腎疾患の可能性などをチェックしています
尿検査では、尿たんぱく、尿潜血、尿糖を確認します。ほとんどの場合、当日結果が出ます。
「尿たんぱくと尿潜血については陽性・陰性の組み合わせにより腎疾患を、尿糖に異常がある場合はI型の糖尿病を疑います。病気の疑いがある場合は、一回の検査で診断するのではなく、二次検査を行う自治体が多いです。
採尿が難しい場合は小児科に相談して尿パックをもらうといいです。性器まわりに貼りつける仕様で、おしっこをするとそのままビニール袋にたまってスムーズに採れます」(綾部先生)
視聴覚検査は、家庭での検査を求められることが多いです
事前に家庭で視聴覚検査をするときは、指示書を見ながら正しく行いましょう。問診で家庭での検査結果を確認し、問題があれば改めて検査することになります。
「視力はランドルト環といって輪の一部が欠けているものから距離を取り、上下左右のどこが欠けているかを子どもに答えてもらいます。ただ、言葉の理解が追いつかないと見えていても質問にうまく答えられない子もいます。そのため、当院がある自治体(さいたま市)では2023年4月から3歳児健診を行う施設では『スポットビジョンスクリーナー』という機器が導入され、全ての子で近視、遠視、乱視などの屈折異常、斜視などのスクリーニングができるようになりました。
先天性の難聴はすでに新生児の聴力検査で発見されているはずなので、3歳児健診では、中等以上の後天性の難聴がないかを確認します。事前に自宅で行う検査として、ささやき声や口元を隠しながら単語を話して聞き取れるかを確認します。聴力検査ではありますが、単語が理解できているかの確認もできます」(綾部先生)
健診で発達障害が気になる場合は、就学前健診前に診察を
健診当日は問診票、採った尿、母子健康手帳を持参し、指示のとおりに健診を受けます。子どもには事前に「3歳になったから、どれくらい大きくなったかお医者さんに診てもらおう」などと簡単に説明しておくと、むやみに不安にさせずに済むでしょう。
「3歳児健診ではコミュニケーション能力の発達を中心に子どもの成長を確認するほか、低身長などの発達の問題や、乱視など目の屈折異常なども診ます。
健診で発達の状態が気になる場合、当院では『様子を見ましょう』とは言わず、学年が切り替わるタイミングで再び診察を受けるようすすめています。就学前健診は集団健診ですし、2年ほど間が空いてしまうので、経過をみておきたい子もいます。必要に応じて、早めに療育施設や専門の医療機関につなげられるというメリットもあります」(綾部先生)
健診は医師に子どもの成長を診てもらうだけでなく、ママやパパから普段から育児で悩んでいることを相談できる場でもあります。
「当院で3歳児健診のときに多い相談は『指しゃぶりがやめられない』というものです。指しゃぶりは、日中も頻繁にしているなら、おもちゃや折り紙を渡すなど、口から指をはずせるような工夫をすることをおすすめしています。寝る前の指しゃぶりは自分でやめようと決めないとやめるのが難しいので、『4歳になったから』とか『年中になったから』とか、区切りのいいタイミングで『そろそろやめてみない?』などと本人と話をするのもいいと思います。
また、『滑舌が悪い』というのもよくある相談です。言葉は理解できている様子で集団生活に入ったことがなければ、まずは集団生活に入るようすすめます。聞いたり話したりといった機会が増えると、滑舌が気にならなくなる子も多いです。
そのほかにもいろいろな相談が寄せられます。もしママやパパが滑舌だけでなく、言葉の理解の遅れや育てにくさを感じていれば、健診で医師に相談するといいでしょう」(綾部先生)
監修/綾部敦子先生 取材・文/永井篤美、たまひよONLINE編集部
3歳児健診では、これまでの乳児健診とは異なり、子どもの社会性を含めて診察します。発達の様子が気になる場合、発達を促す働きかけを行う療育などの支援を受けられますが、言葉がある程度理解できる3才ごろからが適当と言われています。
●記事の内容は2023年4月の情報であり、現在と異なる場合があります。
綾部敦子先生(あやべあつこ)
PROFILE
ゆうすずこどもクリニック副院長。小児の発達診療を専門とし、東京都立城北特別支援学校学校医、埼玉県立蓮田特別支援学校巡回医、埼玉県南部保健所子どもの心の健康相談相談医などを歴任。日本小児科学会小児科専門医・小児科指導医、日本小児心身医学会認定医、日本小児保健協会所属。二児の母。
多機能の子育て支援施設「アンチクラムジーステーション」を運営し、人それぞれが持っている、いろいろな「ぎこちなさ」をやわらげるプログラムを提案している。